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悠久の王・キュリオ編2
異次元の力Ⅰ
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もしも、この度発掘された出土品が創世期のものだとすれば……当時の悲惨な状況までもが白日のもとに晒される可能性がある。それを目にするのは相当な精神的ダメージを被るはずだ。しかしそれらを含め<現王>であるキュリオはすべてを受け入れ、当時を生きた王や民たちの託したメッセージを受け取る義務がある。
――神がこの五大国を創造した意味をキュリオは図りかねていた。
(世の常である弱肉強食がこの世界全体に言えるとして、自然界と違うのは王の力量によってそれがいとも容易く入れ替わることだ。頂点が入れ替わることでバランスを保ってきたというのなら、ひとりの王が長く頂点に君臨し続けたら何が起きる? バランスが崩れたら――)
ヴァンパイアの王が頂点に君臨したとして、その後の世界は悠久の国を中心とし、たくさんの血が流れるだろう。
万が一にもそうなった場合、やはり多くの犠牲者が出る悠久の王が立ち上がるしかない。それでも悠久の王が即位して日が浅いとなれば、その強さに大きな差が出てしまう。今までもそのような状況に置かれたことが度々ある中、大きな犠牲が出なかったのは悠久の王の後ろには精霊王がいたからだ。
争いごとをこの好まない両国の王は穏やかな気候が似ていることもあり、昔から交流が盛んだった。代々優秀な王を輩出することで有名な精霊の国は現在、<千年王>という最強の王を生み出したことから、エクシスがこの五大国の頂点であることは間違いない。あらゆることに無関心な彼が何かを起こすとは考えにくいが、頂点に君臨する王が道を踏み外したら第二位の王であるキュリオが彼と戦わなくてはならなくなる。
さらにキュリオが疑問を抱いているひとつに、創世の時代ヴァンパイアの王と悠久の王が両者とも上位王であったことにある。
(これは単なる偶然か?)
悠久の王がそこで倒されてしまっていたら今の悠久は恐らくないだろう。ヴァンパイアに支配され、奴等の餌食となるために生まれ死んでいく存在――。
どこの国も欠けることなく存在し続けているのは、争いが起きるたびに立ち上がる王がそれなりの強さを持ち、国のバランスが崩れるほどの犠牲者がでないことにある。
(……神具はいつ現れ、どこから来たのか……)
王が自由自在に顕現させることができる神具。
精霊王の神具は弓矢、悠久の王は剣、冥王は死の鎌、雷帝は槍、ヴァンパイアの王は爪であり、それらが変わることはないが、持つ王によって姿形が違っているのも特徴だった。
それぞれに与えられる神具は歴代の王たちに引き継がれて来たものではなく、<先代王>の神具は永遠にその王の物であり、<次代の王>には別の物が顕現する。現に<先代王>セシエルが退任した際も彼は神具を持ち、キュリオには別の神具が現れた。
(戦いが永遠に終わらないことを神は知っているのか? それとも――)
キュリオが抱いている後者の疑念は、この世界は神によって争う運命を義務付けられているのではないか? というものだ。
――相容れない異種が存在する世界。
神に不可能がないというのなら、このような世界を創造した後でも創りなおすことは可能だったはずだ。
『キュリオ、この世界に相容れない異種がなぜ存在するのか疑問を抱くのではなく、この世界に生を受けた私たちが為すべきことを考えなさい』
<先代王>セシエルはどうにもならない神の意図を知ろうとするのではなく、この世界に生まれた以上、この状況下で悠久の民を護る術を考えよという言葉をキュリオに残している。
(聡明なセシエル様のことだ……私が抱いていた疑問の答えなど、ある程度御存知だったのかもしれないな)
変えられるわけもないこの世界の根本的な問題を今更どうすることもできない。だが、その問いに答えがでたとき、すべてのことが繋がるような気がする。その第一歩が創世期の歴史を紐解くことであり、最初に神剣を授かった<初代王>であれば何か知っているかもしれない。
(創世期の王と神の存在か……)
キュリオが疑念を抱く神だが、この悠久の民にとって王こそが神的な存在であり、存在しているかもわからない神が自分たちを加護しているなどとは全く思わない。傷を癒し、病を癒し、この大地に清らかさと恵みを齎す王こそが唯一絶対的な崇拝対象なのだ。
だからこそ、神に疑念を抱くのは五大国の王くらいのものだろう。どの時代の王とて一度は考えるその事柄にいつか答えに辿り着きたいと願ったはずだ。そのことによって何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない――。
馬車の窓を覆うカーテンを指先で退けたキュリオは、まだ明けない夜の空を見つめながら祈る。
(この悠久の命あるすべてのものを私が導こう。誰も悲しむことなく、平和な未来を歩めるよう――)
数多の愛しき存在の中でも一際光輝いている存在がキュリオの心に住まう。
(アオイ……)
「御覧なさいませ姫様、風が輝いておりますわ」
幼い姫君が穏やかな眠りにつけるようにとアオイを胸に抱いていた女官が窓辺で囁く。
「キュリオ様が癒しの力を注いでくださっているんだ!」
隣に佇んでいたカイが目を輝かせながらその方角を指差した。
遠くに見えた輝きは、やがて室内にいるアオイたちのもとへも届いて優しく降り注ぐ。
『アオイ、今この瞬間もお前を想っている』
「……!」
キュリオの声が耳元で聞こえたかと思うと、あたたかな風がそっとアオイを抱きしめた。
いつも感じている優しいぬくもりに艶やかな髪がアオイの肩を流れる感触。隙間がないくらいに抱き合ったときの互いの鼓動までもが聞こえてくるようなあの感覚。
眠るまで静かに見つめてくれる空色の瞳。時折、髪を梳いてくれる綺麗な指先。目が合うと愛し気に微笑んで緩やかな弧を描く美しい唇――。
(アオイもです……おとうちゃま)
心の中でそう呟いたアオイの声はキュリオにも届いていた。
「……アオイ……」
自身の胸元で、キュリオの衣を握りしめて丸くなっているアオイが甘えるように顔を寄せてきた。
もちろんそれはキュリオにしか見えてない映像だったが、目の前にいるガーラントには察しがついているようだ。
小さなものを抱きしめるような仕草をした銀髪の王の顔はとても穏やかで、そこに愛しい者の存在を感じているのは誰の目から見ても明らかだったからだ。
(なんと美しい親子愛じゃ……血の繋がりがなくともキュリオ様とアオイ姫様の絆は本物じゃな)
長い髭を撫でながら目を細めて見つめているガーラント。
キュリオのこのような姿を見る日が来るとは思わなかった彼は実に感慨深い光景を目の当たりにしている。
(これが……覚めぬ夢ならどれほど幸せか……)
壮年の深い皺を刻んだ目元に暗い影を落とし、瞳を閉じたガーラントの意味深な言葉は誰の耳にも届かない。
――やがて東の空が白み始めた頃、突如変化したあたりの気配にキュリオとガーラントはピクリと眉を動かし顔を上げた。
あまりの清らさかに息苦しさまでも感じる圧倒的な力。立ち入った者を大勢の視線で監視しているような威圧感と、鉛を浴びせられているような圧迫感がガーラントを襲った。
「入ったようだな」
「……ですな。まさかこれほどとはっ……」
キュリオは閉じていた瞳をゆっくり開くと落ち着いたまま長い手足を組んだまま窓の外へと視線を向けたが、その向かい側のガーラントの額と杖を握る手には珠のような汗が滲んでいる。
遥か昔の術者が施したものにしてはあまりにも強力な力が残っていることに大魔導師は驚愕しているのだ。まるで壁を抜けたら別世界が広がっているような感覚にガーラントの顔には警戒心さえ覗かせている。
「……相当な使い手がいたようですな。絶命した後もこれほどの力が……」
「おそらくこれは王の力だ」
(邪悪な存在を排除しようとする強力な結界の痕跡……この力の源を探す必要がありそうだな)
――神がこの五大国を創造した意味をキュリオは図りかねていた。
(世の常である弱肉強食がこの世界全体に言えるとして、自然界と違うのは王の力量によってそれがいとも容易く入れ替わることだ。頂点が入れ替わることでバランスを保ってきたというのなら、ひとりの王が長く頂点に君臨し続けたら何が起きる? バランスが崩れたら――)
ヴァンパイアの王が頂点に君臨したとして、その後の世界は悠久の国を中心とし、たくさんの血が流れるだろう。
万が一にもそうなった場合、やはり多くの犠牲者が出る悠久の王が立ち上がるしかない。それでも悠久の王が即位して日が浅いとなれば、その強さに大きな差が出てしまう。今までもそのような状況に置かれたことが度々ある中、大きな犠牲が出なかったのは悠久の王の後ろには精霊王がいたからだ。
争いごとをこの好まない両国の王は穏やかな気候が似ていることもあり、昔から交流が盛んだった。代々優秀な王を輩出することで有名な精霊の国は現在、<千年王>という最強の王を生み出したことから、エクシスがこの五大国の頂点であることは間違いない。あらゆることに無関心な彼が何かを起こすとは考えにくいが、頂点に君臨する王が道を踏み外したら第二位の王であるキュリオが彼と戦わなくてはならなくなる。
さらにキュリオが疑問を抱いているひとつに、創世の時代ヴァンパイアの王と悠久の王が両者とも上位王であったことにある。
(これは単なる偶然か?)
悠久の王がそこで倒されてしまっていたら今の悠久は恐らくないだろう。ヴァンパイアに支配され、奴等の餌食となるために生まれ死んでいく存在――。
どこの国も欠けることなく存在し続けているのは、争いが起きるたびに立ち上がる王がそれなりの強さを持ち、国のバランスが崩れるほどの犠牲者がでないことにある。
(……神具はいつ現れ、どこから来たのか……)
王が自由自在に顕現させることができる神具。
精霊王の神具は弓矢、悠久の王は剣、冥王は死の鎌、雷帝は槍、ヴァンパイアの王は爪であり、それらが変わることはないが、持つ王によって姿形が違っているのも特徴だった。
それぞれに与えられる神具は歴代の王たちに引き継がれて来たものではなく、<先代王>の神具は永遠にその王の物であり、<次代の王>には別の物が顕現する。現に<先代王>セシエルが退任した際も彼は神具を持ち、キュリオには別の神具が現れた。
(戦いが永遠に終わらないことを神は知っているのか? それとも――)
キュリオが抱いている後者の疑念は、この世界は神によって争う運命を義務付けられているのではないか? というものだ。
――相容れない異種が存在する世界。
神に不可能がないというのなら、このような世界を創造した後でも創りなおすことは可能だったはずだ。
『キュリオ、この世界に相容れない異種がなぜ存在するのか疑問を抱くのではなく、この世界に生を受けた私たちが為すべきことを考えなさい』
<先代王>セシエルはどうにもならない神の意図を知ろうとするのではなく、この世界に生まれた以上、この状況下で悠久の民を護る術を考えよという言葉をキュリオに残している。
(聡明なセシエル様のことだ……私が抱いていた疑問の答えなど、ある程度御存知だったのかもしれないな)
変えられるわけもないこの世界の根本的な問題を今更どうすることもできない。だが、その問いに答えがでたとき、すべてのことが繋がるような気がする。その第一歩が創世期の歴史を紐解くことであり、最初に神剣を授かった<初代王>であれば何か知っているかもしれない。
(創世期の王と神の存在か……)
キュリオが疑念を抱く神だが、この悠久の民にとって王こそが神的な存在であり、存在しているかもわからない神が自分たちを加護しているなどとは全く思わない。傷を癒し、病を癒し、この大地に清らかさと恵みを齎す王こそが唯一絶対的な崇拝対象なのだ。
だからこそ、神に疑念を抱くのは五大国の王くらいのものだろう。どの時代の王とて一度は考えるその事柄にいつか答えに辿り着きたいと願ったはずだ。そのことによって何かが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない――。
馬車の窓を覆うカーテンを指先で退けたキュリオは、まだ明けない夜の空を見つめながら祈る。
(この悠久の命あるすべてのものを私が導こう。誰も悲しむことなく、平和な未来を歩めるよう――)
数多の愛しき存在の中でも一際光輝いている存在がキュリオの心に住まう。
(アオイ……)
「御覧なさいませ姫様、風が輝いておりますわ」
幼い姫君が穏やかな眠りにつけるようにとアオイを胸に抱いていた女官が窓辺で囁く。
「キュリオ様が癒しの力を注いでくださっているんだ!」
隣に佇んでいたカイが目を輝かせながらその方角を指差した。
遠くに見えた輝きは、やがて室内にいるアオイたちのもとへも届いて優しく降り注ぐ。
『アオイ、今この瞬間もお前を想っている』
「……!」
キュリオの声が耳元で聞こえたかと思うと、あたたかな風がそっとアオイを抱きしめた。
いつも感じている優しいぬくもりに艶やかな髪がアオイの肩を流れる感触。隙間がないくらいに抱き合ったときの互いの鼓動までもが聞こえてくるようなあの感覚。
眠るまで静かに見つめてくれる空色の瞳。時折、髪を梳いてくれる綺麗な指先。目が合うと愛し気に微笑んで緩やかな弧を描く美しい唇――。
(アオイもです……おとうちゃま)
心の中でそう呟いたアオイの声はキュリオにも届いていた。
「……アオイ……」
自身の胸元で、キュリオの衣を握りしめて丸くなっているアオイが甘えるように顔を寄せてきた。
もちろんそれはキュリオにしか見えてない映像だったが、目の前にいるガーラントには察しがついているようだ。
小さなものを抱きしめるような仕草をした銀髪の王の顔はとても穏やかで、そこに愛しい者の存在を感じているのは誰の目から見ても明らかだったからだ。
(なんと美しい親子愛じゃ……血の繋がりがなくともキュリオ様とアオイ姫様の絆は本物じゃな)
長い髭を撫でながら目を細めて見つめているガーラント。
キュリオのこのような姿を見る日が来るとは思わなかった彼は実に感慨深い光景を目の当たりにしている。
(これが……覚めぬ夢ならどれほど幸せか……)
壮年の深い皺を刻んだ目元に暗い影を落とし、瞳を閉じたガーラントの意味深な言葉は誰の耳にも届かない。
――やがて東の空が白み始めた頃、突如変化したあたりの気配にキュリオとガーラントはピクリと眉を動かし顔を上げた。
あまりの清らさかに息苦しさまでも感じる圧倒的な力。立ち入った者を大勢の視線で監視しているような威圧感と、鉛を浴びせられているような圧迫感がガーラントを襲った。
「入ったようだな」
「……ですな。まさかこれほどとはっ……」
キュリオは閉じていた瞳をゆっくり開くと落ち着いたまま長い手足を組んだまま窓の外へと視線を向けたが、その向かい側のガーラントの額と杖を握る手には珠のような汗が滲んでいる。
遥か昔の術者が施したものにしてはあまりにも強力な力が残っていることに大魔導師は驚愕しているのだ。まるで壁を抜けたら別世界が広がっているような感覚にガーラントの顔には警戒心さえ覗かせている。
「……相当な使い手がいたようですな。絶命した後もこれほどの力が……」
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