ゆびきりげんまん

奈良井 竜

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 「カイル!!」
 「カイルー!! 死んじゃやだー!」

 きれいにひっくり返ったカイルに、イズラとウリが駆けよった。
 その頬をペチペチと叩くイズラの横で、ウリは乱暴にユッサユッサと揺らす。

 「見事な、殺傷能力だな。」
 「天使も死んじゃったりするの?」

 残る二人は呑気にその様子を眺め見下ろしていた。

 「『死』という概念はないな。あって消滅・・・もしくは」

 実琴の問いに、ジブリは言いかけた言葉を飲み込む。

 「もしくは・・・何?」
 「いや。」

 カイルを一瞥し、ジブリは淡々と答える。

 「少々過呼吸になっているだけだろ。問題はない。」
 「ふーん。」
 「それで?」

 カイルたちへ視線を向ける実琴に対し、ジブリは説明の続きを促した。

 「? 何? 全部話したケド?」

 もう話は終わったとばかりに、そう告げる実琴に、ジブリは追及を緩めることなく、言葉を続けた。

 「それだけなら、まぐれで成功したとしても、すぐ戻る。『戻れない』理由を聞いている。」
 「・・・知らない。言ったでしょ? 気付いたらココにいたって。」
 「それでも、『戻りたくない』理由があるだろう? それが分からなければ、君は帰れない。」

 畳みかけるその言葉に、実琴は、黙り込む。
 様子を見つつ、ジブリは、わざとらしくため息を吐いて見せた。

 「・・・と、脅したところで、『戻りたくない』君だ。強制はしない。ご希望とあらば、お子様専用オプションを、申請してもいいが?」

 いつの間にか、意識を取り戻したカイルも含めた3人も、2人の会話を成り行きを見つめている。
 その視線の中、実琴はジロリとジブリを横目で睨みつけた。

 「ホント、嫌な天使。」

 ボソッと、そう告げれば、ジブリは似非執事なお辞儀を再現させるべく、胸に手を当て姿勢を整えた。

 「お褒めに預かり・・・」
 「褒めてない!」

 ジブリの言動を遮り、実琴は叫ぶ。

 「別に、死にたいなんて思ってない! 願った事もない! ただ・・・」

 そこまで言い切り、実琴は拗ねたようにしゃがみ込んだ。

 「ただ・・・ちょっとだけ休みたかっただけじゃない。・・・最近、本気でシンドイから・・・」

 寂しげに、そう告げた実琴に、ウリが近づく。

 「おねーさん。」

 そっと実琴の肩に手をかけ、寂しそうに声をかける。
 しかし、彼女に反応する様子は、ない。
 その様子をしばらく見つめた後、カイルが胡坐をかいたまま、わざとらしく声を張り上げた。

 「なぁ~んだ。現実から逃げてきただけか。」

 呆れたと言わんばかりに、カイルはため息を吐いて見せる。

 「カイル、言い過ぎ。」
 「知るか。俺は、ぐずぐずウジウジされんのが大嫌いなんだよ。」

 イズラの言葉にも、カイルは動じない。
 瞬間。
 実琴が立ち上がり、カイルへと近づいた。
 そして、無言のまま、彼の頬を叩く。
 誰もが、その動きに反応をすることができなかった。
 いや、一部は、しなかったという方が正しい。

 「うっさい! 悪かったわね! アンタに人の気持ちなんか分からない!」
 「そりゃそーだ。俺らは人間じゃない。天遣だもんよ。」
 「なっ! なんて天使なの!?」

 さらに振り上げた腕を、カイルの横で静観していたイズラが掴んで止めた。
 その仕草は、優しくその怒りを受け止めるようで、乱暴さは感じられない。
 一方で、ウリが泣きそうな顔で、後ろから実琴にしがみ付いた。

 「おねーさん。だめだよぉ~。」
 「単純だな。口で勝てないと、すぐに暴力に走る。」

 ジブリの言葉に、実琴の動きが止まる。

 「ジブリ。・・・カイルも。苛めたら可哀想だって。」
 「そーだよー。おねーさんが可哀想だよ~!」

 実琴の腕をそっと戻し、イズラが庇えば、ウリも2人へ文句を言う。

 「あら? 2人は優しいのね~。」

 イズラとウリを引き寄せ、実琴は2人に腕を絡ませた。
 そして、カイルとジブリに向かって、宣言する。

 「貴方達2人、もう用済み。クビ。後は、ウリちゃんとイズラ君に帰してもらうから、もうどっか行っちゃって。」
 「『ちゃん』?」
 「『くん』・・・。」

 両側から疑問ポイントが呟かれるが、お構いなしである。

 「なんだと? お前っ!」
 「怒鳴らないってや・く・そ・く!!」
 「ぐっ・・・」

 立ち上がったカイルに実琴は、厭味ったらしく言葉を遮った。
 2人を捕まえたまま、プイっと顔をそらす実琴。
 その様子を、天遣4人の表情は、各々疲れたような困った様子で見つめた。
 やがて―――。

 「いいだろう。カイル、行こう。」

 ジブリが、その言葉とともに、空間から立ち去った。
 促されたカイルも、実琴を気にしながら、立ち去る。
 その間、実琴は二人の姿を、一切見ようとしなかった。
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