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12話
しおりを挟む第二部隊団長、ガリュツィの手元には、どこから手に入れたのか立派なカップとソーサーだ。周囲には花柄の装飾が施されており、少なくとも、通常の注文では出てこない。第三部隊の筋肉が大半の男たちでは勢い余って握りつぶしてしまいそうだ。
ガリュツィは優雅にレモンティーを口にふくんだ。温かな湯気がこちらまで立ち上ってくるため、イースは顔を歪めつつ、片手を扇いだ。
「それで、なんでわざわざ団長様から俺に報告を?」
贅沢ですね、と嫌味を込めてイースは口の端を笑わせた。話したくはない相手、というものはいくらでも存在する。彼とイースはどうあがいても、相容れない。思考回路がそもそも異なるのだ。そんなイースの心情を、ガリュツィは理解することなく、静かにソーサーの上にカップを置いて、両手を組み合わせながら微笑んだ。
「それはもちろん、僕が伝えなくても、君が勝手に調べてしまうと思ったからね」
「…………まあ」
「やっぱりか」
あの逃げたネズミ男、いや鳥男と言えばいいのか、とにかく魔法種の売人にはおかしな点が多かった。すでに第二部隊に引き渡してはいたものの、妙な胸騒ぎがした。「君の手間を少なくしてあげたんだ。感謝してほしいぐらいだよ」 まったく恩着せがましい。
「それなら、俺だけではなくミエルにもお伝えなさっては。俺よりも、あいつの方が功労者に違いない」
「ははは。なぜ私が? 君から伝えればすむ話だ」
ガリュツィは生まれながらの貴族である。人を使うことになんの抵抗もないし、人は全て自身のためにあると思っている。食堂に自分専用のメニューを置くことぐらい、なんなくやってのけるし、なんの抵抗もありはしない。彼の手元にあるカップとソーサーの保管には、料理人達が頭を悩ませていることなど知りはしない。静かにイースはため息をついた。予想していた返答だったからだ。
「それにしても、わざわざ第二部隊で薬の内容までお調べになったので? それは研究所の領分なのでは」
「もともと第二部隊と研究所では、一部業務が重なっているんだよ。研究所などなくとも、薬の配合でも調査でも、なんなくやってのけるさ。正直なところ、あそこは不要な部署、と言ってもいいだろう」
「……そのあんたたちの不手際で、こっちまで仕事が回ってきたんだがな」
「はは、手厳しいなあ!」
魔法種の売買とは、もとは第二部隊が追っていた事件だ。いつまで経ってもうまく逃げられるばかりだから、イースとミエルの第一部隊におはちが回ってきたという次第である。
「仕方ないところもあると思ってほしいな。このところ、うちの新人がいきなり辞めてしまうことが多くてね。何分、人手不足なんだ。しかしイース、さすがだね。生み出された一人目の人間は、神から与えられた幾千もの種の中から、三つの種を選びだした。それがすべて必要なものであったように、君が犯人を捕まえることができたのは、運命というものなのだろう」
はいはい、イースはスパゲッティーをくるくるとフォークで巻いた。まさかいちゃついていたら呼び寄せた、なんて言えるわけもなく、適当に聞き流した。まいどまいど、この団長はイースに絡んでくるのだ。「君はひどく優秀だ。だからこそ、あんな場所ではなく、ぜひともうちの部隊に入ってほしいと、そう願っているんだよ。君の才能を伸ばしたいんだ」 うんざりである。
「いい加減にしてくれ」
吐き出した言葉は、自身でも驚くほど硬いものだった。
「俺は、あそこを気に入ってるんだ。それをとやかく言うのはやめてくれ」
拳をテーブルに叩きつけた。高いカップが、かちゃんと音を立てて水面を揺らしている。もともと騒がしい食堂だ。イースの言葉も、周囲に溶けて消えていく。ガリュツィはまるで子供を相手にするように肩をすくめた。ひどく、恥ずかしいような、そんな気持ちで、イースは自身の唇を静かに噛み締めた。
***
その日も、イースは静かにミエルの窓を叩いた。互いに無言で彼女の服のボタンを脱がした。たゆり揺れた彼女の胸を持ち上げて、幾度かのキスを繰り返した。
「イース、あの……」
「……ん?」
