137 / 208
悠久の王・キュリオ編2
眠れない夜2
しおりを挟む
キュリオの肩越しに顔を出したアオイが笑顔でこちらに手を振っているが、彼が扉を出るとそれはあっという間に見えなくなってしまった。
「おやすみなさいませ、アオイ姫様……」
振り返していた手を下ろしたカイは寂しそうにそう告げると、アレスと共にそれぞれの棟へと戻ろうとダルドへ挨拶を済ませる。
「そんじゃまた明日ですね! ダルド様!」
「失礼致します。おやすみなさいませ、ダルド様」
「うん」
弾むように駆けて行くカイと、音も立てずにその後ろを行くアレスを見送りながら踵を返したダルドは中庭へと向かって歩き出した――。
――壁に煌めく幾つもの灯の火が照らす最上階へと続く広い階段を、王と王に抱かれた姫君がゆっくりと移動している。
ほどなくして月明りが燦々と差し込む最上階のバルコニーへとやってきた。
漆黒の帳の中に浮かび、眩い光を放つ月を見上げながら眉間に皺を寄せるキュリオ。
(……心がざわめいている。まるで何かが起きる前触れのようだ)
やがて、冷たい風がふたりの体を撫でると、寒さに身を固くしたアオイがキュリオの胸元に縋りついた。
「ああ、ここでは風邪をひいてしまうな。早くあたたまろう」
広い袖の内側にアオイを隠すと、穏やかな笑みを浮かべたキュリオは私室へと向かって歩き出した。
アオイにはまだひとりで開けられないほどの重厚な扉を開き、室内の燭台へ灯をともしながらそのまま湯殿へと向かう。
薄暗い室内は静かに王と姫を迎え入れ、ふたりを癒すために今宵も優しい気配を漂わせている。
湯殿へと続く扉をくぐったキュリオはいつものように己の衣を脱ぎながら、アオイの衣も優しく脱がせていく。
徐々に素肌が触れる面積が広がっていくと、キュリオの繊細な指先がアオイの肌を温めるように、そして確かめるように素肌を撫でる。
「近頃のお前は私が目を離した隙に成長している気がするな」
「?」
不思議そうにこちらを見上げるアオイと視線が絡むと、深い空色の瞳の奥には日々募る彼女への想いが激情の炎を灯していく。
だが、キュリオの感情を揺さぶるのはそれだけではない。
(最近のアオイは外見だけではなく内なる成長を遂げている。
力を眠らせたとはいえ、しばらくは目を離すわけにはいかない……)
「……おとうちゃま?」
キュリオの足が止まると、胸に張り付いたアオイが顔を寄せて瞳を覗き込んでくる。まるでその奥に隠された心を探そうとするように……。
「……」
(アオイは私の心を知ったら幻滅するだろうか)
彼女の問いに無言で答えたキュリオは目元と口元を和らげると、しっとりと吸いつくようなアオイの頬を撫でながら「なんでもないよ」と微笑んで再び歩き出した。
――湯殿から出たキュリオとアオイは、彼の風の魔法で体の水気を一掃させると室内へと戻ってきた。
ローテーブルの側面を飾る銀縁のソファへとアオイを座らせ、侍女らが用意した冷えたグラスに水を注いだキュリオは先にアオイの口へとそれを運びながら自身もそのグラスで喉を潤す。
わずかに開いた窓からは夜風が舞い込むと、艶やかなキュリオの髪がさらりと流れて端正な顔が露わになる。
「さあ、もうひとくち」
片手でアオイの背を抱きながら彼女の愛らしい口元へともう一度グラスを運び傾ける。小さな口の端から流れ出た雫を指先で拭ってやりながら、幾度となくそれらの行為を繰り返し……今宵もまた月明りが降り注ぐバルコニーへと向かった――。
「おやすみなさいませ、アオイ姫様……」
振り返していた手を下ろしたカイは寂しそうにそう告げると、アレスと共にそれぞれの棟へと戻ろうとダルドへ挨拶を済ませる。
「そんじゃまた明日ですね! ダルド様!」
「失礼致します。おやすみなさいませ、ダルド様」
「うん」
弾むように駆けて行くカイと、音も立てずにその後ろを行くアレスを見送りながら踵を返したダルドは中庭へと向かって歩き出した――。
――壁に煌めく幾つもの灯の火が照らす最上階へと続く広い階段を、王と王に抱かれた姫君がゆっくりと移動している。
ほどなくして月明りが燦々と差し込む最上階のバルコニーへとやってきた。
漆黒の帳の中に浮かび、眩い光を放つ月を見上げながら眉間に皺を寄せるキュリオ。
(……心がざわめいている。まるで何かが起きる前触れのようだ)
やがて、冷たい風がふたりの体を撫でると、寒さに身を固くしたアオイがキュリオの胸元に縋りついた。
「ああ、ここでは風邪をひいてしまうな。早くあたたまろう」
広い袖の内側にアオイを隠すと、穏やかな笑みを浮かべたキュリオは私室へと向かって歩き出した。
アオイにはまだひとりで開けられないほどの重厚な扉を開き、室内の燭台へ灯をともしながらそのまま湯殿へと向かう。
薄暗い室内は静かに王と姫を迎え入れ、ふたりを癒すために今宵も優しい気配を漂わせている。
湯殿へと続く扉をくぐったキュリオはいつものように己の衣を脱ぎながら、アオイの衣も優しく脱がせていく。
徐々に素肌が触れる面積が広がっていくと、キュリオの繊細な指先がアオイの肌を温めるように、そして確かめるように素肌を撫でる。
「近頃のお前は私が目を離した隙に成長している気がするな」
「?」
不思議そうにこちらを見上げるアオイと視線が絡むと、深い空色の瞳の奥には日々募る彼女への想いが激情の炎を灯していく。
だが、キュリオの感情を揺さぶるのはそれだけではない。
(最近のアオイは外見だけではなく内なる成長を遂げている。
力を眠らせたとはいえ、しばらくは目を離すわけにはいかない……)
「……おとうちゃま?」
キュリオの足が止まると、胸に張り付いたアオイが顔を寄せて瞳を覗き込んでくる。まるでその奥に隠された心を探そうとするように……。
「……」
(アオイは私の心を知ったら幻滅するだろうか)
彼女の問いに無言で答えたキュリオは目元と口元を和らげると、しっとりと吸いつくようなアオイの頬を撫でながら「なんでもないよ」と微笑んで再び歩き出した。
――湯殿から出たキュリオとアオイは、彼の風の魔法で体の水気を一掃させると室内へと戻ってきた。
ローテーブルの側面を飾る銀縁のソファへとアオイを座らせ、侍女らが用意した冷えたグラスに水を注いだキュリオは先にアオイの口へとそれを運びながら自身もそのグラスで喉を潤す。
わずかに開いた窓からは夜風が舞い込むと、艶やかなキュリオの髪がさらりと流れて端正な顔が露わになる。
「さあ、もうひとくち」
片手でアオイの背を抱きながら彼女の愛らしい口元へともう一度グラスを運び傾ける。小さな口の端から流れ出た雫を指先で拭ってやりながら、幾度となくそれらの行為を繰り返し……今宵もまた月明りが降り注ぐバルコニーへと向かった――。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】魔獣に喰い殺されたくないので、婚約者ではなく幼馴染の立場を希望します!
Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
ファンタジー
魔獣に喰い殺される未来を変えていた筈が、ストーリー通り魔獣の森に捨てられて・・・どうなっちゃうの⁉︎
【0歳〜10歳】攻略対象と出会ったり
【11歳〜16歳】ヒロイン出てきたり
【16歳〜】プロローグ後のお話
異世界あるある、幼児の頃からの教育のお陰?で早熟
年齢+2歳くらいの感覚で読んで頂けると良い感じかもしれないです。
感想欄は、完結後に開きますね。
◇◇◇
【あらすじ】
フェリシアは、ヒロインを虐め抜き、婚約者に見切りをつけられて、魔獣の森に捨てられる。
そして、フェリシアは魔獣の森で魔獣に喰い殺される。
と言うのが、乙女ゲームでの私の役割。
フェリシアの決断で、ゲームのストーリーは徐々に変わっていく・・・筈が、強制力とは恐ろしい。
結局魔獣の森に捨てられてしまう。
※設定ふんわり
※ご都合主義
※独自設定あり
◇◇◇
【HOT女性向けランキングに載りました!ありがとうございます♪】
2022.8.31 100位 → 80位 → 75位
2022.9.01 61位 → 58位 → 41位 → 31位
2022.9.02 27位 → 25位
【完結】反逆令嬢
なか
恋愛
「お前が婚約者にふさわしいか、身体を確かめてやる」
婚約者であるライアン王子に言われた言葉に呆れて声も出ない
レブル子爵家の令嬢
アビゲイル・レブル
権力をふりかざす王子に当然彼女は行為を断った
そして告げられる婚約破棄
更には彼女のレブル家もタダでは済まないと脅す王子だったが
アビゲイルは嬉々として出ていった
ーこれで心おきなく殺せるー
からだった
王子は間違えていた
彼女は、レブル家はただの貴族ではなかった
血の滴るナイフを見て笑う
そんな彼女が初めて恋する相手とは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる