92 / 92
ふたりで辿る足跡
エントランスから始まる王子との物語
しおりを挟む
一度部屋に戻ったちえりはクリーニング済みのスーツをクローゼットの奥へ押し込むと、そのまま急いでエントランスへと向かった。
高級ホテルとも見紛うほどに立派なエントランスのソファはとても座り心地がよく、待つ時間も快適に過ごせるほどに素晴らしかったが、いつもここにいるちえりの心は嵐のように波風だっている。
あたたかな間接照明に照らされたそこでガラス越しに外を眺める。
「センパイから……連絡来てない。迎えに行こうかな……」
まるでいまのちえりは王子様が迎えに来てくれるのを待っているしかない村の娘のようだ。
身分違いな片想い。勝手に王子へ想いを寄せる"幼馴染"ということに胡坐をかいた図々しい田舎娘。
「いっそのこと王子様を迎えに行く村の娘っていうのも有りだべか……」
迎えに来られた王子はなんと答えてくれるだろう? と考える。
「待っていたよ村娘その1? こんな物語があってたまるか! なんて……物語が崩壊してる感じが……」
なんて乏しい空想だろうと思いながらも、迎えに行こうと決心したちえりは思い切り立ち上がった。
するとその刹那――
「待たせてごめん、若葉ちえりさん。かな?」
わずかに息が上がって肩を上下させた瑞貴がはにかむような笑顔でエントランスの入口に立っていた。
「王子様……じゃなくてっ……センパイ!」
「ははっ、相変わらず面白いなチェリー。王子様って俺が?」
ゆっくり近づいてきた瑞貴はそのままちえりの体をゆったりとした動作で抱き締めた。
「わわっ!! ど、どうしたんですかセンパイ!?」
(鍋の匂いくっさーっ! とか思われてないべかっっ!! ぎょえっっ!!)
どうせなら体の隅々までお風呂で磨いてから抱きしめてもらいたい!! などと願望を呪文のように唱えながら、空いた手で瑞貴の背を抱き締める。
「回りくどいことしてごめん。俺、チェリーが好きだ」
瑞貴の優しい言葉が終わる前に、その腕は力強くちえりの体を抱き締めた――。
☆☆☆【青いチェリーは熟れることを知らない②~春が来た!と思ったら夏も来た!!~】へ続く☆☆☆
高級ホテルとも見紛うほどに立派なエントランスのソファはとても座り心地がよく、待つ時間も快適に過ごせるほどに素晴らしかったが、いつもここにいるちえりの心は嵐のように波風だっている。
あたたかな間接照明に照らされたそこでガラス越しに外を眺める。
「センパイから……連絡来てない。迎えに行こうかな……」
まるでいまのちえりは王子様が迎えに来てくれるのを待っているしかない村の娘のようだ。
身分違いな片想い。勝手に王子へ想いを寄せる"幼馴染"ということに胡坐をかいた図々しい田舎娘。
「いっそのこと王子様を迎えに行く村の娘っていうのも有りだべか……」
迎えに来られた王子はなんと答えてくれるだろう? と考える。
「待っていたよ村娘その1? こんな物語があってたまるか! なんて……物語が崩壊してる感じが……」
なんて乏しい空想だろうと思いながらも、迎えに行こうと決心したちえりは思い切り立ち上がった。
するとその刹那――
「待たせてごめん、若葉ちえりさん。かな?」
わずかに息が上がって肩を上下させた瑞貴がはにかむような笑顔でエントランスの入口に立っていた。
「王子様……じゃなくてっ……センパイ!」
「ははっ、相変わらず面白いなチェリー。王子様って俺が?」
ゆっくり近づいてきた瑞貴はそのままちえりの体をゆったりとした動作で抱き締めた。
「わわっ!! ど、どうしたんですかセンパイ!?」
(鍋の匂いくっさーっ! とか思われてないべかっっ!! ぎょえっっ!!)
どうせなら体の隅々までお風呂で磨いてから抱きしめてもらいたい!! などと願望を呪文のように唱えながら、空いた手で瑞貴の背を抱き締める。
「回りくどいことしてごめん。俺、チェリーが好きだ」
瑞貴の優しい言葉が終わる前に、その腕は力強くちえりの体を抱き締めた――。
☆☆☆【青いチェリーは熟れることを知らない②~春が来た!と思ったら夏も来た!!~】へ続く☆☆☆
0
お気に入りに追加
110
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる