20 / 92
チェリーの見る夢
一夜明けて1
しおりを挟む
――ジュージュー……
「…………」
カチャッ……トントントンッ
「…………?」
トタトタトタ、コトン
「………………?」
(……なんの音? ……毛布、気持ちいい……お布団から出たくないなぁ……)
「……? …………っ!? 毛布!?」
バチッと目を見開いたちえりは勢いよく飛び起きた。
薄らと残る記憶を頼りに己の体にかけてあった極上な手触りをその目で確認すると、間違いなく薔薇柄の毛布がそこにあった。
(み、瑞貴センパイにかけてた毛布……っ!!)
思わず匂いを嗅ぎたくなってしまう衝動にかられ、鼻息荒く毛布に顔を埋めようとした瞬間、どこからか伺うような視線に気づき顔を上げた。
「お、起きたなチェリー! 昨日ごめんな、ベッド取って」
「……っお、おはようございます瑞貴センパイッッ!! 全然いいんですっっ!!」
(……っていうか! センパイさっきまでソファで寝てたし!? 匂い嗅ごうとしたの……み、見られてないよね!? いまの見られてないよねっ!?)
冷や汗をダラダラかきながら毛布に抱き着く。
「おう! おはよっ!! まだ六時だから寝てていいけど、キッチンがすぐ傍だから起こしちまったよな」
爽やかな笑顔でこちらを振り返る彼の手にはお玉が握られている。
「ううんっ! もう充分眠ったから起きようと思ってた頃だしっ!? 顔洗ってきますね!」
急いで毛布を畳み、ソファの端へ寄せてから勢いよく立ちあがる。
「ははっ! ついでに髪の寝癖も直してこいよ」
「げ……っ!!」
言われて無造作に頭へ手をやると――……
(うわぁっっ恥ずかしい!! 明日はセンパイより早く起きてご飯の支度も顔も髪もやらなきゃ!!)
金メダルのスキージャンパーもびっくりな跳ねあがりを頭上に掲げたちえり。
寝相が悪い自覚はあるものの、ここまで跳ねてしまうと朝シャンしたほうが早そうだった。
急いでバスルームへと向かい、洗顔を含めた高速シャンプー。じっくりトリートメントを染み込ませている暇はないが、その間に歯磨きを済ませる。最後に熱いシャワーで全てを洗い流すと、これにて一件落着!!
見事な弧を描いていた髪もすっかり大人しくなり、タオルドライしたらすぐにドライヤーをかける。
「あ、化粧水とかも向こうの部屋に置きっぱなしだった……」
適度に乾いた髪へ手櫛を通すと、使われていないあの部屋へ赴き自分のバッグを開く。オイル系のスタイリング剤や化粧水らを手にし、もう一度洗面所へ戻った。
「ん~……朝これだけのことをやってからセンパイを待つには最低でも三十分は必要かな……センパイいつも何時に起きてるか聞いとかねど……」
鏡を見ながら、ふぅとため息をついたちえり。
普段ナチュラルメイクな彼女は化粧にかける時間は少なくていい。しかし寝癖の付きやすいこの髪を直すには時間をとらなくてはならない。
パパッと肌を整えたちえりは急いでリビングへ戻った。
「ごめんなさい、センパイお待たせしましたっ!」
「ん? 全然待ってないよ。 米まで研いでくれてありがとな。美味そうに炊けてる」
しゃもじを手にした瑞貴が嬉しそうにお釜をかき混ぜていた。
「ううん、私それくらいのことしか出来ねくて……」
彼に並んで朝食の準備を手伝おうとすると芳醇な香りの放つ味噌汁が鍋に、そしてふわふわなオムレツが皿に盛りつけられていた。
「わ! センパイのお味噌汁楽しみっ! オムレツも美味しそう~!」
適当なお椀を取り出し、ふたり分の味噌汁を盛り付けた。わかめとお豆腐。そして細かく刻まれたネギ。ありふれた具材たちだが、瑞貴が飾らない素の自分を見せてくれたような気がしてじんわりと嬉しい。
「オムレツはたまに作ってたけど、味噌汁作るなんてホント久しぶりなんだぜ?」
「そうなんですか?」
「うん、いつもはメインディッシュさえあれば飯終わりって感じだったからさ」
(……そっか、ひとりだとそうなっちゃうよね。そういえば一人前を作るのはすごい手間なんだって聞いたことある……)
ずっと親元で生活してきたちえりは一人暮らしの苦労を知らない。すべてはテレビで見聞きしたことや、離れている友人の話を聞くくらいの知恵しかないのだ。
「体に良くないってわかってっけど、一緒に食べる人がいないと箸もすすまないしな」
「……じゃ、じゃあっ! これからは毎朝毎晩お味噌汁作りますねっ! もちろん他のお料理も頑張りますからっっ!!」
「…………」
はりきっている自分を呆然と見つめる瑞貴に冷や汗が噴き出す。
(……あ、あれ? 私おかしなこと言っちゃったっ……!?)
しかし今さら口を出た言葉を回収することも出来ず、何が悪かったのかと思い返して。
(……っ!! 鼻毛出てるとかんねべねっっ!!??)
とたんにガーン!! と青ざめる。
お玉を鏡の代わりにして鼻を確認しようにも瑞貴の目があるため、まさかそんなこと出来るわけがない。すると――
「チェリー……いまのちょっと……」
「……は、はいっ!?」
ビクリと飛び上がったちえりは、やや顔を背けながら大きく身構えた。
「新婚夫婦の会話っぽかった」
「…………へ?」
「…………」
カチャッ……トントントンッ
「…………?」
トタトタトタ、コトン
「………………?」
(……なんの音? ……毛布、気持ちいい……お布団から出たくないなぁ……)
「……? …………っ!? 毛布!?」
バチッと目を見開いたちえりは勢いよく飛び起きた。
薄らと残る記憶を頼りに己の体にかけてあった極上な手触りをその目で確認すると、間違いなく薔薇柄の毛布がそこにあった。
(み、瑞貴センパイにかけてた毛布……っ!!)
思わず匂いを嗅ぎたくなってしまう衝動にかられ、鼻息荒く毛布に顔を埋めようとした瞬間、どこからか伺うような視線に気づき顔を上げた。
「お、起きたなチェリー! 昨日ごめんな、ベッド取って」
「……っお、おはようございます瑞貴センパイッッ!! 全然いいんですっっ!!」
(……っていうか! センパイさっきまでソファで寝てたし!? 匂い嗅ごうとしたの……み、見られてないよね!? いまの見られてないよねっ!?)
冷や汗をダラダラかきながら毛布に抱き着く。
「おう! おはよっ!! まだ六時だから寝てていいけど、キッチンがすぐ傍だから起こしちまったよな」
爽やかな笑顔でこちらを振り返る彼の手にはお玉が握られている。
「ううんっ! もう充分眠ったから起きようと思ってた頃だしっ!? 顔洗ってきますね!」
急いで毛布を畳み、ソファの端へ寄せてから勢いよく立ちあがる。
「ははっ! ついでに髪の寝癖も直してこいよ」
「げ……っ!!」
言われて無造作に頭へ手をやると――……
(うわぁっっ恥ずかしい!! 明日はセンパイより早く起きてご飯の支度も顔も髪もやらなきゃ!!)
金メダルのスキージャンパーもびっくりな跳ねあがりを頭上に掲げたちえり。
寝相が悪い自覚はあるものの、ここまで跳ねてしまうと朝シャンしたほうが早そうだった。
急いでバスルームへと向かい、洗顔を含めた高速シャンプー。じっくりトリートメントを染み込ませている暇はないが、その間に歯磨きを済ませる。最後に熱いシャワーで全てを洗い流すと、これにて一件落着!!
見事な弧を描いていた髪もすっかり大人しくなり、タオルドライしたらすぐにドライヤーをかける。
「あ、化粧水とかも向こうの部屋に置きっぱなしだった……」
適度に乾いた髪へ手櫛を通すと、使われていないあの部屋へ赴き自分のバッグを開く。オイル系のスタイリング剤や化粧水らを手にし、もう一度洗面所へ戻った。
「ん~……朝これだけのことをやってからセンパイを待つには最低でも三十分は必要かな……センパイいつも何時に起きてるか聞いとかねど……」
鏡を見ながら、ふぅとため息をついたちえり。
普段ナチュラルメイクな彼女は化粧にかける時間は少なくていい。しかし寝癖の付きやすいこの髪を直すには時間をとらなくてはならない。
パパッと肌を整えたちえりは急いでリビングへ戻った。
「ごめんなさい、センパイお待たせしましたっ!」
「ん? 全然待ってないよ。 米まで研いでくれてありがとな。美味そうに炊けてる」
しゃもじを手にした瑞貴が嬉しそうにお釜をかき混ぜていた。
「ううん、私それくらいのことしか出来ねくて……」
彼に並んで朝食の準備を手伝おうとすると芳醇な香りの放つ味噌汁が鍋に、そしてふわふわなオムレツが皿に盛りつけられていた。
「わ! センパイのお味噌汁楽しみっ! オムレツも美味しそう~!」
適当なお椀を取り出し、ふたり分の味噌汁を盛り付けた。わかめとお豆腐。そして細かく刻まれたネギ。ありふれた具材たちだが、瑞貴が飾らない素の自分を見せてくれたような気がしてじんわりと嬉しい。
「オムレツはたまに作ってたけど、味噌汁作るなんてホント久しぶりなんだぜ?」
「そうなんですか?」
「うん、いつもはメインディッシュさえあれば飯終わりって感じだったからさ」
(……そっか、ひとりだとそうなっちゃうよね。そういえば一人前を作るのはすごい手間なんだって聞いたことある……)
ずっと親元で生活してきたちえりは一人暮らしの苦労を知らない。すべてはテレビで見聞きしたことや、離れている友人の話を聞くくらいの知恵しかないのだ。
「体に良くないってわかってっけど、一緒に食べる人がいないと箸もすすまないしな」
「……じゃ、じゃあっ! これからは毎朝毎晩お味噌汁作りますねっ! もちろん他のお料理も頑張りますからっっ!!」
「…………」
はりきっている自分を呆然と見つめる瑞貴に冷や汗が噴き出す。
(……あ、あれ? 私おかしなこと言っちゃったっ……!?)
しかし今さら口を出た言葉を回収することも出来ず、何が悪かったのかと思い返して。
(……っ!! 鼻毛出てるとかんねべねっっ!!??)
とたんにガーン!! と青ざめる。
お玉を鏡の代わりにして鼻を確認しようにも瑞貴の目があるため、まさかそんなこと出来るわけがない。すると――
「チェリー……いまのちょっと……」
「……は、はいっ!?」
ビクリと飛び上がったちえりは、やや顔を背けながら大きく身構えた。
「新婚夫婦の会話っぽかった」
「…………へ?」
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
同級生がCEO―クールな彼は夢見るように愛に溺れたい(らしい)【完結済】
光月海愛(コミカライズ配信中★書籍発売中
恋愛
「二度となつみ以外の女を抱けないと思ったら虚しくて」
なつみは、二年前婚約破棄してから派遣社員として働く三十歳。
女として自信を失ったまま、新しい派遣先の職場見学に。
そこで同じ中学だった神城と再会。
CEOである神城は、地味な自分とは正反対。秀才&冷淡な印象であまり昔から話をしたこともなかった。
それなのに、就くはずだった事務ではなく、神城の秘書に抜擢されてしまう。
✜✜目標ポイントに達成しましたら、ショートストーリーを追加致します。ぜひお気に入り登録&しおりをお願いします✜✜
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる