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花はどこへ
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しおりを挟む待ち合わせ場所には、すでにライアンとビリーが立っていた。ライアンの親方に3シリング渡し、ビリーが持っていた売り物のクレソンの束を丸ごと買い取ってやると、ようやく植木鉢が盗まれたという現場に案内してもらうことができた。
とにかく彼らは貧しさゆえに、常に稼いでいなければならない立場なのだ。対価を払わないと、レイモンドの好奇心のお供をする余暇の時間など持ち合わせていない。
着いたのはビリーの家があるという、ごみごみした街区の一画だった。
もともとはそれなりにちゃんとしていたであろう、三階建てのレンガ造りの建物が何軒も、肩を並べるようにして建っている。
しかし今では壁のレンガは欠けたりひびが入っていてもそのまま放っておかれ、煤で黒く汚れている。
あちこちの窓から突き出した棒には、干すために安物の生地の下着が恥ずかしげもなくぶら下がっていた。
そしてその合間を縫うように、ひっきりなしに子供の泣き声や誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。
こんな場所に足を踏み入れたのは、モリスはさすがに初めてだった。今すぐ引き返したい気持ちになってレイモンドに視線を送ったが、こちらは反対に、好奇心で目が爛々と光っている。
モリスは頭を抱えたくなった。
建物の狭い入り口を入り、急で幅のない階段を三階まで上がると、一番奥の部屋が、ビリーの家族全員が住む家だった。
ちゃちな鍵を開け、なかに入ると、そこはせいいっぱい小綺麗にはしてあったが、いかんせん家族六人が住むにはあまりに狭い空間だった。
さいわい今はみんな働きに出ていて、誰もいなかったので、閉塞感はずいぶんましだった。
部屋の一番奥にある、大きな出窓がまず目に入る。
「すげえだろ」
ビリーは自慢そうだ。
たしかに、ろくな家具も揃っていないこの部屋には、不釣り合いとも言えるような洒落た窓だった。往年は、この建物もそれなりに余裕のある階層の人間たちが暮らしていたのだろう。
「ここに置いてたんだ」
ビリーは窓辺を示す。右側には用途不明のボロ布が何枚か積み上げてあったが、左側にはたしかに鉢をひとつは置けそうなスペースが空けてある。
レイモンドは近づくと、指先でそこを撫でた。
「土は残ってないようだな。それで、鉢植えがなくなったのはいつ?」
ビリーは両手の指を絡ませながら答える。
「昨日気がついたら、なかったんだ」
「気がついたら?最後に見たのはいつ?」
ビリーは、今度は頭を掻いた。
「……三日前」
その言葉に、モリスは呆れた。どうやら、本人が思っているより、細やかな世話はできていなかったようだ。
「じゃあ、盗まれた可能性があるのは、その三日間ということになるのか?家族はどうだって?」
「おいらが鉢植え育ててるなんて、誰も興味なかったんだよ。だから……」
ビリーの眉が下がる。家族の趣味にさえ無関心な家庭で暮らしているのが情けなくなったようだ。
期間が三日間となってしまうと、どうにも可能性を絞りにくい。レイモンドとモリスは顔を合わせる見合わせた。
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