上 下
36 / 208
悠久の王・キュリオ編2

希望潰えて…

しおりを挟む
「おっさん!! 呑気に茶なんか飲んでる場合じゃねーだろ! 収穫あったんだろうな!?」

 柱の陰から飛び出してきた蒼牙は待ちきれないとばかりに足を踏み鳴らしている。

「悪い。偶然仙水と会ってな。……それとなく話を振ってみたが、お前が期待しているようなことは聞けなかった」

 元より、蒼牙の知りたがっている疑問のほとんどに答えを出すことが可能であったエデンだが、この世界の理を知る九条が他言することを良しとしていないのだから自分が言うわけにはいかない。だからこそ彼は彼なりのやり方でこの世界を救う手立てはないかと悠久の王のもとを訪れたのである。

「それともうひとつ。悪い知らせだ」

 収穫がないと聞いて愕然としていた蒼い髪の少年の顔が、<雷帝>の言葉によってさらに曇る。

「……あんま聞きたくないぜ」

 この流れからするに、頼みの綱として考えていた案のひとつが消えてしまったのだろうと容易に察しがつく。
 そんな悪い予感に耳を塞ぎたくなる蒼牙だが、遅かれ早かれこの世界の命運に関することとなれば覚悟を決めなくてはならない。

「……日を改めたほうがいいか?」

 初めから悠久の王の力など借りようとも思っていない年長組の三人はともかく、大いに期待しているであろうこの少年には世界を救う手立てのひとつが無に帰したことを知らせるのが蒼牙の為でもある。しかし、悠久の王が頼れないとあらば……この世界の崩壊に歯止めをかけられる人物がいないという現実がこの少年に突きつけられてしまう。あまりに重すぎる話をひとり背負うのは如何ばかり負担だろうかと考えると、心の準備というものが必要に違いない。

「いや……、先延ばしにしてもどうせ結果は変わらないんだろ? だったらいま聞く」

「……それもそうだな。場所を変えるか」

 蒼牙は長く荒廃した世界に身を置いている者としてそれなりの覚悟を持っていると判断したエデンは静かに頷くと、唯一の希望とみていた<悠久の王>とのやり取りを歩きながら話し始めた。

「実は……お前と別れたあと、キュリオ殿に御助力いただけないか謁見を申し出ていたんだが……」

「本当かっ!? 
……で、会ってもらえなかったってわけじゃないんだろ? もったいぶる必要はないぜ」

 思ってもみなかった他国の王の名に一瞬瞳を輝かせた蒼牙だが、言葉に力のない<雷帝>の様子からおおよその見当はついてしまう。

「あぁ、それはもちろん快く受けてくださったさ。
だが、この世界のことを伏せて話す俺に不信感を抱かれたご様子だった」

 無条件で力を貸すと申し出てくれた上位の王に対し、恩を仇で返すようなやり方はエデンにとっても不本意だった。
 遠くを見つめる<雷帝>の瞳はキュリオへの申し訳なさと、一行に解決の糸口が見えないこの世界との狭間で揺れ動いているように見えた。

「まぁ、そうだよな……」

(……おっさんには悪いことをさせちまったな……)

「それでもキュリオ殿は御自身が赴くと申し出てくださったんだ」

「……それで?」

「お前も知っている通り、向こうの世界からこの地へ辿り着けるのは<雷帝>と称される俺と……歴代の<雷帝>だけだ。それはいつの時代も変わらん。それを承知の上でキュリオ殿の分身とも言える翼の一部を預かった。……が、やはり通過できたのは俺だけだった」

「あーあ。やっぱ無理か……。
<初代>が消滅した時点で世界が狂っちまったっていうのは聞いてたけどよ、俺はまだ諦めないぜ! うまくいかねぇってことは、考えによっちゃ時が来てねぇってことだろ?」

「…………」

 エデンは頷くことも否定することもできずにいる。

「第一! あいつらがのんびりしてるうちは何も起きねぇって!!」

 蒼牙は嫌な予感を振り払うように、そして自分に言い聞かせるように声を張り上げて大きく伸びをする。
 しかし、その伸びの分だけ落胆しているのだとエデンにはわかってしまう。この小さな少年は年長者三人が思うよりも周りが見えており、誰も傷つかぬよう……再び、あのような悲劇が起らぬよう小さな変化も見逃さない覚悟なのだ。

「――そうだな。いまはまだ動く時ではないのかもしれんな……」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...