上 下
32 / 92
チェリーの見る夢

冷たい雨1

しおりを挟む
「……待ってよ! さ、さっきのどういう意味?」

 中途半端に上着を羽織りながら店の外へ飛び出してきたちえりに合わせてピタリと足を止めた鳥頭が振り返る。

「見ててわかんねぇの?」

「わかんないから聞いてるんでしょ……」

 ムッと来るような物言いにちえりは片眉をピクリと動かした。

「長谷川が場の空気を取り持ってるってことだよ」

「……あんたって相変わらず陰では呼び捨てなのね。……って、そうなんだ。知らなかった」

 彼女らと同じチームに所属する鳥頭ならば、すでにその空気感というものを把握していてもおかしくはなく、同じフロアに居ながらも蚊帳の外感が拭えないちえりは、ますます彼女らの存在を遠くに感じてしまう。
 そして楽しそうに見えた今回の飲み会だが、自分の知らぬ社会の裏側を見たような気がして少し怖くなってしまった。

(瑞貴センパイが知らないわけない……飲み会のお誘いを断ってるとか、戸田さんとは別で会おうと思ってるって言ってたのってもしかしてこのこと……?
私、余計なこと言っちゃった……)

 ひんやりとした嫌な風を頬に受けながら出過ぎた真似をしたことを後悔するちえり。瑞貴への罪悪感から自然と視線が下がってしまった。

「お待たせぇ~……」

 いきなりテンションガタ落ちとなった長谷川を同期の女子社員が苦笑いしながら支えている。だいぶ飲んでいたのか、時折欠伸を噛みしめながらその目も半開きになっていた。

「……大丈夫ですか? 長谷川さん」

 ちえりも慌てて彼女を支えようと傍に駆け寄ると……

「あは~ん!! 若葉っち好き好き~っ!!」

 と、しがみつかれてしまう。本当に馴染みやすい長谷川に苦笑していると、何者かが彼女の襟首を掴みタクシーへ放り投げた。

「ぎゃぁあああっ!! まだ帰りたくなぁあ゙い゙い゙い゙」

 断末魔のような声を上げ、発信したタクシーの窓ガラスに顔を押しつけながら物凄い形相で助けを求める長谷川。
 可哀想だとわかりつつも思わず笑みが零れてしまう。

「はぁ……酒癖わりぃなあの人……」

「あはは……」

 パンパンと手を払いながら腰に手をあてた鳥頭。
 どうやら彼女を放り投げたのはコイツの仕業らしかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二人の恋愛ストラテジー

香夜みなと
恋愛
ライバルで仲間で戦友――。 IT企業アルカトラズに同日入社した今野亜美と宮川滉。 二人は仕事で言い合いをしながらも同期として良い関係を築いていた。 30歳を目前にして周りは結婚ラッシュになり、亜美も焦り始める。 それを聞いた滉から「それなら試してみる?」と誘われて……。 *イベントで発行した本の再録となります *全9話になります(*がついてる話数は性描写含みます) *毎日18時更新となります *ムーンライトノベルズにも投稿しております

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

強引な初彼と10年ぶりの再会

矢簑芽衣
恋愛
葛城ほのかは、高校生の時に初めて付き合った彼氏・高坂玲からキスをされて逃げ出した過去がある。高坂とはそれっきりになってしまい、以来誰とも付き合うことなくほのかは26歳になっていた。そんなある日、ほのかの職場に高坂がやって来る。10年ぶりに再会する2人。高坂はほのかを翻弄していく……。

処理中です...