上 下
155 / 209
悠久の王・キュリオ編2

サイドストーリー15

しおりを挟む
「次の者、前へ!」

 ピリッと空気が張り詰めるのがわかった。今、この場に集っているおおよそ十数名は少なからず魔法に自信を持つものばかりなのだ。魔法と剣を得意とする悠久の王の前でその力を披露するというのは、王宮に仕える魔導師となることを望んでいるのは明らかであるため厳しい視線が飛び交うのもわかっていた。
 次々と的を外し脱落者が出るなか、エリザはマイラたちに問う。

「ねえ皆、魔導師としての人生を本当に望んでいるのよね?」

 言われた三人はそれぞれ地を見つめたあと顔を上げてこう言った。

「あたしは人の役に立てるなら魔導師もありなんじゃないかって、思えるんだ」

 マリ―の言葉にマイラもシンシアも力強く頷く。

「私たち四人が揃って魔法を使えるなんて運命だと思わない? ずっと一緒に居たいって願った親友だよ?」

「うん……私も最初はお母さまの言っていることが嫌でしょうがなかった。だけどこうしてエリザや皆と一緒に居られるなら私は魔導師を目指したい」

「……そうね。夢を諦めたあたくしが言える立場じゃないけれど、応援するわ。あたくしのやり方でね」

 意思の強い眼差しが三人をしっかりと捉える。

(このままの実力では王宮に召し上げて頂くなんて到底無理だわ……。だけど策はある。あたくしが皆のサポートにまわれば……いけるわ!)

 次々と脱落していく者たちを他所目に、意を決したエリザたちの出番がやってきた。

「次の者、前へ!」

 マリ―が先陣切って前へ進み出ると、壇上にあがった四人は暴れる心の臓をなんとか抑えつつ頷き合う。

「あたしから行くよ!! マリ―! 行きます!」

 姉御肌のマリ―が雅なドレスを掴み大股で歩く頼もしい後ろ姿には心底勇気づけられる。

「……」

 そして、彼女の後方に静かに歩み寄ったのはエリザだ。
 誰にも気づかれないほどに息を潜めた彼女の動きは目を見張るものがある。

「貫け! あたしの魔法よ!!」

 一点に狙いを定めたマリ―のそれは完璧に思えた。手の平から放たれた水飛沫は一陣の渦を巻く竜巻のように一直線に的へと向かって速度を上げる。
 だが、かなり距離のある小さな的にたどり着く前に軌道は大きく失速し逸れていく……

「……」

 目を閉じたエリザはマリ―を通して水の軌道をいち早く読んでいた。
 起動が逸れると同時にエリザから放たれた風が乱れた軌道をを修正し、その勢いに追い風を用いて加速させる!

「エリザ……!」

 彼女の様子に気づいたシンシアが嬉しそうにその名を呼ぶと同時に的に激突したマリ―の水飛沫はその場の歓声と共に宙に散った――。

「や、やったーー!!」

「おおおぉおおっ!! あの姉ちゃんやりやがった!!」

「キュリオ様……いまのは……」

 エリザの手助けが働いていたことをもちろん知らぬキュリオらではない。喜ぶ当人らに水を差すようで悪い気もするガーラントは、これが公平なものであるかどうか……キュリオの判断を仰ごうと言葉を待つ。

「わかっている。壇上にあがったのがひとりであったのなら問題だったな」

 中断を指示しないキュリオに一礼したガーラントは次に進み出た、炎をその手に抱くくせ毛の少女を見つめる。

「マイラ! 行きます!!」

 緊張した面持ちで挑んだ少女の背後にもまた、風を操るエリザが立っていた。

「……」

(マイラは力の加減がなっていないのは相変わらずのようね)

 手の中で安定しない炎を見るからに昔からの癖は抜けていないようだ。少し嬉しくもあるエリザは口元に優しい笑みを浮かべる。

(キュリオ様が御覧になるのは的に当たるところは当然、その過程も見られているに違いない……)

「力を抜いてマイラ。大丈夫、あなたなら出来るわ」

「……エリザ、うんっ!」

 誰よりも優れ、観察眼のある彼女が自分を見てそう言ってくれるのだから、きっと大丈夫。不思議とそう思うと手の中の炎が安定してくるのがわかった。

「いっけええっ!!」

 声高らかに言葉を発したマイラの炎は真っ直ぐに放たれて軌道もずれることなく的をめがけて突進していく。
 しかし……目を疑うような光景が安堵したエリザを襲った!

「……っ!?」

 マイラの炎が勢いよく軌道を変えて自分に向かってきたのである。

「きゃああっ!!」

 エリザ以外の者の目には、マイラの炎は見事的を射抜いたに過ぎなかった。
 突如悲鳴をあげて壇上に倒れたエリザにシンシアが駆け寄る。

「エリザッ!?」

 何事かと会場がざわつく中、たったひとりほくそ笑む女がその場を離れようとに数歩後退った。

「熱いっ! 誰か、助けっ……」

 エリザがなりふり構わず手足をバタつかせるも自身を襲う炎は自慢の髪や肌を焼き尽くす!
 息を吸うにも焼け付いた炎が気道を塞ぎ、体の内側が灼熱の炎に支配され、死を覚悟した次の瞬間――
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結
ファンタジー
不思議な力を持つ精霊動物とともに生きるテスカ王国。その動物とパートナー契約を結ぶ事ができる精霊適性を持って生まれる事は、貴族にとっては一種のステータス、平民にとっては大きな出世となった。 訳ありの出生であり精霊適性のない主人公のメルは、ある特別な資質を持っていた事から、幼なじみのカインとともに春から王国精霊騎士団の所属となる。 非戦闘員として医務課に所属となったメルに聞こえてくるのは、周囲にふわふわと浮かぶ精霊動物たちの声。適性がないのに何故か声が聞こえ、会話が出来てしまう……それがメルの持つ特別な資質だったのだ。 しかも普通なら近寄りがたい存在なのに、女嫌いで有名な美男子副団長とも、ひょんな事から関わる事が増えてしまい……? 精霊動物たちからは相談事が次々と舞い込んでくるし……適性ゼロだけど、大人しくなんてしていられない! メルのもふもふ騎士団、城下町ライフ!

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

前世は大聖女でした。今世では普通の令嬢として泣き虫騎士と幸せな結婚をしたい!

月(ユエ)/久瀬まりか
ファンタジー
伯爵令嬢アイリス・ホールデンには前世の記憶があった。ロラン王国伝説の大聖女、アデリンだった記憶が。三歳の時にそれを思い出して以来、聖女のオーラを消して生きることに全力を注いでいた。だって、聖女だとバレたら恋も出来ない一生を再び送ることになるんだもの! 一目惚れしたエドガーと婚約を取り付け、あとは来年結婚式を挙げるだけ。そんな時、魔物討伐に出発するエドガーに加護を与えたことから聖女だということがバレてしまい、、、。 今度こそキスから先を知りたいアイリスの願いは叶うのだろうか? ※第14回ファンタジー大賞エントリー中。投票、よろしくお願いいたします!!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...