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悠久の王・キュリオ編

先代・悠久の王の言葉

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――中庭を歩き、美しい花々を眺めているキュリオと赤子の前に太陽のような色合いの背の高い大輪の花が視界に広がってきた。

「…………」

幼子はその花をじっと見つめると、そのまま自分を抱いている銀髪の王の顔を見上げる。

「……この花が気になるのかい?」

訴えるような小さな眼差しに微笑むキュリオ。腕の中の彼女がよく見えるように、大輪の花へと一歩二歩近づいてみる。

「この花は日の光を仰ぐ習性を持っているんだ。ごらん、みな同じ方向を向いているだろう?」

そこまで言ったキュリオはふと遠い昔を思い出すように目を細める。そして先代の悠久の王にこの庭園の話を聞いたときの事を思い返す。

『あの太陽のように大きな花は日を仰ぐ習性を持っているんだ。数代前の<ディスタ王>の時代に植えられたものだと聞いている。……どこかの国の王が"遥かなる地"から持ち帰ったものだそうだよ』

『日を仰ぐ習性……? "遥かなる地"とは珍しい花が生存しているところなのですね。……持ち帰った王とはどなたですか?』

驚きつつも興味深く話に食いついてくる、まだあどけなさを残す銀髪の青年に当代の王は優しく微笑んだ。

『……私にもわからない。"とある女性がこの花に似たその王に想いを託して贈ったもの"とだけ聞いている』

『そうですか。……お話からするに持ち帰った王は<ディスタ王>ではないと判断致しましたが、なぜ悠久に咲いているのでしょう……』

『私もずっと同じことを考えていた。
……なんとなく思うのは、この花が生きるには悠久の大地が適していたからか、持ち帰った王がここで芽吹くことを望んだかのどちらかだろうね』

『……はい……』

敬愛する王の話を聞きながら、銀髪の青年はその女性が託した想いがなんとなくわかった気がした。

そんなことをするのはきっと……愛情表現か何かだろうと――。

『託した想いは"あなただけを見つめる"。
太陽を仰ぐこの花に自分と彼を重ねていたのだろう……』

『…………』

それを聞いて黙ってしまった自分そっくりな青年に当代の王は心配そうに顔を覗きこんだ。

『キュリオ? どうかしたかい?』

『申し訳ありません……なぜか胸が苦しくて……』

『……そうだね』

俯くキュリオに悲しげに瞳を揺らした彼は勇気づけるように……とある提案を声にのせる。

『そのふたりがどうなったか、彼の後の王たちならば何か知っているかもしれないね』

『……っ! それはどちらの国の王なのです?!』

顔をあげたキュリオに先代の王は今までの優しい微笑みを消し、真剣な表情で口を開いた。

『……それは……』

――そこまで思い出し、キュリオはいっきに現実へと引き戻された。腕に抱く小さな少女が身を乗り出してその花に触れようとしたからだった。

「……っ!」

あやうく彼女を落としてしまいそうになったキュリオは慌てて赤子を抱え直す。

「元気が良いのはいいが……それは私の腕の中だけにしておくれ」

愛しさを込めて彼女のこめかみに口付けを落とすと、あのときの言葉が胸に響く。

(日を仰ぐ習性……私はあなただけを見つめる、か……)

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