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悠久の王・キュリオ編2

《番外編》バレンタインストーリー1

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 こちらバレンタインにちなんだ、悠久の少し先の未来の一日を《番外編》にてお届けいたします。



 年に一度のバレンタインデーを控えたこの日、悠久の城では―――。


 まだ日も登らぬ暗がりに部屋を抜け出してきたアオイの手には分厚い料理本が握られている。

 そして自室の扉に”男子禁制!!"と貼られた紙を見て、協力してくれた女官や侍女たちの優しさに感謝しながら笑みをこぼした。

(たくさん作って皆にもお礼しよう)

 誰よりも早く起きたアオイは料理人と時間がかぶらぬようまだ暗いうちから準備を始める。
 
(早寝したおかげでちゃんと起きる事が出来たし……あとは失敗さえしなければ!)


 ――今から数時間前の二月十三日。


『ごちそう様でした。お父様それではお先に失礼いたします!』

 夕食も早々に切り上げたアオイは椅子から立ち上がり一礼する。

『……もういいのかい?』

 手を止めてアオイの皿を覗き込んだキュリオ。
 もとより小食の彼女だが、今日はさらに口にした量が少ない気がする。

『はい! もう十分です。今日はそろそろベッドに入ろうかと』

『待ちなさい』

 今にも背を向けて立ち去ろうとするアオイにキュリオの声がかかる。

『……は、はい』

 ドキリと背を震わせたアオイはそっとキュリオの顔を覗き見た。

(出来れば秘密にしておきたいな……)

 王であるキュリオが絶大な人気を集めるのはもちろんだが、個人的な贈り物は決して受け取らないため、民より寄贈されたそれらは孤児院などへおくられるのが常である。

 その話を女官や侍女に聞いていたアオイはお茶の時間に出してもらおうと前々から計画を練っていたのだった。

『……』

 美しい空色の瞳がアオイを捉えたままゆっくり近づいてくる。

 そして……ひんやりとしたキュリオの手がアオイの額に触れる。

『……っ』

 きゅっと瞳を閉じたアオイ。

『少し熱いな。顔も赤い気がするが気分はどうだい?』

『いいえ……っ! 今日は少し遊び疲れてしまっただけで……!』

『今日のお前はほとんどの時間を書庫で過ごしていたと記憶しているが?』

『えっ!?』

 料理人たちから聞いていた料理本を探すために書庫に籠っていたことがまさかキュリオにバレていたとは知らず、動揺にダラダラと汗をかき始めたアオイ。
 すると、額にあったキュリオの手が頬まで降りて……

『隠し事をしているなら今のうちに言いなさい。お前は嘘が上手ではないのだから』

 いつもはあたたかなキュリオの瞳の温度が下がり、添えられた手が言葉を促すように頬を撫でる。

『……わっ』

『……』

『……わ、私だって少しくらい隠し事が……っ!!』

 とまで言いかけて……

―――バターンッ!!

『姫様っ!! お時間でございます!!』

 ドドドッとなだれ込むように現れた女官や侍女たち。
 息を切らせてただ事ではない事を思わせる表情にアオイは目を丸くしている。

『……え? え?』

『さぁお早く! こちらですわっ!!』

 侍女のひとりがアオイの背をやや強めに押して広間の外へと連れて行こうとした。

『キュリオ様!大変申し訳ございません!!姫様は立派なレディになるためにも、もうベッドに入らなくてはならない時間なのですわっっ!!!』

『……何を言っている?』

 怪訝な顔をしたキュリオが見えなくなりつつあるアオイの姿を視界に捉えようと一歩踏み出すと……

『なりませんっ! 今宵は男子禁制でございます!!
女人にとって二月十三日は聖なる日! 夜が明けるまでは姫様にお会いになってはなりません!!!』

 侍女を従えた女官が王の前に立ちふさがる。
 しかし、そのような話を聞いた事のないキュリオは……

『悠久にそのような伝承はない。なぜ今年に限って……』

『姫様がお年頃のレディだからですわっっっ!!!
貴方たち! 早く姫様をお部屋にお連れして!! ここはわたくしが食い止めますっっ!!』

『かしこまりましたっ!! さぁ! 姫様!』

『う、うん……っ!』

 女官がここから先は通すまいと両手を広げ、その後ろを侍女に背中を押されたアオイが慌ただしく退出していくのが見えた。

『……一体何だというのだ……』

 この日の夜、書庫に出向いたキュリオが"女人にとって二月十三日の聖なる日"の伝承について書物を読み漁る姿が見られたのだった――。


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