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2巻
2-1
しおりを挟む『恋人』が始まりました
前巻のおさらい
私、小向日葵ユウカ、二十一歳。苗字をもじって、会社の仲のいい人たちからは「タンポポちゃん」と呼ばれることが多い、新米OLだ。
身長は百五十三センチでちんまりとしていて、そのうえ外見も幼いから、よく高校生に間違われるけど、日々社会人として頑張っているのです。
私は短大卒で入社したけど、周りの先輩や同期は四大卒の人ばかり。みんな、年下の私を仕事面でもプライベートでも、とても可愛がってくれています。いい会社に入れて本当によかった!
短大で新聞部に所属していた私は、その経験を買われて、総務部広報課に配属されました。主に社内報を作っています。その中で、一番重要な仕事が社内の重役さんたちへのインタビュー。
ということで、毎月インタビューに応じてくださっている我が社の社長に会いに行きましょう。
「今回もよろしくお願いいたします」
「おう、任せとけ。さ、ソファに座ってくれ」
爽やかな笑顔が女子社員に大人気の我が社のトップが、社長室を訪れた私を出迎えてくれた。
ある悩みを抱えていた私は、おずおずと切り出す。
「あの……社長、インタビューの前に私の悩みを聞いて下さい。竹若さんのことなんですけど……。彼のあの独占欲、なんとかなりませんか? 竹若さんは社長の秘書なんですから、上司としてビシッと言ってください」
「……なんとかなるなら、とっくになんとかしている」
ソッと遠くを見つめる社長。私も社長と同じように遠くを見つめる。
「ですよね。色気より食い気で、しかも恋愛経験のない私を、どうして恋人にしようとしたのか、いまだにわかりませんよ。竹若さんは仕事はできるし、スタイルもいい。オマケに超絶美形なんだから、女性なんて選び放題だと思うんですけど」
「まぁ、まぁ。一生懸命仕事をしている小向日葵君は、すごく素敵だぞ。それに、君の笑顔は無敵だ。そういうところを含めて、竹若は小向日葵君に惚れたんだろうな」
「そ、そうでしょうか」
はにかんでいると、社長が大きく頷いた。
「小向日葵君が入社してすぐ、アイツの纏う空気が柔らかくなった。で、君が社長室を訪ねてくるたびに、やけに嬉しそうにしていてな。俺はすぐにピンと来たぞ」
「え? 私、ちっともわかりませんでした」
驚く私を見て、社長がヤレヤレと肩を竦める。
「だろうな。セクハラとスキンシップの違いもわからないぐらいだもんな」
「ちょっと行き過ぎじゃないか、くらいには思ってましたけど」
「『ちょっと』だと!? 小向日葵君、やっぱり君は鈍すぎる! 抱きしめられたうえに、耳にキスまでされていたじゃないか! ああ、やっぱり、アイツはやめておけ! 君みたいに純粋な女の子が、あいつに弄ばれているのを見ていられない。所構わず手を出してくる破廉恥変態野郎なんかとは、即刻別れた方がいい!」
社長の言うことは的を射ているが、私は一応竹若さんの援護に回る。
「あ、や、ま、まぁ、所構わずっていうのは確かにそうなんですけど! でも、すごく頼りになるんですよ。私がピンチの時には、必ず助けてくれるんですから」
「まぁ、俺のSPを務めているくらいだからな」
「それに、今はちゃんと彼のこと、好きですし……。私、男の人に慣れてなかったから、男性と接する時はいつも緊張していたんですけど、彼だけはドキドキの種類が違ったんですよ。緊張するけれど、もっと傍にいたい、みたいな」
当時、彼に対して抱いていた気持ちを思い出し、頬がほんのり赤くなる。
「あの策士のことだから、君に告白する時のシチュエーション作りも完璧だっただろ?」
「なんでニヤニヤしているんですか、社長。……確かにそうでしたけど」
「だよな。どうせ、小向日葵君が逃げられないような状況を作ったりしていたんだろ、全く目に浮かぶよ」
社長のセリフを聞いた私は、カッと目を見開き、身を乗り出した。
「そうなんです! いきなり彼が総務部に乗り込んできて、車で連れ去られたんですよ! しかも私、財布も携帯も持っていなくて……」
「あの、夕日が見える岬だろ? 何日か前から、竹若がネットや雑誌で情報を集めていたぞ」
「どうして、それを不審に思わなかったんですか!」
「だ、だって、まさか、そこに小向日葵君を連れて行くなんて思わないだろ。まあ、でも、綺麗な夕日を見られてよかったじゃないか」
社長は私の肩を叩いてなだめるが、私は全く納得できずに声を荒らげる。
「夕日なんて見る余裕はありませんでしたよ。いきなり『付き合ってくれ』って言ってきたんですよ! しかも、『結婚を決定したものとして、私と交際してください』って、どういうこと!? 結婚が『決定』したものって、なんなのよ! 普通、『前提』でしょ!!」
大声を上げると、社長は慌て始めた。
「小向日葵君、落ちつけっ」
しかし、社長の声は私の耳には届かなかった。
「オマケに、驚いて何も言えない私に提案してきた『小向日葵さんが私と付き合うか、私が小向日葵さんと付き合うか。どちらにします?』ってセリフも、まるで意味不明! それ、選択肢になってない!」
「こ、小向日葵くーん、小向日葵くーん! 落ちつけ、落ちつけ、どうどう」
社長がなだめてくるが、ヒートアップした私は止まらない。
「そのうえ、いきなり左手の薬指にダイヤのついた指輪を嵌められて!! とどめは『外したら、明日はその指に結婚指輪を嵌めてあげますね。もう用意はできていますので』って、もう、なんなのよーーーーー!」
私は勢いよく立ち上がり、両手を握りしめて絶叫した。すると、社長が私の肩を掴んで、ソファに座るよう促す。
「それだけ竹若は君のことが好きだってことじゃないか。いいじゃないか、恋人同士! 俺なんて、俺なんて……」
いきなり社長の声のトーンが落ちた。そしておもむろに立ち上がったかと思うと、肩を落としてトボトボと社長室を出て行ってしまった。
「あ、あの? 社長? インタビューはこれからなんですけど……」
パチパチと瞬きを繰り返す私の前で、扉が静かに閉まった。
「社長がいなくなったら、仕事ができないじゃない。もう」
と、ため息をついていたら、扉の開く音がした。
「よかった。戻ってきてくれたんですね」
パッと振り返ると、なんと噂の人物、私の彼氏様が優雅な足取りでこちらに近付いてくるではないか。
「ここにいたのですか」
そう言って、ソファに座っている私を抱きしめてくる。
「ちょ、ちょっと、放してください!」
「嫌です。私は片時もあなたと離れていたくないのです。それにしても、社長は許せませんね。私の愛するユウカと、二人きりでいたなんて。報復させていただきます」
「あ、あの……」
私の恋人は笑みを浮かべつつ、絶対零度の冷気を放っている。
クツクツと笑っている彼氏様の背中に、黒い翼がついているように見えるのは、私の目の錯覚だろうか。
このお話は、社長付秘書兼SPの竹若和馬と、新米OL小向日葵ユウカが結ばれた夜の翌朝から始まる――
1 初めての朝を迎えた恋人同士って、こんなものなの!?
大きなベッドの上で目を覚ますと、彼はいなかった。扉の向こうから何やら物音が聞こえるので、すでに朝の支度をしているのかもしれない。
「私も起きなくちゃ」
けれど、全身がダルくて体をうまく動かせなかった。仰向けになって、ゆっくりと深呼吸をする。
大きく息を吐くと、お腹の奥がツキンと痛んだ。右手でお腹を擦りながら、私は顔の前に左手をかざす。薬指にはダイヤモンドの付いた指輪が嵌まっている。
指輪を見ながら、昨夜のことを思い返す。
「今夜は放さない」と言われて、受け入れたのは自分の意志だが、それにしたって、それにしたって……!
昨夜のことを思い出すだけで、顔が活火山のように熱くなる。
――うわぁ、私、『初体験』したんだよね!?
裸に肌掛けを巻きつけた状態でのたうち回っていると、ノックのあとに扉が開いた。
そこから顔を覗かせたのは、もちろんこの部屋の主。すでにワイシャツと黒いスラックスを穿き、濃いグレーのネクタイを締めている。
「おはようございます、ユウカ」
麗しいお顔で爽やかに微笑まれ、ドキンと心臓が跳ねる。朝の挨拶をしただけなのに、まるで俳優のように様になっていた。
「お、おはようございます」
首だけ起こして挨拶を返す。力の入らない腕を支えにして、なんとか身を起こそうとしていると、彼の手が私の肩にかかった。そしてベッドに押し倒される。
「え、あの……」
整った顔が近付いてきたと思ったら、彼にキスをされた。上唇、下唇、と順番に吸いつかれ、慌てて拳で彼の胸をドンドンと叩くと、ようやく唇を離してくれた。
「な、何を?」
「恋人同士の朝の挨拶といえば、甘いキスと決まっているではないですか。常識ですよ」
ニッコリと笑みを浮かべながらそんなことを言う彼に、顔が引きつる。
「嘘です、そんなの! いくら私でも、そんなの常識じゃないことくらい知って……んっ!」
ふたたび唇を押し当てられてしまい、最後まで言わせてもらえなかった。
今度は舌を差し込まれる。首を横に振ったが、彼は顔の角度を少しずつずらし、舌が一番深くまで侵入できる位置を探り出す。
そして、逃げ回っていた私の舌を捉えた。舌を絡められ、強く吸われる。
目覚めた直後から淫靡なキスをされ、頭が上手く働かない。
「ふ、んん……」
小さく喘ぐと、彼はようやく唇を離してくれた。
「そうそう。こちらにも挨拶をしなければ」
彼は楽しげに囁き、私の体を包んでいた肌掛けを取り去った。先ほどのキスに翻弄されて朦朧としている私は、肌掛けを取り戻すことさえできない。
滲む視界の中、艶やかな黒髪が私の胸元で揺れている。ぼんやりと眺めていると、彼が左胸の先端を口に含んだ。昨夜散々弄られたソコは、いまだに敏感で、舌で転がされるだけでたちまち感じてしまう。
「あ……」
吐息とも喘ぎともいえない声が、私の口から零れた。官能の色を帯びているその声に、彼は気をよくしたらしく、いっそう丹念に乳首をしゃぶってくる。何度も舐め上げられ、体が疼き始めた。乳首は、刺激を受けてますます硬くなる。
唇をすぼめてチュクチュクと無心に吸い付く彼は、まるで母親の愛情を独り占めしようとしている赤ちゃんのよう。
……しかし、この彼が、赤ちゃんのように無垢であるはずがない。
胸に意識がいっていた私は、彼の手が秘部を目指していることに全く気がつかなかった。彼の長い中指が割れ目に侵入してきた。
初めて体を重ね、男性を受け入れたソコは、まだぽってりと腫れているような感覚がある。昨夜、お風呂に入れてもらったから、ソコもすっかり綺麗になったはずなのだが、キスと胸への刺激でまたぬめりを帯び始めていた。
「ココにもおはようのキスをしてあげたいですが、それはまた今度にしましょう。……自分を抑えられそうにないですから」
意地悪そうにクスリと笑うと、彼は尖らせた舌先でチロチロと私の乳首を舐めながら、中指で秘部を弄る。長い指が膣壁を探るようにそろそろと動き、根元まで入れられ、ゆっくりと抜かれる。そしてふたたび内部を擦られると同時に、左の乳首をジュッと音を立てて吸われた。
「ひ、あっ……」
快感で視界が潤み、涙がホロリと零れる。涙の温かさを感じながら、私は小刻みに体を震わせた。
乳首を吸われる一方で、彼の指先がイイ所を擦り、押し上げ、掻き回す。
「やぁっ……ん!」
視界が白く霞み、新たな愛液が生まれたのを感じた。
「だ、だめ……」
浅い呼吸を繰り返しながら何度も首を横に振るが、彼の舌の動きも指の動きも止まる気配はない。今度は右の乳首を吸われ、彼の口内で好き勝手にされる。円を描くように舐られ、体が疼く。
その疼きのせいで、ヌプヌプと抜き差ししている指を締めつけてしまった。指は二本に増え、少しずつ挿入の速さと深さが増してゆく。胸も秘部も攻められ、疼きは全身へと広がっていった。
私の中で熱が渦巻き始め、どうすることもできなくなる。
「あ、あんっ」
私は与えられる愛撫の前になすすべもなく、小さな啼き声を上げたのだった。
軽く絶頂に達し、私は胸を上下させた。彼は私の胸にキスマークを一つ付け、起き上がる。そしてベッドの端に腰かけ、私を起き上がらせて肌掛けを掛けてくれた。
さらに自分の胸に抱き寄せて、私のこめかみに優しくキスをした。やんわりと押し当てられた唇は瞼へと滑り、そこにもチュッと音を立ててキスを落とす。それで終わりかと思ったら、今度は頬にも唇を当てられた。
彼は今にも蕩けそうな表情をしている。
――なんだろう、この異常なほどに甘い雰囲気は。
彼は嬉しそうに微笑んでいるけれど、私は羞恥と困惑で俯いてしまう。
「あ、あの、竹若さん……」
まだ下の名前で呼び慣れていないので、つい苗字で呼んでしまった。
すると顎に手を添えられ、強引に上を向かされた。
「私のことは名前で呼んでくれませんか? 昨晩は、あんなに呼んでくれたじゃないですか」
彼は漆黒の瞳でまっすぐに私を見つめてくる。
「あ、えと、それは……」
そんなふうに見つめられたら、ますます恥ずかしくなってしまう。
昨晩は気持ちが高まっていたから……
冷静さを取り戻した今は、名前で呼べる気が全くしない。
視線を彷徨わせていると、親指の腹で唇をなぞられた。
「せっかく恋人同士になったというのに、苗字で呼ばれるなんて淋しいじゃありませんか。この可愛い唇で呼んでください。愛らしい声で、私の名前を聞かせてください」
顔がボンッと熱くなる。
――ホント抵抗なく恥ずかしい言葉を口にするよね!? フランス人かイタリア人の血でも流れているんじゃないの!?
シャイな日本人気質の私には、とてもじゃないけど、そんなセリフは吐けない。
「い、今ですか?」
「ええ、もちろん」
彼は間髪いれずに返事をすると、私を見つめたまま、目元を緩ませた。
恋人同士が、お互いを名前で呼び合うのは極自然なことだ。だけど! だけど! 今まで苗字で呼んでいた人を、急に名前で呼ぶのは照れくさい。
「え……、うぅ、えと……」と呻いていると、温かい手で頬を包まれ、鼻先が触れ合いそうな距離で瞳を覗き込まれた。
「そんなに難しいことでしょうか? さぁ、ユウカ」
たとえ呼べなくても、彼なら「仕方ないですね」と笑って許してくれるだろう。でも、がっかりさせてしまうかもしれない。それは嫌だ。
ほんのちょっとでも彼を喜ばせることができるなら、恥ずかしさくらいは堪えて呼んでみようかな。よし、女は度胸だ!
彼の瞳をまっすぐに見つめて、私はすっと息を吸い込んで、彼の名前を呼んでみた。
「か……、和馬さん」
ブワッと顔が熱くなる。恥ずかしさで暴れたいのを必死で耐え、彼の様子を窺う。
するとわずかに間を空けたあと、彼は満面の笑みを浮かべた。
「ああ、なんて幸せなんでしょうか」
よかった、喜んでくれたみたい。
呼び方を苗字から名前に変えただけなのに、彼との心の距離が近付いた気がした。
手は頬から外されたが、私は視線を逸らすことなく、竹若さん……じゃなかった、和馬さんをじっと見つめていた。
今まで彼は私にたくさんの喜びをくれた(困ることもたくさんされたが)。だから、これで少しは竹わ……間違えた、和馬さんが喜んでくれたら私も嬉しい。
「あ、あの……」
「私の名前は『あの』ではないですよ」
すかさず突っ込まれる。
「ご、ごめんなさい。まだ慣れていないので……」
「では、慣れるためにもっと呼んでみるべきです。さぁ、どうぞ」
困った。それにそんなに期待に満ち満ちた顔で待ち構えなくても……
瞬きを一つしたあと、小さな声で「……和馬さん」と口にする。
「ユウカに呼んでもらうと、自分の名前が特別なものになったように思えます。今までこんなふうに感じたことは一度もありません」
和馬さんは私を胸に抱きこみ、額や瞼、頬に次々と唇を寄せてくる。まるで飼い主にじゃれつく犬のようだ。
まぁ、和馬さんの場合は犬じゃなくて、黒豹なんだけど。
嬉しさをストレートに表すのはいいが、いい加減このやりとりを終わりにして欲しい。このままではのぼせて、またベッドに伏せってしまう。