つけた印は、初めてのことだ。彼女の胸元には真っ赤な花がいくつも咲いていた。イースはミエルを自身の膝の中に入れながら、彼女の肩に小さなキスを繰り返した。「……んっ、あの、イース……?」 彼は何も言わず、ただ背後から彼女の豊かな胸元をいじった。いつもはしっかり胸当てで締め付けているものだから、彼女の柔らかな胸元や、可愛らしくこちらを誘う小さな赤い頂きは、もちろんイースしか知らないことだ。
たゆたゆと持ち上げて、重たさを感じた。イースの手のひらからこぼれたそれを円状に優しく触った。耳元をうっすらと赤くさせたミエルが、顔を下に向けたまま口元から溢れる小さな声を飲み込んでいる。健気なことだ。「あっ、ひ、いやっ……!」 耐えている彼女を見たら、思わずその先をつまんでしまった。指の腹でぐりぐりとひっぱり、喘ぐ彼女を逃すまいと抱きしめて、今度は押し込んだ。
「あっ、あ、あっ、そ、そこは、だめ、イース……!」
「……嫌か?」
「い、いやじゃ、ない、けど……」
正直なことだ。きもちいい、と涙ながらにイースを見上げるミエルに、「やっぱりお前、かわいいな」 彼女の口元にキスをした。舌の絡ませ方は、イースがしっかりと教え込んだ。もう片方の手は、すでに彼女の秘所に伸びている。ぐちゅぐちゅと1つ目の関節まで入れて、抜いてを繰り返している。
「なあミエル、お前あのときのかわいいかっこ、もう一度しろよ」
「えう……?」
「スカート、履けよ。よく似合ってた」
「い、いや……」
「もっと入れてやるっていっても?」
「いやよ……!!」
任務ならばともかく、といったところなのだろうか。しかし確実に逡巡していた。ベッドの上に押し倒して、イースはミエルの手をシーツの上に縫い付ける。
「まあ、言われなくても入れるけどな」
もちろん、痛いほどに主張をしている自身ではなく、入れるものはただの指先だ。しかしそれでも、ミエルは期待と不安が入り混じった表情で彼を見上げていた。彼女が嫌がるのであれば、すでに彼の拘束などあっという間に解かれて逃げられてしまっているということぐらい分かっている。つまり、彼女もそれを望んでいる。
可愛らしい、ことに。
「力、抜けよ。……ほら、根本までずっぽりだ」
彼女の濡れそぼった膣に、イースの中指が埋もれている。
「お前の中、きついんだよ。しかしぐちょぐちょだな。そんなにいいのか?」
「イース、やめて……」
「どっちを? 言葉を? それとも指か?」
わかっていて聞いてみた。ミエルは唇を噛み締めて、首を振った。自身の顔を隠そうにも、イースに縫い留められて動かないから。と、いうふりをしている。
「指は、やめちゃ、だめ……」
「知ってるよ」
さて、と彼はゆっくりとミエルのそこから指を引き抜いた。何を言えばいいのかわからないまま、白い胸を揺らしていた彼女は、物言いたげにイースを見つめている。「ちげえよ」 人差し指と中指、“二本”で彼女のそこをいじくっている。そしてゆっくりとうずめていく。わずかな痛みに、ミエルは唇を噛み締めた。しかしそれも一瞬だ。ずぶずぶと彼の太い二本の指が埋まっていく。
ミエルからすれば、初めての感覚だった。とろけた彼女の膣に、ぴったりと埋まっている。ゆっくりと動いていた指先が、しだいに激しく水音を鳴らしていた。そしてすでに把握している、彼女の弱い場所ばかりを中の指がいじっている。
きもちいい、と一体何度彼に告げたことだろう。好きとミエルが告げる度に、イースは彼女に返事をした。彼女を拘束していたはずの片手で、ミエルを抱きしめて、ぴたりと体を合わせていた。俺も好きだと苦しく言葉を吐き出すと、ミエルは笑った。あんまりにも嬉しそうで、可愛かった。幸せだった。そして、ひどく虚しかった。
これは全て、薬で作られた感情なのだ。あと一週間ぽっちで、消えてしまう想いなのだと。
自身の感情よりも、ミエルが告げる言葉が消えてしまうことが辛くて、虚しくて、それでも彼女が可愛らしくて。
イースは静かにキスをした。長い、長いキスを幾度も繰り返して、彼女の体を抱きしめた。
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