猫

第一部

始まりの話

御主人様は僕とおんなじ。


御主人様のママは御主人様をひっぱたいて、外に放り出すらしい。
僕も同じ。僕を飼っている女の子は何か嫌なことがあると僕をグリグリする。そのせいで、最近は食欲もあまり出ない。


御主人様は夜の街をふらふら彷徨いて、僕もそれに合わせてふらふら、とことこ、後ろをついてゆく。

一言鳴けば、くる、と振り返って、ふにゃ、と笑って、ぎゅ、と抱きしめて、泣いてしまう御主人様。

たまにお話もしてくれる。学校というところは、悪魔の巣窟らしい。誰もが除け者にするって。怖いところだよね。
僕と御主人様は夜だけ会える。家が近いから、たまに家の窓から御主人様が見える。その時の御主人様は花が咲くように笑って、ニコニコしてるけど、その裏は全然違うことを僕だけが知ってる。僕も、女の子に呼ばれたら元気について行って、でも体を揺さぶられたり掴まれたりすると途端に大人しくなる。


僕はまだ小さな子猫だから。何もできない。

御主人様はまだ小さな男の子だから。何もできない。


いつか二人……一人と一匹で、小さなこの世界から飛び出て、大きな街で大成功するんだ。その約束は昨日、路地裏でしてくれた。