青いチェリーは熟れることを知らない①

逢生ありす

文字の大きさ
上 下
87 / 92
ふたりで辿る足跡

飯が不味い相手

しおりを挟む
「……っ!」

 まさか瑞貴がそんなことを言い出すとは思わず、大きく目を見開いた鳥居は冷静さを装いながら彼に助言する。

「どこのコンビニかわかりませんし、入れ違いになったらどうするつもりです? 土地勘のないチェリーサンはたぶんここに戻って来ると俺は思いますけどね」

「…………」

 鳥居の言うことはもっともだ。
 コンビニに出掛けたかも不明な今は、無理に動いてすれ違ってしまえばより一層離れている時間は長くなってしまう。
 押し黙ってしまった瑞貴と鳥居を見つめていた長谷川が申し訳なさそうに重い口を開いた。

「……ごめんねぇ、ふたりとも。うちらが居たらちえりっちも戻りにくいよね……。って更に言いにくいんだけど、桜田っち駅まで送ってくんない? ここらへん似てる建物多いからさ~」

「……!!」

(ナイスだ! 長谷川っ!!)

 心の中で親指を立ててグッド! をした鳥居は滅多に他人を褒めることはないが、この時ばかりは直属の上司である長谷川を感心した眼差しで見つめている。

「……駅まで検索すりゃ帰れるだろ」
 
 苛立ちも相まって言葉使いが乱暴になってきている瑞貴。そんな彼を目にするのは鳥居以外は珍しく、その元凶である三浦は気まずそうに視線を逸らして壁の傍に立っていた。

「あー、いまあの駅って改築中なんですよね。ここから行くと南口は迂回しなきゃいけないはずなので――」

 瑞貴が一時(いっとき)でもこの場を立ち去ってもらうのが最善の策だったため、鳥居は長谷川に援護射撃の如く矢継ぎ早に言葉を投げた。

「詳しいならお前が行ってやれよ。ちえりを待ってるのは俺だけだろ」

「……どったの鳥居っち?」

「…………」

 瑞貴の言葉に返り討ちを食らって穴だらけになってしまった鳥居。
 壁に手をついて打ちひしがれている彼に状況を理解していない長谷川が顔を覗き込んでくる。

「んでもまぁ……ちょっと桜田っちと話したいしさ。やっぱ桜田っち送ってくれない? 途中でちえりっちと会うかもだしさ」

「…………」

 鳥居は口を挟まなくともよかったのかもしれない。
 一言もしゃべらない三浦と、まだほろ酔い気分が抜けていない長谷川、そしてだんまりの瑞貴の三人を玄関まで見送った鳥居はドアが閉まると盛大なため息をついてポツリと呟いた。


「飯が不味く感じるやつらとは二度と食いたくねぇ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

処理中です...