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御崎(みさき) 朧(おぼろ)
養父と養母とまりあ
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感動? の再開後、名残惜しさに後ろ髪を引かれながらも食事の準備は養母が引き受けたようだ。彼女はまりあを強く抱きしめると渋々キッチンの奥へと消えていく。
「まりあちゃん、……大丈夫? 随分疲れた顔をしているみたいだけど」
高校生にもなったまりあの父としては無理のある養父・聖。彼はせいぜい二十四、五ほどの見た目で、養母の粋もまた同じくらいの容姿を保ち続けている。さらに驚きなのは、まりあを養子として引き取ってくれた十年以上前からの何も変わっていないことだ。
テーブルの端に座るよう促され、気遣ってくれた彼はあたたかなハーブティーを淹れてくれた。
「う、うん……」
(寮の人たちとうまくいってないなんて言ったら心配かけちゃうかな)
カップへ口をつけると爽やかな香りが口内に広がり、靄のかかった頭と顔を少しだけ引き締めてくれる気がした。
「クラスに馴染めない?」
人間関係に着目するあたり、さすがは娘の性格を知り尽くしている父親だけある。
「……っていうより寮の人と、かも……」
あまり確信には触れず遠回しに言葉を紡いでみるが、それ以前に自分がこの学園に入学してきたのを驚かないのはなぜだろう? という疑問が芽生える。
(……寮生の名簿で知ってたとか、そういうのかな?)
簡単に納得がいく答えを自分なりに出してみるものの、養父母が姿を消していた理由にはならない。彼らは姿を消したのち”ずっとここで生活していたのだろうか?” ”なんのために?”と、自分にはわからないことだらけだと気づく。
「例えば誰?」
まりあの心情をよそに心配そうに顔を覗きこんでくる父を見ていると、その眼差しからは微塵の悪意も感じない。むしろ突然の別れには何か深い理由があるのかもしれないとさえ思えてくる。
(お父さんは変態焔の仲間じゃない、……よね?)
苦しい境遇の者へ手を差し伸べることを第一としているこの学園。
もしかしたら訳有の失踪後、居場所が無くなってしまった養父母の生活や仕事の面倒をみてくれたのがこの学園だとしたら、ここに居るのも納得できる。
変態焔との関連性は薄いと結論づけたまりあは、もっとも過ごした時間の長い彼へ相談してみることにした。
「うーん、誰っていうか、寮の皆かな……。
自分を忘れたのかって。守護者とかわけわかんないこと言ってて……」
「…………」
「憧れの学園だったけど、入るとこ間違ったかな? でも、もう家にも帰れないし……」
一体ここに何があるというのだろう?
もはや導かれるように……というよりも、初めからここに入学することが決定事項だったかのように、いきなり八方塞がりとなってしまったまりあ。
「クラスの子以外で話しかけてきた人の名前覚えてる?」
具体的な名前を知ろうとしてか、妙に食いついてくる養父・聖の態度に首を傾げながらも指折り数えて。
「……? 麗先生と変態焔。慶さんに翼くんと……朧さん? あ、あとっ……神崎煉っていうひと!」
「そっか、煉さんまで……」
「……お父さん知ってるの?」
「うん。あまり話す機会はないけどね」
まさか寮生ではない神崎煉を知っていることに驚いた。
しかし小さく息をつき、窓の外を見つめているところを見ると何か思うところがあるようにみえる。
そしてその瞳がまりあに降りてくると――
「……戸惑うこともあるかもしれないけど、彼らの言動や行動は全部まりあちゃんを思ってのことだから信用していいと思う」
「……え? でも、そんなこと言われても……」
新入生の面倒を見ているにしては執拗に構われている気がしてならない。
翼の行動は親切心からのものだとわかるが、焔や慶にいたっては逆に関わってほしくないというのが本音だった。
「さぁ朝食できたわよ!」
話したいことはまだまだあるが、奥の方から養母の元気な声が響いてここまでとなってしまった。
「まりあちゃんは今日も翼さんの部屋で食事するのかな?」
彼の言い方から推測するに少なからずまりあの現状を把握しているのは違いないようだ。
「うん。翼くんの分も持って行っていい?」
「……わかった。じゃあトレイ持ってくるね」
わずかに眉を下げた聖は席を立ち、取っ手がついた長方形の銀のトレイにふたり分の朝食を載せて手渡してくれる。
「まりあちゃん! つらいことがあったらいつでもここに来てね! 父さんも母さんも待ってるから!!」
「うん。ありがとうお母さん……」
優しいふたりに見送られ食堂をあとにしたまりあ。
”黙っていてごめんね。いつか話せるときが来たらちゃんと話すから”
(……お父さんの言葉、すごく気になる……)
モヤモヤとした疑問を抱えながら廊下を歩く娘の後姿を聖と粋が憂いを秘めた眼差しで見つめている。
「……まりあちゃん大人っぽくなって綺麗になってたわね……」
「…………」
大きくなった血のつながらない娘を見つめながら微動だにしない青年は無言を貫く。
「娘を嫁に出す父親の目をしてるわよ。あなた」
「……僕はまりあを嫁に出す気なんて更々ないよ」
夫婦であるはずの彼らだが、どこか仲間のような……同志的なそんな雰囲気が流れている。
さらに家族としてまりあと共に過ごしていた頃に嵌められていた指輪も今はなく、養子である彼女が気づいたかどうかはわからないが……彼らの謎が明らかになるのはそう遠くない話である。
「まりあちゃん、……大丈夫? 随分疲れた顔をしているみたいだけど」
高校生にもなったまりあの父としては無理のある養父・聖。彼はせいぜい二十四、五ほどの見た目で、養母の粋もまた同じくらいの容姿を保ち続けている。さらに驚きなのは、まりあを養子として引き取ってくれた十年以上前からの何も変わっていないことだ。
テーブルの端に座るよう促され、気遣ってくれた彼はあたたかなハーブティーを淹れてくれた。
「う、うん……」
(寮の人たちとうまくいってないなんて言ったら心配かけちゃうかな)
カップへ口をつけると爽やかな香りが口内に広がり、靄のかかった頭と顔を少しだけ引き締めてくれる気がした。
「クラスに馴染めない?」
人間関係に着目するあたり、さすがは娘の性格を知り尽くしている父親だけある。
「……っていうより寮の人と、かも……」
あまり確信には触れず遠回しに言葉を紡いでみるが、それ以前に自分がこの学園に入学してきたのを驚かないのはなぜだろう? という疑問が芽生える。
(……寮生の名簿で知ってたとか、そういうのかな?)
