上 下
79 / 92
ふたりで辿る足跡

絡まる指先と想い

しおりを挟む
 切なく見つめられ、ちえりは胸が締め付けられたように息苦しくなる。

「……あ、……」

(……心配することなんてなにもないのに……)

 それから鳥居隼人のことを口にしないのは彼なりの優しさなのだろう。
 そして、このカードキーを受け取ったからには今までのような言い訳は通用せず、鳥居の部屋に転がり込むなど言語道断なのだ。

「わかりました。毎日おいしいご飯作ってセンパイの帰り待ってますね!」

「ん、なるべく一緒に帰れるよう俺も頑張って仕事終わらせるよ」

 大人しく頷いたちえりに安堵した瑞貴は、さらに距離を詰めると長い指をちえりの指先へ絡め……

「……っ!」

 予期せぬ行動に目を丸くした彼女へ独り言のように呟く。

「チェリーとこういうこといっぱいしたかった。真琴がホント、羨ましくてさ……」

 楽しかった学生時代。
 しかし、瑞貴が中学に上がると"三歳違い"が生んだ隔たりはあまりに大きく、再び手の届く距離へ戻ってこれたこの奇跡をただの偶然では終わらせたくない。その想いは瑞貴もちえりも同じだった。

「私だってそうですよ! ……瑞貴センパイと一緒にいられる真琴が羨ましくて……す、すごく仲良しだし……」

 勉強する妹の傍に居る優しいお兄ちゃん。
 センパイが優しくしてくれたのだって、きっと私が真琴(妹)の友達だから……

 それを自覚するたび、胸を締め付ける寂しさが踏み出す足をその場に留まらせてしまう。
 だが、穏やかな眼差しでちえりの言葉を聞いていた瑞貴の口から飛び出てきたのは以外なものだった。

「ん? チェリーが遊びに来るときくらいしか真琴とは関わらないけど……」

「……え?」

「別に共通の趣味があるわけでもないし。あ……」

 会話の最期で何かに気づいた瑞貴。彼の視線はそのままちえりへと流れ、春風を思わせるその優しい笑みは少年だったあの頃を思わせる爽やかさが満面に広がっていく。

「……っど、どうかしました!?」

 まさかの言葉を浴びながら期待に膨らむ乏しい胸と眼差しは、その先の甘い誘いをこれでもかと待ちわびて高鳴る。

「"好きすぎて独占したい"っていう気持ちは同じかな、ってさ」

「あはは……真琴が本当にそう思ってくれてたら嬉しいなー……」

(そっかぁ、真琴は私が好きすぎて独占したいんだ……
嬉しいな……親友にそう思ってもらえるなん、……て?) 

(……んん???)

「俺はもっとチェリーのことを想ってた。だからこの再会を"偶然"で終わらせたくないんだ」

「……センパイ……」

(わたし……期待していいの?
その"想い"の先には未来があるって、自惚れてもいいの――?)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

Perverse

伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない ただ一人の女として愛してほしいだけなの… あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる 触れ合う身体は熱いのに あなたの心がわからない… あなたは私に何を求めてるの? 私の気持ちはあなたに届いているの? 周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女 三崎結菜 × 口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男 柴垣義人 大人オフィスラブ

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

処理中です...