169 / 208
悠久の王・キュリオ編2
《番外編》バレンタインストーリー1
しおりを挟む
こちらバレンタインにちなんだ、悠久の少し先の未来の一日を《番外編》にてお届けいたします。
年に一度のバレンタインデーを控えたこの日、悠久の城では―――。
まだ日も登らぬ暗がりに部屋を抜け出してきたアオイの手には分厚い料理本が握られている。
そして自室の扉に”男子禁制!!"と貼られた紙を見て、協力してくれた女官や侍女たちの優しさに感謝しながら笑みをこぼした。
(たくさん作って皆にもお礼しよう)
誰よりも早く起きたアオイは料理人と時間がかぶらぬようまだ暗いうちから準備を始める。
(早寝したおかげでちゃんと起きる事が出来たし……あとは失敗さえしなければ!)
――今から数時間前の二月十三日。
『ごちそう様でした。お父様それではお先に失礼いたします!』
夕食も早々に切り上げたアオイは椅子から立ち上がり一礼する。
『……もういいのかい?』
手を止めてアオイの皿を覗き込んだキュリオ。
もとより小食の彼女だが、今日はさらに口にした量が少ない気がする。
『はい! もう十分です。今日はそろそろベッドに入ろうかと』
『待ちなさい』
今にも背を向けて立ち去ろうとするアオイにキュリオの声がかかる。
『……は、はい』
ドキリと背を震わせたアオイはそっとキュリオの顔を覗き見た。
(出来れば秘密にしておきたいな……)
王であるキュリオが絶大な人気を集めるのはもちろんだが、個人的な贈り物は決して受け取らないため、民より寄贈されたそれらは孤児院などへおくられるのが常である。
その話を女官や侍女に聞いていたアオイはお茶の時間に出してもらおうと前々から計画を練っていたのだった。
『……』
美しい空色の瞳がアオイを捉えたままゆっくり近づいてくる。
そして……ひんやりとしたキュリオの手がアオイの額に触れる。
『……っ』
きゅっと瞳を閉じたアオイ。
『少し熱いな。顔も赤い気がするが気分はどうだい?』
『いいえ……っ! 今日は少し遊び疲れてしまっただけで……!』
『今日のお前はほとんどの時間を書庫で過ごしていたと記憶しているが?』
『えっ!?』
料理人たちから聞いていた料理本を探すために書庫に籠っていたことがまさかキュリオにバレていたとは知らず、動揺にダラダラと汗をかき始めたアオイ。
すると、額にあったキュリオの手が頬まで降りて……
『隠し事をしているなら今のうちに言いなさい。お前は嘘が上手ではないのだから』
いつもはあたたかなキュリオの瞳の温度が下がり、添えられた手が言葉を促すように頬を撫でる。
『……わっ』
『……』
『……わ、私だって少しくらい隠し事が……っ!!』
とまで言いかけて……
―――バターンッ!!
『姫様っ!! お時間でございます!!』
ドドドッとなだれ込むように現れた女官や侍女たち。
息を切らせてただ事ではない事を思わせる表情にアオイは目を丸くしている。
『……え? え?』
『さぁお早く! こちらですわっ!!』
侍女のひとりがアオイの背をやや強めに押して広間の外へと連れて行こうとした。
『キュリオ様!大変申し訳ございません!!姫様は立派なレディになるためにも、もうベッドに入らなくてはならない時間なのですわっっ!!!』
『……何を言っている?』
怪訝な顔をしたキュリオが見えなくなりつつあるアオイの姿を視界に捉えようと一歩踏み出すと……
『なりませんっ! 今宵は男子禁制でございます!!
女人にとって二月十三日は聖なる日! 夜が明けるまでは姫様にお会いになってはなりません!!!』
侍女を従えた女官が王の前に立ちふさがる。
しかし、そのような話を聞いた事のないキュリオは……
『悠久にそのような伝承はない。なぜ今年に限って……』
『姫様がお年頃のレディだからですわっっっ!!!
貴方たち! 早く姫様をお部屋にお連れして!! ここはわたくしが食い止めますっっ!!』
『かしこまりましたっ!! さぁ! 姫様!』
『う、うん……っ!』
女官がここから先は通すまいと両手を広げ、その後ろを侍女に背中を押されたアオイが慌ただしく退出していくのが見えた。
『……一体何だというのだ……』
この日の夜、書庫に出向いたキュリオが"女人にとって二月十三日の聖なる日"の伝承について書物を読み漁る姿が見られたのだった――。
年に一度のバレンタインデーを控えたこの日、悠久の城では―――。
まだ日も登らぬ暗がりに部屋を抜け出してきたアオイの手には分厚い料理本が握られている。
そして自室の扉に”男子禁制!!"と貼られた紙を見て、協力してくれた女官や侍女たちの優しさに感謝しながら笑みをこぼした。
(たくさん作って皆にもお礼しよう)
誰よりも早く起きたアオイは料理人と時間がかぶらぬようまだ暗いうちから準備を始める。
(早寝したおかげでちゃんと起きる事が出来たし……あとは失敗さえしなければ!)
――今から数時間前の二月十三日。
『ごちそう様でした。お父様それではお先に失礼いたします!』
夕食も早々に切り上げたアオイは椅子から立ち上がり一礼する。
『……もういいのかい?』
手を止めてアオイの皿を覗き込んだキュリオ。
もとより小食の彼女だが、今日はさらに口にした量が少ない気がする。
『はい! もう十分です。今日はそろそろベッドに入ろうかと』
『待ちなさい』
今にも背を向けて立ち去ろうとするアオイにキュリオの声がかかる。
『……は、はい』
ドキリと背を震わせたアオイはそっとキュリオの顔を覗き見た。
(出来れば秘密にしておきたいな……)
王であるキュリオが絶大な人気を集めるのはもちろんだが、個人的な贈り物は決して受け取らないため、民より寄贈されたそれらは孤児院などへおくられるのが常である。
その話を女官や侍女に聞いていたアオイはお茶の時間に出してもらおうと前々から計画を練っていたのだった。
『……』
美しい空色の瞳がアオイを捉えたままゆっくり近づいてくる。
そして……ひんやりとしたキュリオの手がアオイの額に触れる。
『……っ』
きゅっと瞳を閉じたアオイ。
『少し熱いな。顔も赤い気がするが気分はどうだい?』
『いいえ……っ! 今日は少し遊び疲れてしまっただけで……!』
『今日のお前はほとんどの時間を書庫で過ごしていたと記憶しているが?』
『えっ!?』
料理人たちから聞いていた料理本を探すために書庫に籠っていたことがまさかキュリオにバレていたとは知らず、動揺にダラダラと汗をかき始めたアオイ。
すると、額にあったキュリオの手が頬まで降りて……
『隠し事をしているなら今のうちに言いなさい。お前は嘘が上手ではないのだから』
いつもはあたたかなキュリオの瞳の温度が下がり、添えられた手が言葉を促すように頬を撫でる。
『……わっ』
『……』
『……わ、私だって少しくらい隠し事が……っ!!』
とまで言いかけて……
―――バターンッ!!
『姫様っ!! お時間でございます!!』
ドドドッとなだれ込むように現れた女官や侍女たち。
息を切らせてただ事ではない事を思わせる表情にアオイは目を丸くしている。
『……え? え?』
『さぁお早く! こちらですわっ!!』
侍女のひとりがアオイの背をやや強めに押して広間の外へと連れて行こうとした。
『キュリオ様!大変申し訳ございません!!姫様は立派なレディになるためにも、もうベッドに入らなくてはならない時間なのですわっっ!!!』
『……何を言っている?』
怪訝な顔をしたキュリオが見えなくなりつつあるアオイの姿を視界に捉えようと一歩踏み出すと……
『なりませんっ! 今宵は男子禁制でございます!!
女人にとって二月十三日は聖なる日! 夜が明けるまでは姫様にお会いになってはなりません!!!』
侍女を従えた女官が王の前に立ちふさがる。
しかし、そのような話を聞いた事のないキュリオは……
『悠久にそのような伝承はない。なぜ今年に限って……』
『姫様がお年頃のレディだからですわっっっ!!!
貴方たち! 早く姫様をお部屋にお連れして!! ここはわたくしが食い止めますっっ!!』
『かしこまりましたっ!! さぁ! 姫様!』
『う、うん……っ!』
女官がここから先は通すまいと両手を広げ、その後ろを侍女に背中を押されたアオイが慌ただしく退出していくのが見えた。
『……一体何だというのだ……』
この日の夜、書庫に出向いたキュリオが"女人にとって二月十三日の聖なる日"の伝承について書物を読み漁る姿が見られたのだった――。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
【完結】おはなしは、ハッピーエンドで終わるのに!
BBやっこ
恋愛
乙女ゲームにようにわたしとみんなの幸せ!を築き上げた、主人公。
その卒業パーティと結末は?
ハーレムエンドと思われた?
大人の事情で飛んだ目に。卒業パーティ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる