41 / 208
悠久の王・キュリオ編2
世界の真理
しおりを挟む
「こちらにおいででございましたか」
「…………」
「キュリオ様が姫様を置いて中庭へお出になるとは、よほどのことがおありになったとお見受けいたしますが……お邪魔でしたかな?」
<大魔導師>ガーラントの言葉にも振り返らないキュリオは、蒼白く輝く欠けた月を見上げながら穏やかな夜風に長い髪を靡かせている。
「……少し考え事をしていた」
「本日、エデン王が二度も見えられたことと関係しておられるようですな……」
同国の王が一日に何度も顔を見せることなど今まであっただろうか?
アオイを観察するのが趣味な某国の王は別として、世間話をするにはあまりにも頻度が高すぎる。キュリオの恵まれた能力を考えれば彼を頼る者が後を絶たないのはわかるが、それほどまでに過酷な状況下にある国が存在しているとは思えない。ましてや、エデンと別れてからのキュリオに笑顔はなく、抱えているものの大きさが誰の目にも明らかだった。
「浄化の力を持つのは私だけにも関わず、彼の期待に応えることができなかった」
「……っなんですと!? 万が一にもキュリオ様のお力が効かぬなど……儂には信じられませぬ……」
眉間に深い皺を刻んだガーラントは、くの字に折り曲げた人差し指を顎に添えながら黙り込んでしまった。その素振りを見たキュリオは一瞬、とある人物が脳裏をよぎり――……
「……不思議なこともあるものだな。今日はよくセシエル様を思い出す」
(このようなときに御意見を賜れたら……と思っているからだろうか)
「<先代>の悠久の王であられた御方でございますな」
五百年以上も昔の王と面識を持っている人物など、キュリオとエクシスの他には生命の長いことで知られるヴァンパイアくらいのものだ。それでもガーラントが首を傾げないのは、現王であるキュリオから彼の話をよく聞いていたからであろうと思われる。
「ああ、信念を強く持っておられる気高い御方だった。セシエル様ならばこの事態を解決できただろうと思うと歯がゆいよ」
「――ですがキュリオ様。
悠久の国を一番に想われていた<先代>王ならば、他国の揉め事は解決できずともやむなし。と、お考えになられていたかもしれませぬぞ?」
年老いた<大魔導師>の言葉に、<先代>王セシエルの面影が重なる。
さらに彼の灰色にも似た瞳が一瞬、若葉の色に煌いて――。
「…………」
(ガーラントがセシエル様と重なるのは何故だ……?)
「そのためにこの世界の五大国には五人の王がおられるのです。自国で解決できない厄介ごとを他国の王へ頼むのは……」
「……セシエル様ならばそう言われるだろうな。
悠久の国以外に心を砕くのを善しとしない御方だった」
(それが追随を許さないセシエル様の強さに繋がっていたのだろう。
私に王の座を譲らなければ……恐らく千年王になられた御方だ――)
「キュリオ様、御自分を責めるのはどうかお辞めください。
エデン王とて偉大な王のおひとりでございます。キュリオ様のお手を煩わせるようなことにはならぬはずです」
「わかっている」
(エデンの力を甘くみているわけではない。<雷帝>の真の力は世界を脅かすに余りあるほど……)
「――案ずるなガーラント。セシエル様の言葉を忘れたことはない。
しかし、<雷帝>の力では救えないものもある。そのために私という者がいるのだろう」
再び月を見上げたキュリオは、自身が為すべきことと神に与えられた力の意味に答えを見出せずにいる。
(我々五人の王がそれぞれ違う力を持つ意味は……
万能な王がひとり居れば済むものを、神が五つに分けた理由とは一体……)
「…………」
「キュリオ様が姫様を置いて中庭へお出になるとは、よほどのことがおありになったとお見受けいたしますが……お邪魔でしたかな?」
<大魔導師>ガーラントの言葉にも振り返らないキュリオは、蒼白く輝く欠けた月を見上げながら穏やかな夜風に長い髪を靡かせている。
「……少し考え事をしていた」
「本日、エデン王が二度も見えられたことと関係しておられるようですな……」
同国の王が一日に何度も顔を見せることなど今まであっただろうか?
アオイを観察するのが趣味な某国の王は別として、世間話をするにはあまりにも頻度が高すぎる。キュリオの恵まれた能力を考えれば彼を頼る者が後を絶たないのはわかるが、それほどまでに過酷な状況下にある国が存在しているとは思えない。ましてや、エデンと別れてからのキュリオに笑顔はなく、抱えているものの大きさが誰の目にも明らかだった。
「浄化の力を持つのは私だけにも関わず、彼の期待に応えることができなかった」
「……っなんですと!? 万が一にもキュリオ様のお力が効かぬなど……儂には信じられませぬ……」
眉間に深い皺を刻んだガーラントは、くの字に折り曲げた人差し指を顎に添えながら黙り込んでしまった。その素振りを見たキュリオは一瞬、とある人物が脳裏をよぎり――……
「……不思議なこともあるものだな。今日はよくセシエル様を思い出す」
(このようなときに御意見を賜れたら……と思っているからだろうか)
「<先代>の悠久の王であられた御方でございますな」
五百年以上も昔の王と面識を持っている人物など、キュリオとエクシスの他には生命の長いことで知られるヴァンパイアくらいのものだ。それでもガーラントが首を傾げないのは、現王であるキュリオから彼の話をよく聞いていたからであろうと思われる。
「ああ、信念を強く持っておられる気高い御方だった。セシエル様ならばこの事態を解決できただろうと思うと歯がゆいよ」
「――ですがキュリオ様。
悠久の国を一番に想われていた<先代>王ならば、他国の揉め事は解決できずともやむなし。と、お考えになられていたかもしれませぬぞ?」
年老いた<大魔導師>の言葉に、<先代>王セシエルの面影が重なる。
さらに彼の灰色にも似た瞳が一瞬、若葉の色に煌いて――。
「…………」
(ガーラントがセシエル様と重なるのは何故だ……?)
「そのためにこの世界の五大国には五人の王がおられるのです。自国で解決できない厄介ごとを他国の王へ頼むのは……」
「……セシエル様ならばそう言われるだろうな。
悠久の国以外に心を砕くのを善しとしない御方だった」
(それが追随を許さないセシエル様の強さに繋がっていたのだろう。
私に王の座を譲らなければ……恐らく千年王になられた御方だ――)
「キュリオ様、御自分を責めるのはどうかお辞めください。
エデン王とて偉大な王のおひとりでございます。キュリオ様のお手を煩わせるようなことにはならぬはずです」
「わかっている」
(エデンの力を甘くみているわけではない。<雷帝>の真の力は世界を脅かすに余りあるほど……)
「――案ずるなガーラント。セシエル様の言葉を忘れたことはない。
しかし、<雷帝>の力では救えないものもある。そのために私という者がいるのだろう」
再び月を見上げたキュリオは、自身が為すべきことと神に与えられた力の意味に答えを見出せずにいる。
(我々五人の王がそれぞれ違う力を持つ意味は……
万能な王がひとり居れば済むものを、神が五つに分けた理由とは一体……)
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話
嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。
【あらすじ】
イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。
しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。
ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。
そんな一家はむしろ互いに愛情過多。
あてられた周りだけ食傷気味。
「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」
なんて養女は言う。
今の所、魔法を使った事ないんですけどね。
ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。
僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。
一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。
生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。
でもスローなライフは無理っぽい。
__そんなお話。
※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。
※他サイトでも掲載中。
※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。
※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。
※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
西園寺わかばEX
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる