純白のマリアと漆黒のまりあ

逢生ありす

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煉獄(れんごく)業(ごう)

葛藤

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「……下界ってなに……?」

 急激に意識が浮上すると、思わずそう口走っていたまりあ。
 視線を彷徨わせると部屋の大きさのわりには随分小さな窓から朝日が差していた。

「窓あったんだ……」

 目を閉じていても太陽の光を肌に感じれば自ずと人が目を覚ますように、なににも頼らず意識を覚醒させることができた彼女は心地良い朝をひとり迎えていた。

(よくわかんない夢を見たわりには……ぐっすり眠った気がする。昨夜はお父さんと話してて、それからどうしたんだっけ……)

"よいしょ"と巨大なベッドを抜けると、改めて部屋を見回してみる。

「っとその前に、……いま何時だろう」

 テレビか時計を探してみるが時間を確認できそうなものはなく、諦めて部屋をでようと扉に手をかけた。


――ガチャッ


「……!」

 自分の力がノブへ伝わる前に開いた扉に思わず目を見開いた。

「……あ、おはよう、まりあちゃん。ごめんね、驚かせちゃったかな?」

(びっくりした……)

 一人暮らしも長くなりつつあったまりあ。
 寝室からでて誰かと出くわすなど、ここ何年もなかったためそのような耐性はゼロに近いことがわかった。

「だい、じょうぶ……」

「ははっ、びっくりしたっ! て顔してる」

「あ、はは……」

(……っ心まで読まれてる!?)

「うん? もう少し眠る?」

 口数の少ないまりあがまだ眠いと思ったらしい聖は、さりげなくその肩を優しく抱く。

「ううんっ、今日はなんだか目覚めもよくて……あっ!」

 なにかを思い出したらしい彼女はキラキラした瞳で僕の腕をすり抜けていく。

「……うん」

 まりあの温もりを失った手が寂しそうに降下し、彼女の姿を追いかけた体はリビングへたどり着いた。

「……ありがとう。麗さんもまりあちゃんの手から貰えて嬉しそうだね……」

「そんな……、私にはこれくらいしかできないから……」

 ベッドで眠る麗の横に跪き、朧が用意した小瓶を空にした彼女はそっと彼の手を両手で包む。
 まるで祈るように彼の回復を待つその姿に聖の胸は息苦しさに見舞われた。

「……っ……」

 立ち止まったきり何もしゃべらない僕に気づいたまりあが小鳥のように愛らしく小首を傾げている。

「……お父さん?」

「…………」


 ――まりあの瞳に僕はどう映ってる――?


「……お父さん、どうかした?」

「ねぇ、まりあ」

「はい……」

 疑うことのない真っ直ぐな瞳が何かを問うように僕をじっと見つめている。

「……僕はいつまで君の父親でいたらいい……?」

 この世のものとは思えない美しい琥珀色の瞳が悲しそうに細められ……頬を伝う雫が涙だとわかるまで、そう時間はかからなかった――。



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