誕生日にほしいものは

京 みやこ

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(8)俺も……、好き

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――シリルが僕の恋人なのは確定だし、焦る必要はないよね。ちょっとだけ、時間をあげようかな。



 エディフェルドは心の中で呟き、優しい微笑みを浮かべる。

 しかしながら、時間をあげるつもりでありながら、五分とは待てないだろう。 

 赤く染まったシリルの頬を撫でつつ、エディフェルドは声をかける。

「ねぇ、シリル。こういう時は、鼻で息をするんだよ。知らなかった?」

 穏やかな声で問いかけると、ふいにシリルがプイッと横を向く。

「……知るわけない。こんなの、今までしたことなかったし」

 それを聞いて、エディフェルドの心臓がキュンと音を立て、下半身にギュンと熱が集まった。

 シリルを自分の恋人にすると決めたあの日から密かに見張りをつけていたエディフェルドは、シリルに恋人がいないことを知っている。

 また、シリルが軽い気持ちで恋愛を楽しむ人物ではないということも知っているので、彼が性的な経験に対して真っ新であることも理解している。



 だが、本人の口から恥ずかしそうに告げられると、とにかく……、滾たぎるのだ。



 横を向いたことで、真っ赤に染まるシリルの右耳がエディフェルドの視線の先にある。

 その耳に噛り付きたいと思っていたところで、シリルがボソリと呟く。

「……かっこいいルドは、今までたくさん恋人がいて、たくさん経験しただろうけど。俺は……、なにも知らない」

 彼の言葉は怒っているのではなく、嫉妬だとエディフェルドには伝わった。

 そして、どこか悔しそうにしているシリルが、猛烈に可愛かった。

 エディフェルドは上半身を倒し、シリルの右耳に唇を押し当てる。

 予期しなかったことであり、またくすぐったかったということもあり、シリルは「ひゃっ」と小さな悲鳴を上げた。

 そんな反応も可愛く思え、エディフェルドは頬を緩ませる。

「さっき、言ったよね。僕は八年前から、ずっとシリル一筋だって。僕が恋人にしたいのは、シリルだけだよ。だから、僕だって経験はないんだ」

「でも、妙に慣れていたし……」

 相変わらず横を向いたまま、シリルがボソッと呟いた。

 エディフェルドはさらに頬を緩ませ、シリルの耳元で囁く。

「それも、さっき言ったでしょ。事前学習はばっちりだって。頭の中でシリルとの口付けを想像して、色々練習したんだ。口の中で飴を素早く転がしたりとか」

 次いで、自分のものよりは華奢な肩に手をかけ、エディフェルドはシリルの体勢を変えさせた。

 仰向けになったシリルは、これ以上ないほど赤い顔でエディフェルドを見上げることになる。

「ルド……」

 どこか不安そうな視線を受け、エディフェルドは形のいい目を細める。

「慣れていないなら、経験を積んでいけばいいよ。僕とたくさん、たくさん、数えきれないほど口付けをしようね」

 

――口付け以上のことも、たくさん、たくさん、たっくさん、経験しようね。



 心の中で呟きながら、エディフェルドは改めてシリルの唇を塞いだ。







 二度目の深い口づけをシリルは先ほどよりも苦しげな様子を見せずに受け入れていた。

 それでも、時折、ハフハフと子犬のように漏らす吐息が、エディフェルドの庇護欲と下半身を刺激する。

 

 大切なシリルを、存分に甘やかしてあげたい。優しくしてあげたい。

 そう思うと同時に、エディフェルドはここで留まるつもりはいっさいなかった。



 エディフェルドはこれまでよりも穏やかな口付けに切り替えると、シリルの服を脱がしにかかった。

 もちろん存分に優しくするつもりではあるが、多少強引に進めないと、どうにもならないことをエディフェルドは理解している。

 どこか不安そうにしているシリルを安心させるためにも、自分が彼の体に激しく欲情しているのだということを分からせる必要があった。

 口付けに翻弄されている間に、シリルは一糸纏わぬ姿となっていた。

 あまりの早業に、抵抗する暇がなかったのである。



 いや、エディフェルドが服を一枚脱がすたびに、「可愛い」、「大好き」、「優しくするからね」、「大丈夫だよ」と何度も声をかけてくれたおかげで、シリルはエディフェルドになら身を任せてもいいと思うようになっていたのだ。



 シリルの服をすべて脱がせたエディフェルドは、これまでの丁寧な手付きが嘘のように己の服を乱暴に脱ぎ捨てた。

 全裸になったエディフェルドは、シリルを強く抱き締める。

「シリル、大好き」

 自分よりも一回り大きな体に包まれ、シリルはコクンと頷く。

「俺も……、好き。ルドが、好き」

 言ってもらうばかりで、自分の気持ちをはっきりと言葉にしていなかったと気付いたシリルは、『それでは男らしくない』と思い、恥ずかしさを我慢して告げた。

 それを聞いて、エディフェルドは心の底から嬉しそうに笑う。

 ひとしきり視線を交し合うと、エディフェルドはシリルの体に唇を這わせた。

 顎先、首筋、鎖骨という順で徐々に下がっていった唇は、次にシリルの右乳首を啄んだ。

 軽く吸ったのち、舌でペロリと舐める。

 シリルはモゾモゾと動いてくすぐったそうにしているが、快感を得ているようには見えない。

 とはいえ、エディフェルドは少しも焦れていなかった。

 それどころか、この手で少しずつ快感を覚えさせていく喜びに胸を膨らませていたのだ。

 一方、シリルは腹の底がムズムズするような感覚に襲われていた。

 快感と言えるほどのものではないが、くすぐったいだけとも違う。

 

――何回か繰り返したら、ちゃんと気持ちよくなれるのかも。



 そんなことを考えた時、この先、何度も、何度もエディフェルドに抱かれることを期待している自分に気付き、猛烈な羞恥心に襲われた。

 ふいにギュッと身を縮めたシリルに、エディフェルドは「どうしたの?」と声をかける。

「いや、あの……、今日だけじゃなくて、これからも、その……、ルドに抱かれるのかと思ったら……、妙に、ドキドキしてきて……」

 眉尻を下げた困り顔のシリルは、可愛い上に色っぽい。

 エディフェルドの下半身が、ギュンギュンと熱を上げた。

 

 今すぐ無理やり性器を挿入して、ガンガン腰を振りたい衝動に駆られるものの、そんなことをしたら、この世で一番大切なシリルを苦しめることになると、エディフェルドは己にきつく言い聞かせる。

 シリルを苦しめたくないのはもちろんのこと、ようやく恋人として手に入れたシリルと、愛し愛される関係になりたいのだ。



――そのためには、しっかり準備をしないと。



 エディフェルドは寝台の上に転がしていた小瓶に手を伸ばして蓋を開けると、中身を大きな手の平で受けた。





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