キスの雨はいっこうにやみそうになかったけれど、私は彼の口元をなんとか手の平で覆った。
「で、でも、過去の彼女さんにだって、名前で呼ばれていたんじゃないんですか?」
学生時代に恋人がいたという話は、聞いたことがあった。純粋に疑問に思ったから訊いたのであって深い意味はなかったのだが、和馬さんはちょっぴり気まずそうに視線を落とした。
「確かに彼女と呼べる人はいましたが、名前を呼ばれて、こんなにも幸せだと感じたのは、ユウカが初めてです。それだけ、私にとってユウカが、特別な存在なんですよ」
頬を緩ませて見つめられ、またしても心臓の鼓動が速くなる。
「そ……うですか……」
和馬さんは甘いセリフを次々と口にする。
が、慣れていない私は、やっぱり恥ずかしい。肌掛けをギュウギュウと握りしめ、「アー、ウー」と俯いて呻く。
そんな私に呆れることなく、和馬さんは優しく髪を撫でてくれた。
「朝ご飯にしましょうか。準備は調っていますので」
「あ、は、はい」
俯いたままコクコク頷くと、頭に大きな手がポンと置かれる。
「新しい着替えはそちらのクローゼットに用意しています。よかったら着てください」
そう言って、和馬さんは寝室の奥にあるクローゼットを見やる。
「え? 新しい着替え? 私が昨日着ていた服は?」
きょとんとして彼を見上げると、ニッコリと笑顔が返ってきた。
「今、洗濯しています。下着とストッキングは丁寧に手洗いしましたので、生地は傷んでいないはずです。心配しなくても大丈夫ですよ」
「……は?」
――自分の彼氏に下着を洗われるって……しかも手洗いって、どんな羞恥プレイ!?
私は、ふたたび激しく悶絶した。
和馬さんが寝室から出たあと、急いで着替えを済ませた。
それから顔を洗ってキッチンに向かう。すると、小さなテーブルセットの上に、こんがり焼かれたトーストとグリーンサラダ、キウイや苺が載ったヨーグルトが置かれていた。
椅子に座ると、和馬さんが温かいカフェオレを持ってきてくれる。
「簡単なもので申し訳ないですが」
「い、いえ。十分です。いただきます」
パチンと手を合わせ、モグモグと食べ進める。本当は訊きたいことがあるのだが、言い出せない。
――どうやって下着を用意したんだろう。
実はクローゼットの下のほうに紙袋があったのだ。覗いてみると、小花柄の下着や可愛らしいレースが付いた下着が入っていた。怪訝に思いながらも身に着けたら、驚くことにサイズがぴったりだった。
どうして私のカップのサイズを知っているのか。そして、最大の謎……どうやって女性物の下着を手に入れたのか。まさか、和馬さんが買いに行ったのだろうか?
気になるけれど、訊けない。カフェオレを飲みながら、正面に座っている和馬さんをチラチラ見ていると、クスッと笑われた。
「下着のことですか?」
――なぜわかった!?
相変わらず勘のよすぎる彼に、私は思わず目を丸くした。
「中村君がくれたんですよ。『願掛けというか、お守りというか、そんな感じかな。もしかしたら、もしかするかもしれないから、持っておきなさいよ』と言って、私に差し出してきたんです。なので、ありがたく頂戴しました。さすが付き合いが長い分、私のことをわかっていますね」
――中村君……ということは同じ部署の留美先輩か! 男性に何を渡しているんですか! いつも私のことを可愛がってくれて、感謝していますけど、それはおせっかいというものですよ!
顔色を赤や青に変えながら、和馬さんに訊ねる。
「そ、それって、いつのことですか!?」
彼は少し首を捻り、
「今年に入って、少し経った頃だったと思います」
と、答えた。
そういえば年明けに仕事に行ったら、留美先輩にいきなり胸を鷲掴みにされたんだよね。『ふぅん、70のBか……』とか呟いていたけど、それってそういうことだったの!? もー、先輩の馬鹿!
テーブルに額を押し付けていたら、留美先輩の高笑いが頭に響いたような気がした。
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