簡単に納得がいく答えを自分なりに出してみるものの、養父母が姿を消していた理由にはならない。彼らは姿を消したのち”ずっとここで生活していたのだろうか?” ”なんのために?”と、自分にはわからないことだらけだと気づく。
「例えば誰?」
まりあの心情をよそに心配そうに顔を覗きこんでくる父を見ていると、その眼差しからは微塵の悪意も感じない。むしろ突然の別れには何か深い理由があるのかもしれないとさえ思えてくる。
(お父さんは変態焔の仲間じゃない、……よね?)
苦しい境遇の者へ手を差し伸べることを第一としているこの学園。
もしかしたら訳有の失踪後、居場所が無くなってしまった養父母の生活や仕事の面倒をみてくれたのがこの学園だとしたら、ここに居るのも納得できる。
変態焔との関連性は薄いと結論づけたまりあは、もっとも過ごした時間の長い彼へ相談してみることにした。
「うーん、誰っていうか、寮の皆かな……。
自分を忘れたのかって。守護者とかわけわかんないこと言ってて……」
「…………」
「憧れの学園だったけど、入るとこ間違ったかな? でも、もう家にも帰れないし……」
一体ここに何があるというのだろう?
もはや導かれるように……というよりも、初めからここに入学することが決定事項だったかのように、いきなり八方塞がりとなってしまったまりあ。
「クラスの子以外で話しかけてきた人の名前覚えてる?」
具体的な名前を知ろうとしてか、妙に食いついてくる養父・聖の態度に首を傾げながらも指折り数えて。
「……? 麗先生と変態焔。慶さんに翼くんと……朧さん? あ、あとっ……神崎煉っていうひと!」
「そっか、煉さんまで……」
「……お父さん知ってるの?」
「うん。あまり話す機会はないけどね」
まさか寮生ではない神崎煉を知っていることに驚いた。
しかし小さく息をつき、窓の外を見つめているところを見ると何か思うところがあるようにみえる。
そしてその瞳がまりあに降りてくると――
「……戸惑うこともあるかもしれないけど、彼らの言動や行動は全部まりあちゃんを思ってのことだから信用していいと思う」
「……え? でも、そんなこと言われても……」
新入生の面倒を見ているにしては執拗に構われている気がしてならない。
翼の行動は親切心からのものだとわかるが、焔や慶にいたっては逆に関わってほしくないというのが本音だった。
「さぁ朝食できたわよ!」
話したいことはまだまだあるが、奥の方から養母の元気な声が響いてここまでとなってしまった。
「まりあちゃんは今日も翼さんの部屋で食事するのかな?」
彼の言い方から推測するに少なからずまりあの現状を把握しているのは違いないようだ。
「うん。翼くんの分も持って行っていい?」
「……わかった。じゃあトレイ持ってくるね」
わずかに眉を下げた聖は席を立ち、取っ手がついた長方形の銀のトレイにふたり分の朝食を載せて手渡してくれる。
「まりあちゃん! つらいことがあったらいつでもここに来てね! 父さんも母さんも待ってるから!!」
「うん。ありがとうお母さん……」
優しいふたりに見送られ食堂をあとにしたまりあ。
”黙っていてごめんね。いつか話せるときが来たらちゃんと話すから”
(……お父さんの言葉、すごく気になる……)
モヤモヤとした疑問を抱えながら廊下を歩く娘の後姿を聖と粋が憂いを秘めた眼差しで見つめている。
「……まりあちゃん大人っぽくなって綺麗になってたわね……」
「…………」
大きくなった血のつながらない娘を見つめながら微動だにしない青年は無言を貫く。
「娘を嫁に出す父親の目をしてるわよ。あなた」
「……僕はまりあを嫁に出す気なんて更々ないよ」
夫婦であるはずの彼らだが、どこか仲間のような……同志的なそんな雰囲気が流れている。
さらに家族としてまりあと共に過ごしていた頃に嵌められていた指輪も今はなく、養子である彼女が気づいたかどうかはわからないが……彼らの謎が明らかになるのはそう遠くない話である。
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