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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》ホワイトデーストーリー7
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(女性として、女性として……、うーん……)
あの後、キュリオに宿題を見てもらい、ミキやシュウに教えた通りで間違いないとお墨付きをもらったものの。
「うう、今日の授業内容全部忘れそう」
早くもアオイの頭は許容量オーバー寸前で、その大部分をキュリオから出された難題を解くためにフル回転中だった。
(あ、そうだっ! お料理を上手に作れる腕!
なんてだめだよね。努力しなきゃ意味のないことだし……)
キュリオが心ここにあらずな娘を誘導すると、素直に移動を開始したアオイ。
すると彼女は疲弊した頭を休めようと本日二度目となる湯浴みを行うべく湯殿へと向かった。そして無意識に首元のチョーカーへ指を這わせると、ため息を零す。
(お父様はどういうつもりで言ったんだろう……明日ミキに相談してみようかな)
結局、湯殿でも良い案は浮かばず、髪を大雑把に拭きながら寝間着を纏ったアオイはとぼとぼと部屋へ続く通路を歩む。
ガチャ
「あ……」
室内へ一歩入ったところでここがキュリオの部屋であることを思い出し、ソファへ座り背を預ける父のもとへ足早に向かう。
「ごめんなさいお父様! お待たせしました!」
(うっかり自分の部屋だと思い込んで長湯しちゃった……!)
この時間のキュリオの部屋は、じきに来る眠気を妨げぬよう、灯りの数がだいぶ少なくなっている。それらの行動はすべて、まだまだ成長段階にあるアオイのためであり、本来のキュリオはかなり遅い時間まで書物を広げていたりするものだ。
「ああ、おかえり。私のことは気にしなくていい。
アオイが望むなら明日は薔薇の花びらでも浮かべておこうか?」
「……! お父様が差支えなければ是非っ」
「お前と香りを共有することに障りなどあるわけがない」
「は、はいっ!」
「決まりだな」
素直に喜ぶアオイに頷きながらこちらへ近づいてきたキュリオ。
ゆっくり伸ばされた手は血色良くしっとりと濡れたアオイの頬を撫で、とある違和感に笑みを零すとアオイの肩を抱いてソファへ誘う。
「……?」
てっきりそのまま湯殿へと向かうと思っていたが、今一度ソファへと座りなおしたキュリオへアオイは首を傾げる。
「私の膝の上へおいで」
「はい……」
父の意図することがわからず、畏まりながら腰をおろす。
ただ指示されるがままにキュリオの左腿のあたりへ横向きに座り、見上げるように父の目を見つめていると……
「考えごとでもしていた?」
「え?」
「ふふっ」
美しい空色の瞳が優しくこちらを見下ろして。
言葉では語らず彼の長く白い指が一点を指した。
「……っあ!」
指摘されたアオイが手を伸ばすより早く。
ぐっと肩を引き寄せられ、広い胸に顔を埋めるかたちで緊張に微動だに出来ずにいると、回された手は掛け違った寝間着のボタンを器用に直し始めた。
「あっ、こ、これはその……っぼんやりしてて」
ようやく気づいた子供のような失態に顔を真っ赤にしてあたふたしていると、不意に腹部をかすめたキュリオの指先。
「……っ!」
思わずドキリと肩を震わせたアオイにキュリオは気づく様子もなく、今度はサイドテーブルに置かれた未使用のグラスへ手を伸ばし、水を注ぐとアオイへ手渡した。
「長湯に限ったことではないが、水分補給も忘れてはいけないよ」
(顔……ち、近いっ――!!)
「ありがとう、ございっ……ます」
きゅっと目を瞑りながらグラスを受け取るも手が震えてしまう。
「……」
(勉強のしすぎか?)
案の定、宝石のような瞳が探る様にこちらを凝視し、心までもが見透かされそうなアオイは自然と顔をも背けてしまった。
「……っ」
「疲れているのなら私を待たずに先に休むといい」
触れるだけの口づけを瞼へ落とすと、軽々と膝の上から娘の体を抱き上げる。
「だ、大丈夫です! まだちょっと髪も濡れてるし」
「ああ、それもそうだな。冷えるだろう。私の上着を持ってこようか」
「いいえっ! 全然寒くないのでっっ! お父様はどうぞへ湯殿へ!」
(いつものお父様なのに、なにか違うっ!)
ちょっとした提案にも大げさに首を横に振られ、どことなく距離のある言い方で湯殿へ向かうよう促されてしまったキュリオ。
「……わかった。体が冷えてしまったら遠慮なく入ってくるといい」
「っ!?」
そう甘い言葉と笑みを残し、ようやくキュリオの腕から解放された体はソファへ沈む。
しかし、アオイがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、前かがみになったキュリオの胸元がシャツの間からチラリと肌を覗かせ、アオイの眠気を遥か彼方へと追いやってしまうのだった。
あの後、キュリオに宿題を見てもらい、ミキやシュウに教えた通りで間違いないとお墨付きをもらったものの。
「うう、今日の授業内容全部忘れそう」
早くもアオイの頭は許容量オーバー寸前で、その大部分をキュリオから出された難題を解くためにフル回転中だった。
(あ、そうだっ! お料理を上手に作れる腕!
なんてだめだよね。努力しなきゃ意味のないことだし……)
キュリオが心ここにあらずな娘を誘導すると、素直に移動を開始したアオイ。
すると彼女は疲弊した頭を休めようと本日二度目となる湯浴みを行うべく湯殿へと向かった。そして無意識に首元のチョーカーへ指を這わせると、ため息を零す。
(お父様はどういうつもりで言ったんだろう……明日ミキに相談してみようかな)
結局、湯殿でも良い案は浮かばず、髪を大雑把に拭きながら寝間着を纏ったアオイはとぼとぼと部屋へ続く通路を歩む。
ガチャ
「あ……」
室内へ一歩入ったところでここがキュリオの部屋であることを思い出し、ソファへ座り背を預ける父のもとへ足早に向かう。
「ごめんなさいお父様! お待たせしました!」
(うっかり自分の部屋だと思い込んで長湯しちゃった……!)
この時間のキュリオの部屋は、じきに来る眠気を妨げぬよう、灯りの数がだいぶ少なくなっている。それらの行動はすべて、まだまだ成長段階にあるアオイのためであり、本来のキュリオはかなり遅い時間まで書物を広げていたりするものだ。
「ああ、おかえり。私のことは気にしなくていい。
アオイが望むなら明日は薔薇の花びらでも浮かべておこうか?」
「……! お父様が差支えなければ是非っ」
「お前と香りを共有することに障りなどあるわけがない」
「は、はいっ!」
「決まりだな」
素直に喜ぶアオイに頷きながらこちらへ近づいてきたキュリオ。
ゆっくり伸ばされた手は血色良くしっとりと濡れたアオイの頬を撫で、とある違和感に笑みを零すとアオイの肩を抱いてソファへ誘う。
「……?」
てっきりそのまま湯殿へと向かうと思っていたが、今一度ソファへと座りなおしたキュリオへアオイは首を傾げる。
「私の膝の上へおいで」
「はい……」
父の意図することがわからず、畏まりながら腰をおろす。
ただ指示されるがままにキュリオの左腿のあたりへ横向きに座り、見上げるように父の目を見つめていると……
「考えごとでもしていた?」
「え?」
「ふふっ」
美しい空色の瞳が優しくこちらを見下ろして。
言葉では語らず彼の長く白い指が一点を指した。
「……っあ!」
指摘されたアオイが手を伸ばすより早く。
ぐっと肩を引き寄せられ、広い胸に顔を埋めるかたちで緊張に微動だに出来ずにいると、回された手は掛け違った寝間着のボタンを器用に直し始めた。
「あっ、こ、これはその……っぼんやりしてて」
ようやく気づいた子供のような失態に顔を真っ赤にしてあたふたしていると、不意に腹部をかすめたキュリオの指先。
「……っ!」
思わずドキリと肩を震わせたアオイにキュリオは気づく様子もなく、今度はサイドテーブルに置かれた未使用のグラスへ手を伸ばし、水を注ぐとアオイへ手渡した。
「長湯に限ったことではないが、水分補給も忘れてはいけないよ」
(顔……ち、近いっ――!!)
「ありがとう、ございっ……ます」
きゅっと目を瞑りながらグラスを受け取るも手が震えてしまう。
「……」
(勉強のしすぎか?)
案の定、宝石のような瞳が探る様にこちらを凝視し、心までもが見透かされそうなアオイは自然と顔をも背けてしまった。
「……っ」
「疲れているのなら私を待たずに先に休むといい」
触れるだけの口づけを瞼へ落とすと、軽々と膝の上から娘の体を抱き上げる。
「だ、大丈夫です! まだちょっと髪も濡れてるし」
「ああ、それもそうだな。冷えるだろう。私の上着を持ってこようか」
「いいえっ! 全然寒くないのでっっ! お父様はどうぞへ湯殿へ!」
(いつものお父様なのに、なにか違うっ!)
ちょっとした提案にも大げさに首を横に振られ、どことなく距離のある言い方で湯殿へ向かうよう促されてしまったキュリオ。
「……わかった。体が冷えてしまったら遠慮なく入ってくるといい」
「っ!?」
そう甘い言葉と笑みを残し、ようやくキュリオの腕から解放された体はソファへ沈む。
しかし、アオイがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、前かがみになったキュリオの胸元がシャツの間からチラリと肌を覗かせ、アオイの眠気を遥か彼方へと追いやってしまうのだった。
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