135 / 208
悠久の王・キュリオ編2
アオイの大切なひと
しおりを挟む
その後、ガーラントはカイやアレスの成長を褒めるなどの軽い雑談のあと魔術師の棟へと引き下がっていった。
ブラストはガーラントが立ち去った後、引っかかる彼の言葉を思い返しながら未来に待ち受ける困難を予感させていた。
「…………」
(いまは……? ガーラント殿は何を知ろうとしているだろう……)
――急ぎ足でキュリオやアオイが待つ広間を目指すカイの足取りは重い。
「……」
(アオイ姫様の御力は素晴らしいものだって……俺は信じてる)
そう思い込みたい自分と、ガーラントに言われた言葉がカイのなかでせめぎ合っている。
いつの間にか到着していた広間の扉前。軽装の兵士らがカイの顔を見て扉を開けてくれようとするが、少年は首を横に振ってその場を立ち去ってしまった。
(やっぱり駄目だ……)
アオイに悟られまいと笑顔を作ってみるも、彼女の話を聞かされたあとでは笑顔が不自然になってしまう。
通路の角を曲がり、開けたバルコニーに出るとその口からは小さなため息がこぼれた。
「はぁ……、俺は姫様になにをしてあげられるんだ……?」
すっかり日が暮れた空を見上げると、冷たい月の光が眩しいくらいに輝いている。頬に触れるひんやりとした風はカイに落ち着きを取り戻させるどころか、答えを探す彼の心を冷たく突き放しているかのようにさえ思えた。
――その頃、小さく刻んでもらったニンジンをアオイの手から食べ終えたラビットは、プレゼントされたふかふかな寝床に丸くなって眠りに落ちていた。
その様子を飽きることなく見つめているアオイ。そしてその彼女の姿を見つめているのはキュリオとダルドだ。
すると、何かに気づいたアオイが不意に顔を上げて――
「……」
「うん? どうかしたかい?」
手をついて立ち上がったアオイのスカートを直してやりながらキュリオが顔を覗き込む。
「……カイ……」
キュリオの顔を見ることなく広間を出て行こうとするアオイを女官や侍女らが慌てて後を追う。
「……っ姫様!?」
扉の前の従者へアオイが懇願すると、彼女の背後でキュリオの頷きを見た彼は快く扉を開いてくれた。
すると、アオイは待っていられないとばかりにわずかに開いた扉へ体を滑り込ませると迷うことなく扉をでていく。
やがて行き着いた先は……
「カイ!」
「……っ! アオイ姫様!?」
名前を呼ばれて振り返った先では愛しい姫君が息を弾ませて立っていた。
「へへっ」
小さな手をカイの腰へと回して勢いよく抱きついてきた彼女を抱きとめる。
「よく俺がここにいるってわかりましたね」
彼女の柔らかな髪を撫でながら問いかけてもアオイは笑っているばかりだ。
(もしかして俺の心の声を聞いて駆け付けてくれたのかと思ったけど……偶然か。
だけど――)
すこしの期待を胸に抱いたカイだったが、それ以上に自分を探し、ここまで来てくれた愛しい姫君を心から大切に想う。
「アオイ姫様、ここは冷えますので広間へ行きましょうか」
「うんっ」
差し出したカイの手をしっとりと柔らかなアオイの手が握りしめた。
(あったかいな……)
アオイの手を握りしめていると、先ほどまで悩んでいたことが嘘のように心があたたかくなっていく。
「アオイ姫様は俺にとって日の光のようです!」
「……ひの、ひかり……?」
それまで笑顔だったアオイの顔から表情が消え、何かを思い出そうとするように握り合った手へと視線を落としたアオイ。
「姫様、……?」
「…………」
じっと手元を見つめる彼女から返事はなく、不安を感じたアオイは跪いてアオイと視線を合わせようと試みた。
「アオイ姫様、俺の声が聞こえますか?」
「……? カイ?」
不思議そうにこちらを見つめる彼女の瞳はいつもと変わりなく見える。
「なにがあっても俺がアオイ姫様をお護りいたします。ずっと一緒です!」
ぱぁっとアオイの顔に花が咲く。キュリオに見せる天使のような愛らしい微笑みだ。
「うんっ」
「では、行きましょうか!」
「あいっ」
仲良く手を繋いで歩いてくる姿を女官らが優しい瞳で見つめている。
「姫様はカイのことが特別お好きなようですわねっ」
「……」
女官たちから数歩下がったところでその様子を見ていたキュリオとダルドの脳裏を過った言葉は恐らく少し前のカイと同じに違いない。
(まるでカイの居場所がわかっていたような動きだな。……偶然か?)
目の前を仲睦まじく見つめ合い、手を取り合って歩くふたりの正面からは追いついたアレスが何事かと驚いているのが見える。
「お、アレス! 遅いぞ!」
「カイ! アオイ姫様にキュリオ様、ダルド様まで……一体どうしたの?」
「アエス、こっち」
アオイは空いている方の手をアレスへと伸ばして手を繋ごうと催促する。
「は、はいっ!」
大好きなカイとアレスに挟まれて嬉しそうなアオイはとても幸せそうだ。
心のままに行動するカイと、理性に倣って行動するアレス。両脇のふたりもまた、主従関係以上の特別な感情を彼女に感じていた。
「へへっ」
(だいすきなひと。わたしのたいせつな――)
ブラストはガーラントが立ち去った後、引っかかる彼の言葉を思い返しながら未来に待ち受ける困難を予感させていた。
「…………」
(いまは……? ガーラント殿は何を知ろうとしているだろう……)
――急ぎ足でキュリオやアオイが待つ広間を目指すカイの足取りは重い。
「……」
(アオイ姫様の御力は素晴らしいものだって……俺は信じてる)
そう思い込みたい自分と、ガーラントに言われた言葉がカイのなかでせめぎ合っている。
いつの間にか到着していた広間の扉前。軽装の兵士らがカイの顔を見て扉を開けてくれようとするが、少年は首を横に振ってその場を立ち去ってしまった。
(やっぱり駄目だ……)
アオイに悟られまいと笑顔を作ってみるも、彼女の話を聞かされたあとでは笑顔が不自然になってしまう。
通路の角を曲がり、開けたバルコニーに出るとその口からは小さなため息がこぼれた。
「はぁ……、俺は姫様になにをしてあげられるんだ……?」
すっかり日が暮れた空を見上げると、冷たい月の光が眩しいくらいに輝いている。頬に触れるひんやりとした風はカイに落ち着きを取り戻させるどころか、答えを探す彼の心を冷たく突き放しているかのようにさえ思えた。
――その頃、小さく刻んでもらったニンジンをアオイの手から食べ終えたラビットは、プレゼントされたふかふかな寝床に丸くなって眠りに落ちていた。
その様子を飽きることなく見つめているアオイ。そしてその彼女の姿を見つめているのはキュリオとダルドだ。
すると、何かに気づいたアオイが不意に顔を上げて――
「……」
「うん? どうかしたかい?」
手をついて立ち上がったアオイのスカートを直してやりながらキュリオが顔を覗き込む。
「……カイ……」
キュリオの顔を見ることなく広間を出て行こうとするアオイを女官や侍女らが慌てて後を追う。
「……っ姫様!?」
扉の前の従者へアオイが懇願すると、彼女の背後でキュリオの頷きを見た彼は快く扉を開いてくれた。
すると、アオイは待っていられないとばかりにわずかに開いた扉へ体を滑り込ませると迷うことなく扉をでていく。
やがて行き着いた先は……
「カイ!」
「……っ! アオイ姫様!?」
名前を呼ばれて振り返った先では愛しい姫君が息を弾ませて立っていた。
「へへっ」
小さな手をカイの腰へと回して勢いよく抱きついてきた彼女を抱きとめる。
「よく俺がここにいるってわかりましたね」
彼女の柔らかな髪を撫でながら問いかけてもアオイは笑っているばかりだ。
(もしかして俺の心の声を聞いて駆け付けてくれたのかと思ったけど……偶然か。
だけど――)
すこしの期待を胸に抱いたカイだったが、それ以上に自分を探し、ここまで来てくれた愛しい姫君を心から大切に想う。
「アオイ姫様、ここは冷えますので広間へ行きましょうか」
「うんっ」
差し出したカイの手をしっとりと柔らかなアオイの手が握りしめた。
(あったかいな……)
アオイの手を握りしめていると、先ほどまで悩んでいたことが嘘のように心があたたかくなっていく。
「アオイ姫様は俺にとって日の光のようです!」
「……ひの、ひかり……?」
それまで笑顔だったアオイの顔から表情が消え、何かを思い出そうとするように握り合った手へと視線を落としたアオイ。
「姫様、……?」
「…………」
じっと手元を見つめる彼女から返事はなく、不安を感じたアオイは跪いてアオイと視線を合わせようと試みた。
「アオイ姫様、俺の声が聞こえますか?」
「……? カイ?」
不思議そうにこちらを見つめる彼女の瞳はいつもと変わりなく見える。
「なにがあっても俺がアオイ姫様をお護りいたします。ずっと一緒です!」
ぱぁっとアオイの顔に花が咲く。キュリオに見せる天使のような愛らしい微笑みだ。
「うんっ」
「では、行きましょうか!」
「あいっ」
仲良く手を繋いで歩いてくる姿を女官らが優しい瞳で見つめている。
「姫様はカイのことが特別お好きなようですわねっ」
「……」
女官たちから数歩下がったところでその様子を見ていたキュリオとダルドの脳裏を過った言葉は恐らく少し前のカイと同じに違いない。
(まるでカイの居場所がわかっていたような動きだな。……偶然か?)
目の前を仲睦まじく見つめ合い、手を取り合って歩くふたりの正面からは追いついたアレスが何事かと驚いているのが見える。
「お、アレス! 遅いぞ!」
「カイ! アオイ姫様にキュリオ様、ダルド様まで……一体どうしたの?」
「アエス、こっち」
アオイは空いている方の手をアレスへと伸ばして手を繋ごうと催促する。
「は、はいっ!」
大好きなカイとアレスに挟まれて嬉しそうなアオイはとても幸せそうだ。
心のままに行動するカイと、理性に倣って行動するアレス。両脇のふたりもまた、主従関係以上の特別な感情を彼女に感じていた。
「へへっ」
(だいすきなひと。わたしのたいせつな――)
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる