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悠久の王・キュリオ編2
ひとつの予感
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アオイはこの国で一番美しい鼓動を聞きながら彼の上質な衣の感触と体温に包まれて穏やかな夢の中を漂っていた。
どこまでも抜けるような青空。
風はあたたかく、さえずる小鳥たちの歌声は平和の象徴さながらに心地よかった。
(……美しい世界……)
幸せなこの時に身をゆだねながら目を閉じていると、アオイの頬を不吉な風が一陣吹き抜けた。
(……っ……)
以前にも感じたことのある嫌な予感に瞳を開き、頭上を仰ぐ。
太陽を覆い隠してしまうほどに分厚く、雷鳴を轟かせた雲は蒼白い稲光を増幅させながら巨大化して重く圧し掛かる。
どこへ行けばよいかアオイにはわからない。
それでもふらりと歩き出した彼女の腕を何者かが掴んで引き寄せた。
"……アオイ姫!!"
"…………"
強く抱きしめられた視界の端で白銀の髪が煌いて。
"……、…………っ!"
"…………"
急に声が遠くなり、なにを話しているのかわからない。
白銀の髪を持つ青年はしきりに何かを訴えているようだが、その度に首を横に振っている自分。
勝手に流れていく映像に戸惑っていると、声と感情がようやく自身の中へ入り込んできた。
"――僕の、僕だけのアオイ姫だったらいいのにっ……"
"……ダルド様っ……"
赤子の瞼の裏で神秘的な銀色の瞳から流れた一筋の涙。
長い年月を共に過ごした彼の心が嬉しいのに苦しくて。
愛らしい獣の耳が寂しそうに垂れ下がっているのになにもしてあげられない。……そして、抱き締められた手を離したくないのに私は――……。
「いや、仕事があるからと朝早く帰ったよ。ふふっ、話し足りなかったかい?」
「…………」
(……?)
聞きなれた優しい声に赤子が目を開けると、銀髪の青年が誰かと会話しているのが頭上に見えた。
「……ううん、当分会わなくていい」
(……!)
別の方向から聞こえた透明感のある声にアオイは聞き覚えがあった。
"――僕の、僕だけのアオイ姫だったらいいのにっ……"
パッと振り返った視線の先には白銀の髪を持つ青年の姿があり、神秘的な瞳と視線が絡むとわずかに微笑んだ彼の耳にはやはり覚えがあった。
ダルドの様子を目にしたキュリオがアオイの目覚めに気づくと、待ちかねていた友人へ愛娘を抱かせてやるべく席を立った。
「おはよう、アオイ。彼を覚えているかい?」
「…………」
パチクリと瞬いた瞳は不思議そうに人型聖獣の青年をジッと見つめている。
視界が徐々に移動しているのは、自分の体が彼らの腕から腕へと移っているのだろうという細やかな認識と……もうひとつ。
「アオイ姫……」
それだけ囁いて、あたたかな頬を寄せてきた青年のぬくもりに夢の青年と重ねながらアオイは心の中で呟いた。
(……ダルド、さま……)
自然とダルドの手に手を重ねたアオイ。夢の中の自分がなぜそのような選択をしなくてはならなかったのかはわからないが、これから先、彼に抱く感情が特別なものであろうことは密着したぬくもりから容易に察しがついた。
(わたしはきっと……この方を好きになる……)
それが家族に向けるような親愛なのか、異性に対する愛なのかは……まだこのときのアオイは知る由もなかった。
どこまでも抜けるような青空。
風はあたたかく、さえずる小鳥たちの歌声は平和の象徴さながらに心地よかった。
(……美しい世界……)
幸せなこの時に身をゆだねながら目を閉じていると、アオイの頬を不吉な風が一陣吹き抜けた。
(……っ……)
以前にも感じたことのある嫌な予感に瞳を開き、頭上を仰ぐ。
太陽を覆い隠してしまうほどに分厚く、雷鳴を轟かせた雲は蒼白い稲光を増幅させながら巨大化して重く圧し掛かる。
どこへ行けばよいかアオイにはわからない。
それでもふらりと歩き出した彼女の腕を何者かが掴んで引き寄せた。
"……アオイ姫!!"
"…………"
強く抱きしめられた視界の端で白銀の髪が煌いて。
"……、…………っ!"
"…………"
急に声が遠くなり、なにを話しているのかわからない。
白銀の髪を持つ青年はしきりに何かを訴えているようだが、その度に首を横に振っている自分。
勝手に流れていく映像に戸惑っていると、声と感情がようやく自身の中へ入り込んできた。
"――僕の、僕だけのアオイ姫だったらいいのにっ……"
"……ダルド様っ……"
赤子の瞼の裏で神秘的な銀色の瞳から流れた一筋の涙。
長い年月を共に過ごした彼の心が嬉しいのに苦しくて。
愛らしい獣の耳が寂しそうに垂れ下がっているのになにもしてあげられない。……そして、抱き締められた手を離したくないのに私は――……。
「いや、仕事があるからと朝早く帰ったよ。ふふっ、話し足りなかったかい?」
「…………」
(……?)
聞きなれた優しい声に赤子が目を開けると、銀髪の青年が誰かと会話しているのが頭上に見えた。
「……ううん、当分会わなくていい」
(……!)
別の方向から聞こえた透明感のある声にアオイは聞き覚えがあった。
"――僕の、僕だけのアオイ姫だったらいいのにっ……"
パッと振り返った視線の先には白銀の髪を持つ青年の姿があり、神秘的な瞳と視線が絡むとわずかに微笑んだ彼の耳にはやはり覚えがあった。
ダルドの様子を目にしたキュリオがアオイの目覚めに気づくと、待ちかねていた友人へ愛娘を抱かせてやるべく席を立った。
「おはよう、アオイ。彼を覚えているかい?」
「…………」
パチクリと瞬いた瞳は不思議そうに人型聖獣の青年をジッと見つめている。
視界が徐々に移動しているのは、自分の体が彼らの腕から腕へと移っているのだろうという細やかな認識と……もうひとつ。
「アオイ姫……」
それだけ囁いて、あたたかな頬を寄せてきた青年のぬくもりに夢の青年と重ねながらアオイは心の中で呟いた。
(……ダルド、さま……)
自然とダルドの手に手を重ねたアオイ。夢の中の自分がなぜそのような選択をしなくてはならなかったのかはわからないが、これから先、彼に抱く感情が特別なものであろうことは密着したぬくもりから容易に察しがついた。
(わたしはきっと……この方を好きになる……)
それが家族に向けるような親愛なのか、異性に対する愛なのかは……まだこのときのアオイは知る由もなかった。
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