君と僕達の英傑聖戦

寿藤ひろま

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第四章 ハルマの館

第18話 英傑召喚

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第一巻 第四章 第18話 訓練場に英傑が降り立つ


「うっわ!めっちゃ広い!」

翌日、宏樹はとある場所へと足を運んでいた。
そこは、辺り一面にまばらに草が残る広大な訓練場だった。
「こんな場所があるんだ…」
飛行機の滑走路や東京にある国立競技場でさえも比較にならないほど大きい敷地には、奥の方に豆粒ほどに小さく見える丸く赤い円盤のようなものがあり、ところどころに動いている戦車のような影も見えた。
…これだったら色々できそう……

こんな敷地はまず自宅の近くでは見たことがない。
というより、そもそも宏樹の住んでいる国にこんな場所はおそらく存在しない。
…確かに異世界だな………
そう言われれば全て合点してしまうのがなんとも不可思議だ。
そんなことを思いながら敷地の中を少し散策していると、どこからか聞き覚えのある音が耳へと入ってきた。

「この音…!」
宏樹が後ろを振り向くと、人が乗った一両の大きな戦車がこちらに向かって来ていた。
戦車は宏樹から大体10mくらい離れた場所に止まり、乗っていた人物が降りて来た。
「待たせたわね、宏樹君」
戦車に乗っていたのは黒と灰色の軍帽を被り、金色の肩章があしらわれた黒い軍服に身を包んだ安奈だった。
そんな姿の彼女が言った。
「さ、始めましょうか」
宏樹はこれから、この広大な訓練場を使って敵と戦うための訓練を始めることとなる。



✳︎  ✳︎  ✳︎

遡ること1日前…。

「ありがとうございます!」
ようやく戦闘のための訓練が受けられることになった宏樹は、アルフに頭を下げた。
その時。

「では、彼は私が指導をいたします。よろしいでしょうか?」
キッチンから戻った安奈がそう申し出た。どうやら安奈が訓練に付き合ってくれるというのだ。
「え…、いいんですか安奈さん…?」
今の宏樹は彼女のことを気遣えるような立場ではないからその反応はやや変だったが、医者である彼女は忙しいんじゃないのかな?という直感がそう言わせた。
宏樹がそう問いかけてから数秒ほど場が静まり返っていたが、アルフがゆっくりと口を開く。

「…そうか…。任せるぞ」
「感謝いたします」
アルフはそう言って筆立てに刺しておいた筆を手に取り、再び何かの図面を描き始めた。
こうして、宏樹は安奈からの指導を仰ぐことになったのである。

✳︎  ✳︎  ✳︎



「さ、始めましょうか」
戦車から降りて来た安奈が宏樹にそう告げる。
ところが宏樹は何も答えず黙っていた。
「…?宏樹k…」
「めちゃめちゃカッコいいじゃないっすか!」
宏樹は食い気味にそう言って安奈の軍服姿を褒めちぎった。
「まあそうね。この服は歴史に興味のある私が、特注で作らせたものなのよ」
「そうなんですねぇ~」
安奈によるとこの服は彼女自身がデザインしたもののようで、独輪という現在のムンストで実際に使われていた軍服をモチーフに作ったお気に入りの一枚なのだそう。

「無駄話もほどほどに、そろそろ始めるわよ?」
「は、はい!」
軍服を褒められた彼女は少しばかり微笑んでいたが、すぐに気を取り直し訓練へと移ることになった。


「それじゃ訓練を始める前に…。まずは少し練習をしましょうか」
安奈はそう言ってある場所を指差し、そこに向かって歩き始めた。
「練習…ですか?」
「そうよ」
宏樹が置いていかれないように彼女についていくととある場所へと辿り着いた。
「ここって…もしかして…」
「なんとなくわかるんじゃないかしら」
そこには6m幅くらいに整備された道が広がる、レースコースのような場所だった。


「あなたに今からやってもらうのは操縦の訓練よ。でもその前にまずは『英傑の召喚』から教えるわね」
「英傑の召喚…?…英傑って召喚するものなんですか…?」
宏樹はそもそも『英傑』と呼ばれる存在が一体どういうものなのか、まだぼんやりとしか把握できていなかった。
「英傑っていうのは知っている通り、あなたに宿っている戦車のことよ。他の言葉で言うなら闘神、化身あたりかしら」
「化身…」
そう言われた宏樹はなんとなく理解した。
「あなたの指示で砲撃を放ち、あなたの意志で動かすことができる戦車、それが英傑なの」
「そうなんですね」

英傑に関する話が終わった後、安奈は英傑を呼び出すための方法を教えてくれた。
「まずは私が手本を見せるわ。少し見ててね」
そう言った彼女は十歩ばかり前に進んだかと思うと左掌を首元に据え、右掌を上空へと翳した。
そして次の瞬間。
「うおっ!!人玉…!」
なんと彼女の手の中に、これまでに幾度となく見てきた青白い色の人玉が出現した。
その人玉はあっという間に戦車大くらいの炎の塊となり、安奈がその場から離れることで炎は地面へと降り立った。
「まあ、こんな感じね」
彼女がそう言うと燃える塊は頂上部から少しずつ火が消えていき、砲塔、主砲、車体、履帯と。
炎に包まれていた戦車がその姿を現した。

…やっべぇ…超絶カッコいい…!
出現したのは少し前に調べたことのある戦車で、ムンストで主力として使われていた「Panther」だった
これがまた、男子の心を揺さぶるほどにカッコいい見た目なのだ。
目を輝かせながらそれを眺める宏樹は、自分が訓練を受けていることを半分以上忘れていた。
「さ、次はあなたの番よ」
「はい!やってみます!」
そう言われた宏樹はそのハイテンションのまま、見よう見まねで「Panther」の左横に立ち彼女と同じ動きをやってみた。
「あ、あれ…?」
しかし宏樹は、安奈と同じように英傑を召喚することができなかった。
翳し上げる手を逆にしてみたり、両方の手を上げてみたりしてみたが一向に人玉は現れない。
そうこうしていると、安奈がアドバイスを飛ばしてくれた。
「念じるのよ。心の中で」

「心の中で…?」
宏樹は最初そのアドバイスの意味がわからなかったが、ふと英傑に庇われたあの時のことを宏樹は思い出した。
…俺を守ってくれ英傑…!!!………うおっ!!?
宏樹がそう心の中で念じると。突如として周りの地面が青い炎に覆われた。
その炎はたちまち高さを上げ宏樹の周りを包み込むように燃え広がった。
それから燃え上がる炎によって宏樹の体はマンション二階くらいの高さまで持ち上げられた。

「成功よ」
安奈がそう言うと、「Panther」の時と同じように炎が少しずつ消え中からあの時の戦車「KV-2」が姿を現した。
「やっぱり、これが俺の英傑だったんだ…」
KV-2カーベードゥヴァ…。旧クビンクで使われていた、陣地突破用の戦車ね…。にしても…」
安奈は現れた宏樹の英傑を見るや否や少し表情を曇らせた。
「どうかしました…?」
「…ううん、なんでもないわ。早速始めましょうか」
なんだか少し気になったが、彼女も召喚した戦車に乗り込み訓練が始まるようだったから、邪魔しないためにも宏樹は何も聞かなかったことにした。

「それじゃ、召喚の次は操縦ね」
ブゥンブゥゥンブゥゥゥンブゥゥゥゥン……!!ガゴン!ブルルッッンン!!!ゴゴゴゴゴゴゴゴ
安奈はそう言いながら、「Panther」の発動機を始動させた。
真横でゴウンゴウン唸りながら動く発動機の音は、凄まじい迫力があった。
「次はあなたの番よ!」
「はい!」
…KV-2、始動…!!
そう言われて宏樹は先ほどと同じように心の中でそう命じた。すると…。
ボルゥン!!ゴゴゴゴゴウン…ゴゴゴ……

KV-2の発動機は白煙を上げながら動き始めた。
「動きました!」
「もう慣れてきたわね」
…念じて召喚…念じて発進…。ということは…!
「安奈さん!次は砲撃の訓練ですよね!」
「いいえ、次は操縦の訓練よ」
「あ…。そ、そうでしたね…」
宏樹は少々気持ちがはやっていた。
普段目にすることのない現象を目の当たりにしているという非日常感もそうだが、何よりそれを共有しあえる仲間に出会えたという実感が…


今になってとめどなく押し寄せ、気持ちが昂っていたのだ。
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