ゆびきりげんまん

奈良井 竜

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「ゆびきりげんまん」舞台台本版

第三幕

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    街中。人ごみの中。智弘、熾帆、登場。反対側から、実琴が駆けてくる。
    音楽、FO。

実琴 「ごめぇーん。・・・遅刻・・・。」
熾帆 「大丈夫。私達も、今来たとこだし。ねー智弘。」
智弘 「(キョロキョロしながら)ん? ああ。」
実琴 「? 智弘、どーしたの?」
熾帆 「あー。それはね。」

    海斗(かいと)(カイル)、のんびり歩いて登場。

智弘 「あー来た来た。遅いって。」

智弘、海斗を連れに向かう。

熾帆 「今日はね。実琴に紹介したい人がいるんだ。」
実琴 「紹介? って! またぁ!? もういいよー。」
熾帆 「まーまー。そー言わないで。
    出会いなんて待ってたって来ないんだからっ!」
実琴 「えー。」

    実琴、海斗を見て、止まる。

実琴 「カ・・・イル?」
海斗 「俺は、んーな珍妙な名前じゃねぇ。」
智弘 「海斗! どーしてお前わ~。
   (実琴に)あ、コイツ、口は悪いけど、イイ奴だから!」
熾帆 「楡崎(にれざき)海斗くん。智弘の大学のサークル仲間。」
海斗 「何? さっきから人の顔、直視しやがって。失礼な女。」
智弘 「海斗!」
実琴 「・・・べ・・・別に、ちょっと知り合いにそっくりだったから、
    ビックリしただけ。」
海斗 「ふ~ん。そんなに似てんだ?」
実琴 「ありえないくらい。(独り言)・・・まさか・・・ね。」

実琴、何かに気付いたかのような表情。

実琴 「・・・ねぇ、貴方。ええと、楡崎君?」
海斗 「ん?」
実琴 「まさか・・・とは思うけど。あのカイル・・・とか言わないよね?」
海斗 「は? だから、俺はそんな珍妙な名前じゃねぇーよ。」
実琴 「本当に? ひょっとして、記憶ないとか・・・。
    えーと。私の顔、見た事ない?
    どっかで会ってるかもしれないとかっ!」

    海斗、吹き出して笑い始める。

海斗 「すっげぇー!! 今どき、そんなナンパ台詞、使うヤツいねーし!!」
実琴 「なっ!! そんなんじゃないってばっ!! ホントに私はっ!!」
海斗 「しかも逆ナン! すっげぇー! 古すぎてもう化石レベル!!」
実琴 「かっ! ・・・もういい!! 帰る!!」

    実琴、駆けて行く。

熾帆 「実琴ぉー!!」

    熾帆、実琴を追いかけていく。

智弘 「海斗! 実琴は、俺と熾帆の大事な親友なんだぞ!!
    ちゃんと謝れ!!」
海斗 「あー? (笑ったまま)なんでだよ。 面白いって褒めてんじゃん。」
智弘 「だから! お前は、言葉が悪いってんだよ!!
    ほらっ! 追いかけるぞ!!」

    智弘、海斗を無理やり連れて行く。

海斗 「化石女、面白くてめんどくせー。」
智弘 「はいはい。気に入ったんなら、もっと分かり易い表現しろって。ったく。」

    病院。ざわめき。赤ん坊たちの泣き声。
    数組の家族(夫婦・男性のみでも可。)が、乳児室を覗く。
    海斗が、駆け込んでくる。通りすがりの医者を捕まえる。

海斗 「あの! 昼に運ばれた楡崎実琴ですがっ!!」
医者 「あー、楡崎さんのご主人ですか? おめでとうございます。
    元気な男の子ですよ。」
海斗 「そーじゃなくてっ!」
医者 「はい?」
海斗 「いや。それもなんだけど!
    その! 妻の容体はっ? アイツ、元々身体弱くて!!」
医者 「ああ。大丈夫ですよ。母子共に元気です。
    今、奥さんは、疲れて休まれてますから、
    先にお子さんにお会いになられてはいかがですか?」
海斗 「え? ・・・あ・・・ああ。・・・ハイ。」
医者 「(笑ながら)ビックリするほど元気な男の子ですよ。
    お父さんに似たんでしょうね。」
海斗 「え!? お父っ・・・あ。」
医者 「しっかり頑張ってくださいよ? お父さん。」
海斗 「はい。」

    医者、去っていく。
    海斗、深く一礼。乳児室へと視線を向ける。
    近づき、覗いて、赤ん坊を確認する。

海斗 「やっと・・・会えたな。ウリ。」

    赤ん坊の泣き声が、大きくなっていく。


                     ―――――― 幕。  


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