ゆびきりげんまん

奈良井 竜

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「ゆびきりげんまん」舞台台本版

第一幕

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    街中。人々が通り過ぎる中、心細げにさまよう少女。
    やがて、疲れたように座り込みうつむく。
    以降、一幕中、通行人等が絶えない状況。
    (ただし、メインキャラの達の存在は、完全無視。)
    天遣(てんし)4人組登場。
    (3人に、ウリがオマケのごとく、くっついている状態。)
    少女に気が付き、遠目で、3人がごそごそと、何か打合せなのか、
    もめた様子。
    ウリは、その様子を見ているが、やがて飽きたように、
    少女に近づき、隣に座り込む。

ウリ 「ひと、いっぱいいるね~。」

    少女、ウリの存在に驚き、顔を上げてウリを見る。
    一方、ウリの声で、もめていた3人が気付き、慌てる。

ウリ 「(少女を見て)あ、かわいい。」
少女 「(今にも泣きそうな声で)・・・あなた。・・・だぁれ?」
ウリ 「僕? 僕は、ウリ。」
少女 「ウリ?」
ウリ 「そう、て・・・」

    ジブリ・イズラ、慌ててウリをその場から退かす。

カイル「(さえぎる形で)お嬢ちゃん!!
    ええと・・・か・・・(棒読みで)可愛いねー。」

    ジブリ、ウリを説教中。ウリ、イズラの後ろに隠れる。

少女 「・・・おじ・・・(考えて)おにーさん、だれ?」
カイル「(わざとらしく)あはは。・・・賢明なお嬢ちゃんだ。
    いい子は好きだぞ。」
少女 「おじさん、だれ?」

    間。

カイル「お兄さん(強調)と、イイトコロに行かないか?」
少女 「(即答)やだ。」
カイル「そんな事言わないで。とっても楽しいところだよー。」
少女 「おじさんみたいな人、『へんたい』って言うんでしょ?」
カイル「へん!? ち…違うぞ! 俺はっ!! て・・・」

 ジブリ・イズラ、カイルを押さえつけ、少女から離れる。

イズラ「(少女に聞こえないように)カイル!
    相手は女の子なんだから。」
カイル「だからって、あんな生意気なっ!」
ジブリ「まーまー。小さくても、あくまでも女性だ。
    優しく接するのがコツだろう。」
カイル「あ!? じゃあ、ジブリ。お前がやってみろよ!」

    ジブリ、咳払いして、少女の元へ。

ジブリ「(跪いて)可愛いお嬢さん。俺と一緒にそこのカフェで、
    パフェでもご一緒しませんか?」

    間。

少女 「・・・(2mほど這うように離れて)・・・変態。」

    ジブリ、フリーズ。 カイル・ウリ、笑う。
    イズラ、困った仕草で、少女の横へ。

イズラ「ココ、寒いっしょ? 身体もうまく動かせないんじゃない?」

    少女、首を横に大きく振る。

イズラ「ココに1人でいると、そのうち動けなくなっちゃうぜ?」

    少女、更に大きく首を振る。

イズラ「嘘を付くと、もっと動けなくなるしぃ?」

    少女、首を横に振りかけて、止める。

イズラ「俺達が、もっと暖かいトコに連れてってやるよ。」
少女 「ママが・・・、知らないおじさんには、
    ついて行っちゃダメって言ったもん。」

    イズラ、困ったように後方の3人を見る。

ジブリ「(咳払いした後)そうだな。確かに『知らないおじさん』はダメだ。
    でも、俺達は『知らないお兄さん』達だから、大丈夫だ。
    ママに怒られない。」
少女 「そんなの、『へりくつ』だもん。」
ジブリ「おや? 凄いな。そんな難しい言葉、知っているとは。」
少女 「ママが・・・そう言って、いっつも、みっちゃんのコト怒るもん。」
ジブリ「君は、いつも『へりくつ』言うのかい?」
少女 「違うもん。みっちゃんは、ただお注射が嫌いなだけだもん。」
イズラ「あー。注射って、痛いよなぁ。」
少女 「お薬も嫌い。苦いし、飲んだあと、おなか苦しくなるし。」
ジブリ「なるほど。つまり君は、注射をしたり薬を飲まなくて済むよう、
    色々と屁理屈を言うわけか。」
少女 「そんなこと! ・・・ない。」
イズラ「だからぁ、嘘つくとー。」
少女 「・・・だって、もう無理だもん。何やっても、治らない。もうヤダ。」

    少女、泣き出す。

ウリ 「あーあ。泣いちゃったぁ。」
カイル「だから、ガキは嫌なんだよ。」
イズラ「仕方ないって。本来、こんな小っちゃい子が、理解できる状況じゃないし。
    この子はまだマシな方だと思うぜ?」
カイル「マシでも、泣かれんのだけは、御免だ。」
ジブリ「そうは言っても、投げ出すわけにはいかないだろう?
    どんな幼子でも、俺達の担当だ。」
カイル「あーーー! めんどくせーなっ!!」

    カイル、泣いている少女を、無理やり引っ張り抱えて(担いで)、
    連れて行こうとする。

少女 「やだぁー!! 離してぇ!!」
イズラ「カイル! ダメだってっ!!」
少女 「ひーとーさーらーいー!!」
ウリ 「カイルー!! 離してあげて!! 可哀そうだよー!!」
少女 「へんたぁーーーい!!」
カイル「うるせぇ! お尻ぺんぺんするぞ!!」
少女 「いーーーーやぁーーーー!!」
イズラ「カイルってば、それこそ変態だって!」
ウリ 「ジブリぃ~、カイル止めてよぉ~!」
ジブリ「仕方ない。この際。とりあえずは、ココから連れ出すことが先決だ。」
ウリ 「でも、こんなの・・・僕、嫌だよぉ!」
ジブリ「ウリ。そうは言っても、緊急事態だ。許せ。」
ウリ 「そんなぁ~~~!」
実琴 「なぁ~にを、やっとるかぁ~~~~~!!」

