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”異世界へ零れ落ちた者”(2)

マイナースキルの使い道

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「私に与えられたスキルって……ほんとマイナー」

 スキルセンターで私に与えられたスキルはまず始めにミラーが所持する”言葉の壁を越えるスキル”だった。
 それでいとも簡単にこの国の言葉と文字が読み書きでき、話すことが可能になったのだから便利なものだ。

「てっきり勉強させられるのかと思ってたからラッキーだけど」

 そしてこの世界に馴染みのある横文字の名前。私はこの黒い瞳にあやかってオプティアという名を与えられた。
 だが、それだけでは生きていけないという。
 この世界の大きな特徴である、”生まれながらに持っているスキル”というものを私は持っていないからだ。更にスキルセンターでは、その人物に縁もゆかりもないスキルを付与することは原則不可能ということで。オプティアとなった私には芽衣子だった頃の経験を活かし、運び屋として有利なスキルが与えられたのだ。

「とは言っても……疲れにくい体にちょっとだけ強い脚力とかそんなものだし……」

 このスキルのお陰で稼ぎに繋がるかと言われると……実際そんなに役立つことはない。
 やはり見た目が珍しいせいで異世界とは言われずとも、異国の者と見なされがちのオプティアに仕事を頼む者は少ない。街の外ではモンスターなどが溢れるこの世界では、小国になればなるほど鎖国状態にあることをミラーに教えてもらった私は、仕方がないことだと腹を括っている。

「モンスターがいるなんて……戦ってくれる勇者とか賢者、魔法使いとかいないわけ?」 

 明らかにこの世界の脇役のオプティアが他力本願になるのは当たり前だ。なんたって戦う術がないのだから。
 マリに依頼された鍋は布に包んでいてもわかるくらいあたたかく、このまま人生が終えるその日まで鍋運びの仕事でもいいかなとぼんやり考えながらいくつもの田畑に民家を抜けていく。

「ミランダおばあちゃんの家はここを曲がって三軒目っと……」

 ちょっと丸みを帯びた物腰柔らかなミランダおばあちゃんは、農業に特化したスキルを所持しており、やはり田畑を営む働き手のひとりだった。
 重労働をしていたであろうことがわかる曲がった腰も、節くれだった手も……そして、お日様のようにあたたかな笑顔もオプティアは大好きだった。
 心優しいミランダおばあちゃんと生き写しのような孫のマリ。ここに家族がいないオプティアが心を寄せる数少ない大切なひとたちだった。

 味のある黒みがかった金属の留め金のあるドアをノックする。

「ミランダおばあちゃん、こんにちは。オプティアです」

 いつもはすぐ返事がかえってくるが、今日は近くに気配さえ感じることができない。

「……? お出かけかな?」

 ドアを引いてみるもやはり鍵がかかっているようだ。
 オプティアは一歩引いて壁沿いに窓を見つめるが、どの窓も締まっており人影も見えない。
 
(……でも、マリはそんなこと言ってなかった……)

 マリに荷物を依頼されてミランダおばあちゃんに出会えなかったことなど一度もない。
 違和感にソワソワする胸を落ち着かせようと深呼吸を繰り返しながら、建物の側面へと移動してみると――

「あ、一か所だけ開いてる!」


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