66 / 208
悠久の王・キュリオ編2
王が瞳にうつすもの
しおりを挟む
湯浴みを済ませ、早目の夕食を終えた三人は日が暮れる前に城を出た。
さほど昼寝をしていないアオイが興奮気味に声をあげているのも、普段と違う雰囲気を察したためだろう。いつものこの時間であれば王宮の敷地を出ることはほとんどなく、出ても庭園を散策する程度のものだからだ。
馬を走らせ、銀狐と化したダルドの後ろを行くこと小一時間。
徐々に月の光が辺りを照らし始めた頃、聖域のなかを歩いていると一際巨大な樹木が姿を現した。
「これは素晴らしい……」
おそらくはキュリオよりも長く生きているであろう威厳に満ち溢れた風貌のそれは、多くの命を見守ってきた神木のように力強い根を隆々と張り巡らせて鎮座している。
キュリオはアオイを左腕に抱くと、右手でその見事な樹木の木肌に触れた。
脈々と感じる命の息吹。まるで語り掛けてくるようなそのエネルギーは、悠久の国に根をおろした大自然らしく大らかで優しいものだった。
「貴方の幹を傷つけたりはしないと約束しよう」
キュリオは断りを入れるように樹木へ言葉を掛けると、人型となって静かに頷いたダルドの手を取って翼を翻す。
なるべく太い幹を選んで降り立つと、それだけで聖獣の森が見渡せそうなほどに高い場所にいることに気づいた。
ところどころで光る小さな塊に目を細めると、それは精霊の国から来た光の精霊であることがわかる。
「流れ星だ」
わずかに空の青さを下部に残した透き通る闇に一筋の光が流れた方角をダルドが指さす。
「美しいな」
「…………」
キュリオの腕の中でその光景をジッと見つめているアオイは何を想っているのだろう?
「キュリオはあまり空をみない?」
「…………」
そう聞かれて気づく。
悠久の地を見下ろすことはあっても、空を見ていることは極端に少ない。
「そうだね。私が守るべきものが地にあるせいだろうな」
心が向く方向へと自然に視線は流れる。
空に輝く月や日、星々に興味がないわけではないが、それだけ王の心が民や動植物に向いているということの現れだ。
そして、似たような光景を間近で見ていた者が他にもいる。
さほど昼寝をしていないアオイが興奮気味に声をあげているのも、普段と違う雰囲気を察したためだろう。いつものこの時間であれば王宮の敷地を出ることはほとんどなく、出ても庭園を散策する程度のものだからだ。
馬を走らせ、銀狐と化したダルドの後ろを行くこと小一時間。
徐々に月の光が辺りを照らし始めた頃、聖域のなかを歩いていると一際巨大な樹木が姿を現した。
「これは素晴らしい……」
おそらくはキュリオよりも長く生きているであろう威厳に満ち溢れた風貌のそれは、多くの命を見守ってきた神木のように力強い根を隆々と張り巡らせて鎮座している。
キュリオはアオイを左腕に抱くと、右手でその見事な樹木の木肌に触れた。
脈々と感じる命の息吹。まるで語り掛けてくるようなそのエネルギーは、悠久の国に根をおろした大自然らしく大らかで優しいものだった。
「貴方の幹を傷つけたりはしないと約束しよう」
キュリオは断りを入れるように樹木へ言葉を掛けると、人型となって静かに頷いたダルドの手を取って翼を翻す。
なるべく太い幹を選んで降り立つと、それだけで聖獣の森が見渡せそうなほどに高い場所にいることに気づいた。
ところどころで光る小さな塊に目を細めると、それは精霊の国から来た光の精霊であることがわかる。
「流れ星だ」
わずかに空の青さを下部に残した透き通る闇に一筋の光が流れた方角をダルドが指さす。
「美しいな」
「…………」
キュリオの腕の中でその光景をジッと見つめているアオイは何を想っているのだろう?
「キュリオはあまり空をみない?」
「…………」
そう聞かれて気づく。
悠久の地を見下ろすことはあっても、空を見ていることは極端に少ない。
「そうだね。私が守るべきものが地にあるせいだろうな」
心が向く方向へと自然に視線は流れる。
空に輝く月や日、星々に興味がないわけではないが、それだけ王の心が民や動植物に向いているということの現れだ。
そして、似たような光景を間近で見ていた者が他にもいる。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください
むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。
「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」
それって私のことだよね?!
そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。
でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。
長編です。
よろしくお願いします。
カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる