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悠久の王・キュリオ編2

アオイの大切なひと

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 その後、ガーラントはカイやアレスの成長を褒めるなどの軽い雑談のあと魔術師の棟へと引き下がっていった。
 ブラストはガーラントが立ち去った後、引っかかる彼の言葉を思い返しながら未来に待ち受ける困難を予感させていた。

「…………」

(いまは……? ガーラント殿は何を知ろうとしているだろう……)


 ――急ぎ足でキュリオやアオイが待つ広間を目指すカイの足取りは重い。

「……」

(アオイ姫様の御力は素晴らしいものだって……俺は信じてる)

 そう思い込みたい自分と、ガーラントに言われた言葉がカイのなかでせめぎ合っている。
 いつの間にか到着していた広間の扉前。軽装の兵士らがカイの顔を見て扉を開けてくれようとするが、少年は首を横に振ってその場を立ち去ってしまった。

(やっぱり駄目だ……)

 アオイに悟られまいと笑顔を作ってみるも、彼女の話を聞かされたあとでは笑顔が不自然になってしまう。
 通路の角を曲がり、開けたバルコニーに出るとその口からは小さなため息がこぼれた。

「はぁ……、俺は姫様になにをしてあげられるんだ……?」

 すっかり日が暮れた空を見上げると、冷たい月の光が眩しいくらいに輝いている。頬に触れるひんやりとした風はカイに落ち着きを取り戻させるどころか、答えを探す彼の心を冷たく突き放しているかのようにさえ思えた。

 ――その頃、小さく刻んでもらったニンジンをアオイの手から食べ終えたラビットは、プレゼントされたふかふかな寝床に丸くなって眠りに落ちていた。
 その様子を飽きることなく見つめているアオイ。そしてその彼女の姿を見つめているのはキュリオとダルドだ。
 すると、何かに気づいたアオイが不意に顔を上げて――

「……」

「うん? どうかしたかい?」

 手をついて立ち上がったアオイのスカートを直してやりながらキュリオが顔を覗き込む。

「……カイ……」

 キュリオの顔を見ることなく広間を出て行こうとするアオイを女官や侍女らが慌てて後を追う。

「……っ姫様!?」

 扉の前の従者へアオイが懇願すると、彼女の背後でキュリオの頷きを見た彼は快く扉を開いてくれた。
 すると、アオイは待っていられないとばかりにわずかに開いた扉へ体を滑り込ませると迷うことなく扉をでていく。

 やがて行き着いた先は……

「カイ!」

「……っ! アオイ姫様!?」

 名前を呼ばれて振り返った先では愛しい姫君が息を弾ませて立っていた。
 
「へへっ」

 小さな手をカイの腰へと回して勢いよく抱きついてきた彼女を抱きとめる。

「よく俺がここにいるってわかりましたね」

 彼女の柔らかな髪を撫でながら問いかけてもアオイは笑っているばかりだ。

(もしかして俺の心の声を聞いて駆け付けてくれたのかと思ったけど……偶然か。
だけど――)

 すこしの期待を胸に抱いたカイだったが、それ以上に自分を探し、ここまで来てくれた愛しい姫君を心から大切に想う。

「アオイ姫様、ここは冷えますので広間へ行きましょうか」

「うんっ」

 差し出したカイの手をしっとりと柔らかなアオイの手が握りしめた。
 
(あったかいな……)

 アオイの手を握りしめていると、先ほどまで悩んでいたことが嘘のように心があたたかくなっていく。

「アオイ姫様は俺にとって日の光のようです!」

「……ひの、ひかり……?」

 それまで笑顔だったアオイの顔から表情が消え、何かを思い出そうとするように握り合った手へと視線を落としたアオイ。

「姫様、……?」

「…………」

 じっと手元を見つめる彼女から返事はなく、不安を感じたアオイは跪いてアオイと視線を合わせようと試みた。

「アオイ姫様、俺の声が聞こえますか?」

「……? カイ?」

 不思議そうにこちらを見つめる彼女の瞳はいつもと変わりなく見える。

「なにがあっても俺がアオイ姫様をお護りいたします。ずっと一緒です!」

 ぱぁっとアオイの顔に花が咲く。キュリオに見せる天使のような愛らしい微笑みだ。 
 
「うんっ」

「では、行きましょうか!」

「あいっ」

 仲良く手を繋いで歩いてくる姿を女官らが優しい瞳で見つめている。

「姫様はカイのことが特別お好きなようですわねっ」

「……」

 女官たちから数歩下がったところでその様子を見ていたキュリオとダルドの脳裏を過った言葉は恐らく少し前のカイと同じに違いない。

(まるでカイの居場所がわかっていたような動きだな。……偶然か?)

 目の前を仲睦まじく見つめ合い、手を取り合って歩くふたりの正面からは追いついたアレスが何事かと驚いているのが見える。

「お、アレス! 遅いぞ!」

「カイ! アオイ姫様にキュリオ様、ダルド様まで……一体どうしたの?」

「アエス、こっち」

 アオイは空いている方の手をアレスへと伸ばして手を繋ごうと催促する。

「は、はいっ!」

 大好きなカイとアレスに挟まれて嬉しそうなアオイはとても幸せそうだ。
 心のままに行動するカイと、理性に倣って行動するアレス。両脇のふたりもまた、主従関係以上の特別な感情を彼女に感じていた。


「へへっ」


(だいすきなひと。わたしのたいせつな――)

 
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