85 / 92
ふたりで辿る足跡
言葉がわからないからこそ。ちえりの誓い
しおりを挟む
まさか自分が退出した後の空間でそのようなことが起きているとは思わなかったちえりは、こりゃまた別な問題と直面し……聴力をフル活用させていた。
『クゥ~ン……』
「……っ!? いまの声……チェリー!?」
どこの部屋から聞こえたのかと、視界に飛び込んできたいくつかの扉を凝視する。
すると、ちえりの声がチェリーにも届いたらしく寂しそうな彼女はもう一度小さく鳴いた。
『クゥ~ン!』
愛犬家のちえりにとって、わんこの悲しそうな声や怯えている姿を見るのは何よりも耐え難く辛いものだった。
「どこ? チェリー! どこにいるの!?」
もちろんこの声はリビングにいる皆に届かないよう少しはボリュームを抑えた音量である。
鳥居隼人に断るより早く、ちえりの"寂しがっているチェリーを早く抱きしめて安心させてあげなきゃ!!"の脳は彼女の行動に拍車をかけた。
――コツコツ……
耳を澄まして彼女の声の在り処を探していると、すぐそこの扉をチェリーの爪が当たる音が聞こえて――
(ごめん! 鳥頭っ!!)
「ここねっ!」
――ガチャッ!
扉を開けると、照明を少し落とした部屋にベッドがひとつと……足元では激しく尻尾を振ったチェリーがキラキラした瞳で飛びついてきた。
「チェリーーッ!!」
「キューン! ハッハッ!!」
まるでキャンディを舐めるかのように、嬉しそうに鼻を鳴らしながらちえりの顔を舐めまわすチェリーと感動の再会を果たしたちえりもまた全身で彼女に愛情を伝える。
揉みくちゃになったダブルチェリーは一頻り戯れたところで、彼女がここに閉じ込められている理由に気づいてまた気落ちしてしまった。
「……チェリーがここに閉じ込められているのって……やっぱり私たちが来たからだよね」
(ううん、私と瑞貴先輩が一緒に住んでるのがバレないようにって自分の部屋を提供してくれた鳥頭とチェリーを犠牲にしたのは私だ……)
「ごめんねチェリー……鳥頭……」
ぎゅっとチェリーを抱きしめながら謝ると、腕の中の彼女は"そんなことないよ"とでも言うようにちえりの頬を舐めて、甘えるようにお腹を見せてゴロリと目の前に転がった。
「……なんていい子なんだろう……」
本当にチェリーが許してくれているかどうかはわからないが、可哀想なことをしてしまった分、ちえりは彼女にそれ以上の幸福を与えてあげようと心に誓った。
(言葉がわからないからこそ、伝わるだけの行動を起こさなきゃ)
そして彼女は恐らく夕食に在りつけていないであろうことに気づいたちえり。
「そうだ……」
リビングを出た際バッグを持ってきたことを思い出し、そこに放り投げていたものを引き寄せると――
「じゃーん! チェリーもこれ好き? この前お邪魔したときチラッと見えたんだ。タマもこれ大好きでさっ♪」
まさか鳥居の部屋でこれを見るとは思っていなかった。
ペットを飼っていなくとも、日本人であれば誰もが聞いたことのあるペットフードの老舗が販売している無添加のささみジャーキーである。
「これね、ちょっと火で炙ると香ばしい匂いがしてたまんないんだよね~!」
ちえりが幼犬用のパッケージを見せながら満面の笑みで彼女へ語り掛けると、自分に出されるものであることを瞬時に感じ取ったチェリーは興奮しているにも関わらず、きちんとお座りをしてその時を待っている。
「ほんとお利口さんだね。チェリー……」
こんなにいい子を悲しませていたかと思うと涙があふれてくる。
すると、"……どうしたの?"と言いたげに振っていた尻尾を止めてしまっている彼女に気づく。
おやつを前に自分がしんみりしていては、賢いチェリーはそれを察知し、いつまでも食べることができない。
「あ……ごめん! え、えっと……たぶんこのあとご飯もらえるだろうから……このくらいかな?」
チェリーの年齢や体重を考慮し、すこし控えめに手の平に出すが……チェリーはちえりの顔とジャーキーを見比べるだけで食べようとはしない。
「食べていいよ、チェリー」
と、言ったものの。
それでも我慢強くお座りしているチェリー。
「ならば!! ここはスマートに! ……よしっ!!」
そう言うと、勢いよくお尻を持ち上げたチェリーは嬉しそうにジャーキーへ飛びついた。ベロベロと匂いのついたちえりの手の平まで丁寧に舐める。
「あはっ! くすぐったいよ」
わしゃわしゃと彼女の硬めの毛並みを感じながら再び撫で繰り回す。
「残りはお前の飼い主さんに渡しておくね……」
(……戻りたくないな……)
優しい愛の塊のようなチェリーと触れ合っていると、あまりの心地よさにずっと浸ってしまいたくなる。
(……人間関係って、難しいな……)
『クゥ~ン……』
「……っ!? いまの声……チェリー!?」
どこの部屋から聞こえたのかと、視界に飛び込んできたいくつかの扉を凝視する。
すると、ちえりの声がチェリーにも届いたらしく寂しそうな彼女はもう一度小さく鳴いた。
『クゥ~ン!』
愛犬家のちえりにとって、わんこの悲しそうな声や怯えている姿を見るのは何よりも耐え難く辛いものだった。
「どこ? チェリー! どこにいるの!?」
もちろんこの声はリビングにいる皆に届かないよう少しはボリュームを抑えた音量である。
鳥居隼人に断るより早く、ちえりの"寂しがっているチェリーを早く抱きしめて安心させてあげなきゃ!!"の脳は彼女の行動に拍車をかけた。
――コツコツ……
耳を澄まして彼女の声の在り処を探していると、すぐそこの扉をチェリーの爪が当たる音が聞こえて――
(ごめん! 鳥頭っ!!)
「ここねっ!」
――ガチャッ!
扉を開けると、照明を少し落とした部屋にベッドがひとつと……足元では激しく尻尾を振ったチェリーがキラキラした瞳で飛びついてきた。
「チェリーーッ!!」
「キューン! ハッハッ!!」
まるでキャンディを舐めるかのように、嬉しそうに鼻を鳴らしながらちえりの顔を舐めまわすチェリーと感動の再会を果たしたちえりもまた全身で彼女に愛情を伝える。
揉みくちゃになったダブルチェリーは一頻り戯れたところで、彼女がここに閉じ込められている理由に気づいてまた気落ちしてしまった。
「……チェリーがここに閉じ込められているのって……やっぱり私たちが来たからだよね」
(ううん、私と瑞貴先輩が一緒に住んでるのがバレないようにって自分の部屋を提供してくれた鳥頭とチェリーを犠牲にしたのは私だ……)
「ごめんねチェリー……鳥頭……」
ぎゅっとチェリーを抱きしめながら謝ると、腕の中の彼女は"そんなことないよ"とでも言うようにちえりの頬を舐めて、甘えるようにお腹を見せてゴロリと目の前に転がった。
「……なんていい子なんだろう……」
本当にチェリーが許してくれているかどうかはわからないが、可哀想なことをしてしまった分、ちえりは彼女にそれ以上の幸福を与えてあげようと心に誓った。
(言葉がわからないからこそ、伝わるだけの行動を起こさなきゃ)
そして彼女は恐らく夕食に在りつけていないであろうことに気づいたちえり。
「そうだ……」
リビングを出た際バッグを持ってきたことを思い出し、そこに放り投げていたものを引き寄せると――
「じゃーん! チェリーもこれ好き? この前お邪魔したときチラッと見えたんだ。タマもこれ大好きでさっ♪」
まさか鳥居の部屋でこれを見るとは思っていなかった。
ペットを飼っていなくとも、日本人であれば誰もが聞いたことのあるペットフードの老舗が販売している無添加のささみジャーキーである。
「これね、ちょっと火で炙ると香ばしい匂いがしてたまんないんだよね~!」
ちえりが幼犬用のパッケージを見せながら満面の笑みで彼女へ語り掛けると、自分に出されるものであることを瞬時に感じ取ったチェリーは興奮しているにも関わらず、きちんとお座りをしてその時を待っている。
「ほんとお利口さんだね。チェリー……」
こんなにいい子を悲しませていたかと思うと涙があふれてくる。
すると、"……どうしたの?"と言いたげに振っていた尻尾を止めてしまっている彼女に気づく。
おやつを前に自分がしんみりしていては、賢いチェリーはそれを察知し、いつまでも食べることができない。
「あ……ごめん! え、えっと……たぶんこのあとご飯もらえるだろうから……このくらいかな?」
チェリーの年齢や体重を考慮し、すこし控えめに手の平に出すが……チェリーはちえりの顔とジャーキーを見比べるだけで食べようとはしない。
「食べていいよ、チェリー」
と、言ったものの。
それでも我慢強くお座りしているチェリー。
「ならば!! ここはスマートに! ……よしっ!!」
そう言うと、勢いよくお尻を持ち上げたチェリーは嬉しそうにジャーキーへ飛びついた。ベロベロと匂いのついたちえりの手の平まで丁寧に舐める。
「あはっ! くすぐったいよ」
わしゃわしゃと彼女の硬めの毛並みを感じながら再び撫で繰り回す。
「残りはお前の飼い主さんに渡しておくね……」
(……戻りたくないな……)
優しい愛の塊のようなチェリーと触れ合っていると、あまりの心地よさにずっと浸ってしまいたくなる。
(……人間関係って、難しいな……)
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる