11 / 20
ゆびきりげんまん
しおりを挟む「・・・友達が、いたの。」
その始まりを・・・実琴は思い出す。
「中学の3年間、同じクラスで、大親友だった。いつも3人一緒で、楽しくて。」
きっかけは何だったのか、思い出せない。
気付いたら、良く一緒の3人だった。
周りも3人セットで扱ってきたし、休みで誰かが欠けると、その日1日は、落ち着かなかった。
「男女の区別なんてなかった。」
今にして思えば、不思議な関係だったと思う。
女子2人と男子1人の組み合わせなんて・・・。
「・・・そう、思ってた。」
それは、中学の卒業式。
いつものように、3人での帰り道だった。
高校は3人ともバラバラになってしまうけれど、でも、連絡は取りあって、遊ぼうね。
そんな他愛のない約束をして、いつもの分かれ道で、バイバイ。
その時だった。
いつもだったら、そのまま3方向に分かれるのに、その日は違った。
2人はその場に立ち止まり、実琴だけが、2人から離れる形となった。
不思議に思って振り返れば、気まずそうに、互いを見合う2人がいた。
「ごめんな、実琴。俺達、付き合うことにしたから。」
そう言う智弘に、いつの間にか熾帆が、寄り添っていた。
「実琴、ごめんね。実琴が智弘のこと好きなの分かってるけど、私、嘘つけない。実琴のこと大切で大好きだから、本当のこと言うね。」
「俺も、実琴の事、大切な友達だって思ってる。実琴の気持ちも嬉しいけど、熾帆の方が好きなんだ。」
それは、思いもかけない告白だった。
でもそれは、納得もしてしまう告白だった。
心のどこかで・・・。
「そっか」と小さく呟いてしまっている自分がいた。
「恋愛で友情が壊れるなんて、私、思わないよ。ね? 実琴もそうでしょ?」
「そりゃ、3人一緒に遊ぶ事は少なくなるけど。俺達の友情は一生だ。」
「今まで通り、3人でもちゃんと遊ぼうね!」
そう言われ、何と答えれば良かったのか。
裏切者と、罵れば良かったのか。
おめでとうと、祝えば良かったのか。
自分は、どう答えたかったのか。
「うん。・・・遊ぼう。」
色んな感情が渦巻いて、最後に実琴を支えたのは、プライドだった。
「そうだ! 高校入って、実琴にも彼氏が出来たら、今度は4人で遊ぼうよ。」
「いいな。それ。Wデート出来るじゃん!」
「そうしよ! ね? 実琴!」
ピンと背を伸ばし、傷ついてなんかいないと、笑顔を見せる。
「うん。・・・私も、がんばって彼氏作んなきゃ・・・」
智弘も熾帆も、楽しそうに、実琴の精一杯の虚勢に気付くことなく、仲良く帰っていった。
3年間、いつも一緒だったのに。
あんなにも近くで過ごしていたのに。
実琴の嘘に、気付いてくれなかった。
そう、実琴が2人の関係の変化に、言われるまで気付かなかったのと同じように・・・。
「なんなの? あの無神経さ。悔しいじゃない。別に、智弘なんて、好きじゃなかった。ただ、皆がそう決め付けたから、適当に合わせてただけ。それをネタに、おしゃべりが楽しかった。途中から、熾帆も好きだって言い出して、お互い正々堂々と勝負しよう・・・って。それが楽しかっただけなのに・・・。また3人で? 遊べるわけない。4人にならなきゃ・・・。負けないくらいのカッコイイ、素敵な彼氏作らなきゃ・・・。」
あの時、溢れ出そうになった言葉。
ぐるぐると渦巻く感情の中心で、ずっと吐き出したいと思っていた言葉。
でも、絶対に吐き出してはいけないと、戒めていた言葉。
こんな醜くて、情けない心を、誰にも見せたくなかった。
見せるわけには、いかなかった。
「見事なまでの意地っ張りだ。振られるわけだな。」
ジブリの言葉が、刺さる。
でも・・・
「・・・うん。」
それが、本当の自分だから・・・。
素直な自分の心だから、認めなきゃいけない。
「好きで付き合うわけじゃねーもんなぁ。」
イズラの言葉は、勝手に沁み込んでくる。
だって・・・
「・・・うん。」
それも、本当の心だから・・・。
大事にしたい想いだから、偽ってはいけない。
「それじゃあ、一緒に居ても、楽しくないね。」
ウリの言葉は、優しく寄り添ってくれる。
それは・・・
「・・・うん。」
自分の本当の想いだから・・・。
すぐにねじ曲がろうとしてしまうソレを、まっすぐに――。
「おまけに、男見る目も、無ぇときてる。」
「・・・う・・」
カイルの言葉に、うなずきかけるのを止める。
それだけは・・・
「・・・仕方ないでしょ? 初恋が初恋なんだから。」
貴方だけには、言われたくない。
不満げに、目の前にいるカイルを睨む。
そんな実琴に、釣られるかのように、他の3人の視線も、カイルに集まった。
カイルは、実に気まずそうに、顔を逸らす。
似合わない咳払いもして、全力で気付かぬフリを押し通す気満々だ。
そんな仕草に、実琴は笑う。
「まーったく。誰かさんが、出来もしない約束してくれたおかげで、いーめーわく。」
追撃とばかりに、そう言って見せれば、案の定、カイルの悪い癖が出てくる。
「俺はだなっ!!」
「ど・な・ら・な・い!!」
「ぐっ」
スタッカートで反撃を返せば、カイルは黙り込んでしまった。
その悔しそうな顔を見ると、つい、実琴は笑ってしまう。
ひとしきり笑った後、満足した実琴は、スッと立ち上がった。
「さて・・・と。・・・帰る。」
あっけらかんと言い切る実琴に、天遣4人、ビックリしたように彼女を見る。
「だって、ウリちゃん産まなきゃいけないし。幸せな家庭も、築けるんでしょ?」
「でも・・・その前には・・・。」
ウリが立ち上がり、言い辛そうに実琴を見上げた。
「なぁに? 産んでほしくないの?」
「そうじゃないけどっ! でもっ!!」
「うん。分かってる。でもそれって、貴方達にまた会えるって事でしょ?」
ニッコリと、そう笑んで見せれば、カイルが勢い良く立ち上がる。
「お前なぁ! そうそう簡単にっ!!」
「分かってる!! そう易々と『死』を選んだりしない。」
ジッとカイルを見上げ、目を逸らすことなく、そう言い切る。
大事な言葉。
それは、ふざけることなく、大切に告げなければならない。
カイルの目を見つめ、自分にも言い聞かせるように宣言する。
「ちゃんと生きる。」
「本当に?」
不安そうに投げかけられた言葉は、後ろからだった。
だから、振り返って、その優しい声の主・・・イズラに、ちゃんと伝える。
「うん。頑張る。」
イズラは、優しく微笑んでくれた。
その笑顔に後押しされ、実琴はカイルへと視線を戻す。
「・・・だから・・・さ。約束して?」
「ん?」
「もう、お嫁さんにしてくれなくてもいい。いくらでも怒鳴っていいから。・・・だから、その代わり、私が死んだ時は、貴方達が迎えに来て?」
たった一つだけ、叶えて欲しい我が儘。
それが、どんなに無茶なことなのか、今の実琴には分かる。
死は、死神の管轄。
彼ら天遣たちの領分じゃない。
そんなこと、分ってる。
それでも、最後のその時には、彼らに会いたかった。
「実琴・・・それは・・・」
「管轄外だなんて言わせない。ちゃあんと、おばーちゃんまで生きるから。」
こればかりは、言うことを聞くわけにいかない。
ジブリの言葉を遮って、実琴は我が儘を押し通す。
「じゃないと、老体鞭打って、回収しに来た死神達、蹴り飛ばして追い返してやる。」
先ほど、騒ぐだけ騒いでいったシャイン達を思い出す。
シャインはなかなか手強そうだが、アズとエルあたりは、何とかなりそうな気がする。
お尻を押さえて、逃げていく姿が、容易に想像できた。
実琴の無茶な要求に、カイルは笑う。
「分かった。」
「「「カイル!」」」
他の3人が咎めるも、まったく気にする様子はない。
「ほんとっ? オプションの羽根つきだよ?」
「ああ。死神よりも早く駆けつけて、大声で『ばかやろう!』って怒鳴りつけてやる。」
ニッと笑って見せる笑顔は、こんな時は心強く感じる。
実琴は、笑顔でうなずいた。
遠い遠い未来―――。
きっと彼らは、怒ると同時に、褒めてくれるだろう。
約束をきちんと守ったな、偉いぞ・・・と。
そんな気がした。
だから、自分はそのために、頑張って生きていこう。
最高の誉め言葉をもらうために。
最後の約束を、ちゃんと彼らに守ってもらうために――。
帰り道を開いたのだろう。
カイルが、実琴に手を差し出す。
その手を取ろうと、実琴が手を出せば、横から伸びてきた手に捕まった。
引き寄せられたその先を目で追えば、ウリが実琴の手を、両手で大事そうに包んでいる。
にっこりと笑うその表情には、満面の嬉しさがにじみ出ていた。
笑いながら、ウリは実琴を、そのまま引っ張って走り出す。
実琴も、そのままウリに引かれて、走り出した。
その後から、差し出した手を空のままに、カイルが慌てて追いかける。
イズラとジブリは、笑いながら、その後をついていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる