上 下
148 / 208
悠久の王・キュリオ編2

サイドストーリー8

しおりを挟む
 やがて夜の帳が降りはじめたころ、館の中庭では至る所に燭台が設置され傍に飾られた豪勢で色鮮やかな花を照らしながら色づいた光へと変化して華やかな空間が出来上がっていた。
 光の通路が演出されたその奥、一際盛大に装飾された小高い壇上には大理石のテーブルが設置されている。二つの席のうちのひとつは大魔導師、さらにもうひとつは……滅多に目にすることのできない銀の装飾が施された玉座のような神々しい造りの椅子は王のために用意されたものだ。

 玉座を中心に逆Vの字の並べられたキュリオ一行の席は、キュリオに近づけば近づくほどに王に仕える重鎮らの席となっており、いくら街の富豪といえどもその尊顔を拝見するにはかなり遠いものとなっていた。さらに中心には広い空間が設けられ、その両脇には灯をともした燭台が掲げられていることから何かを成す場所であることは誰の目にも明らかだった。

「これじゃあキュリオ様に取り入ることも出来ないじゃない!!」

 あまりに遠い王までの距離。無謀にも鼻から王を狙っていた令嬢らはギリリとハンカチに噛みついて悔しがっている。

「あーん、これじゃあせっかくのおしゃれも無駄に終わりそう~」

 会場の端で会場の準備が終わるのを待っていた別の女は素顔がわからぬほどに派手な化粧、自慢の体には際どいほどに布の少ないもはや下着のようなドレスに惜しみなく宝石をあしらって身に纏いながら女性の色香を漂わせてわずかなチャンスを物にしようとその瞳はギラついている。

「あんたは適当な金持ちの中年男で十分でしょ!!」

「ふざけないで! それはあんたでしょっ!!」

 踊り用の飾りがついた扇子でいまにも殴りかかりそうな勢いで女たちの群れがいがみ合っている後ろでは、いくつもの香水が混ざり合うきつい香りにむせ返りそうになりながらあの三人の少女が立ち竦んでいた。

「王様の御許しが出たって聞いたけど……すごい人数だね」

 豊満なボディを晒した美女の群れに圧倒されたマイラは、貧相な体の自分が所持している一番のドレスさえ地味に見えて更に自信をなくす。

「武芸に長けた人たちが来てるって聞いたけど、綺麗なひとばっかりだねぇ。踊り子かな?」

「わ、わたしたち……大丈夫かなぁ……」

 比較的気丈なマリ―は呑気にそう言っているが、弱きなシンシアなど足が竦んでしまっているようだ。
 すると、突如背後から浴びせられた声によって女の顔は醜い引き攣りを見せる。

「踊り子の命とも言える扇子を武器にするなんて芸に愛がない証拠ね。それに手足に筋肉がついていない……昨日今日はじめた芸をキュリオ様に御見せしようだなんて恥ずかしいと思わないの?」

 胸元が大きくひらき、くびれた腰回りの布を最小限にとどめながらも品良く着こなしたその声の主は侍女を数人従えたエリザだった。

「くっ……たかが家の名を翳しただけの令嬢がっ!!」

 図星のことを言い当てられた先ほどの女がエリザに飛びかかろうと地を蹴った。
 と、その時――

 ゴォッ! という音と共に鉄拳を繰り出したエリザの拳が女の左頬の前でピタリと静止したが、触れていないはずのそこからは鮮血が流れた。

「きゃあっ!!」

 悲鳴をあげて腰を抜かした女にあたりは息をのんで一歩後退りしたが、地鳴りのような歓声が轟いて一時騒然としたその場の雰囲気はあっという間に一層された。


「キュリオ様だっ!!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...