    実琴、ハリセンを手に登場。カイルを勢いよく激打する。
    カイルよろける。
    その隙に、イズラ、少女救出。
    
実琴 「ふぅ。(ひと汗拭き) 人助けは、気分がいいわぁー。」

    ウリ・ジブリ、実琴を見て固まる。
    イズラ、少女の無事を確認し、実琴を見る。

イズラ「あ。」

    イズラ、2人同様、そのまま固まる。

カイル「ったぁー。何しやがっ・・・!?」
実琴 「何よ!! 誘拐魔!!」
カイル「ゆ・・・誘拐魔だぁ~!? 一体、誰に向かって!!」
実琴 「アンタよ!! アンタ!! このド変態!!
    (少女に駆け寄り)大丈夫だった? 変な事されてない?
    怖かったね~。」
カイル「おいっ! お前、聞き捨てならねぇな!!」

    実琴に駆け寄ろうとするカイルを、イズラが引き止める。
    実琴、少女を背中にかばう。

イズラ「カイル! ダメだ!! この子は!!」
カイル「うっせぇ!」
ウリ 「ダメ! 絶対ダメ!!」
カイル「よりにもよって、この俺に向かって、誘拐魔だの、ド変態だのと・・・」
実琴 「間違ってないでしょ?」
カイル「違うわっ!!」
ウリ 「ジブリ! 何とかしてぇ!!」
実琴 「だったら、なんだってゆーのよ!?」
カイル「俺はなー!!」
ジブリ「カイル!」
カイル「天遣(てんし)だ!!」

    間。 ジブリ・イズラ、頭を抱える。

実琴 「・・・・・・は? 今・・・何て?」
カイル「て・ん・し!! だ。」
実琴 「・・・・・・。(深くため息)嫌よね。
    春になると、こーゆー頭の沸いた・・・」
カイル「(さえぎるように)嘘じゃねえ!」

    実琴、しみじみと、カイルを見る。

カイル「何だ! その残念そうな顔はっ!」
実琴 「いや・・・。黙ってれば、一応、それなりに、
    見れる顔してるのになーと・・・。」
カイル「勝手に哀れむな!! お前、すっげぇ失礼だぞ!」

    実琴、少女の手を引いて、立ち去ろうとする。

カイル「おいコラ! 何処行く!?」
実琴 「色んな意味で危険なヤツと、これ以上同じ空気吸う気、無いわ。」
カイル「何だと!」

    実琴、完全無視。

カイル「おいコラ! 無視ンな!!」
ジブリ「(実琴に聞こえる様に)ほっとけばいい。
    どうせ、彼女も迷(まよ)い子だ。結局はココへ戻ってくる。」

    実琴、立ち止まる。

実琴 「・・・どういうこと?」
ジブリ「言葉通りだが?」
実琴 「それって・・・。この変な世界の事、言ってる?」
ウリ 「おねーさん。ひょっとして、ココが普通じゃないって気付いてる?」
実琴 「あたりまえでしょ? 人は結構いるのに、誰も私が見えないみたいだし!
    何処に向かっても、辿りつくのはココ!!
    そう、この場所。・・・気がオカシクなりそうっ!」
イズラ「ふ~ん。それなのに、やっと見える俺達に出会えたのに、
    そーゆー態度とるんだね。」
実琴 「それはっ」
イズラ「(気にせず続けて)すべて、初対面のその子の為? すごいね。キミ。」

    実琴、押し黙る。

ウリ 「おねーさん、名前は?」
実琴 「・・・実琴。」
ウリ 「やっぱり。」
実琴 「え?」
少女 「みっちゃっんも!!」
実琴 「え?」
少女 「みっちゃんも、ミコトだよ!!」
実琴 「・・・どういう・・・こと?」
イズラ「キミ、ツイてる。ココに来るコで『ミコト』は、すべて俺達の担当だ。」
実琴 「担当…って。」
カイル「あったま悪ぃな。この『ミコト』は。」
実琴 「うっさいわねっ! ド変態!」
カイル「なっ!?」
ジブリ「まーまー。とりあえず、ココから出たくはないか? 2人の『ミコト』。」
少女 「出たい!! みっちゃん、ママのトコロに帰る!!」
ウリ 「・・・また、お注射あるよ? 薬だっていっぱい飲まなきゃいけないよ?
    それでも、帰りたい?」
少女 「(一瞬、躊躇して)帰る!!」
ウリ 「そっか。じゃ、帰ろ。」

    ウリ、少女に手を差し出す。
    少女が、大きくうなずき、ウリの手を取ると、2人で駆けていく(退場)。

ジブリ「さて、君はどうする?」
カイル「意地張っても、なんもイイコトねぇぞ?」
イズラ「カイル。ジブリも。意地悪く言うなって。
    (実琴に向かって)ほら、とりあえず出よ。話はそれから。な?」

    実琴、イズラに身体を押される形で、
    ウリと少女が駆けて行った方へ(退場)。

カイル「まったく。世話のかかる。」
ジブリ「仕方あるまい? ウリが決めたんだ。」

    カイル、疲れきったように、ジブリ、ため息交じりに退場。
    暗転。(もしくは場転。)
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