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(4)だって、俺とルドは、友達で……
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――今のは、なんだ?
エディフェルドが放った言葉もそうだし、つむじに口付けをされているのも、シリルには意味が分からない。
考えても答えは見つかりそうになく、エディフェルドに尋ねるしかなかった。
「な、なに、言って……。だって、俺とルドは、友達で……。それ、どういう意味だよ?」
すると、エディフェルドが静かにため息を零した。
「そういう鈍いシリルだから、驚かせないようにゆっくりと距離を詰めてきたんだけどね。でも、僕の予想よりもはるかに鈍いみたいだから、この辺りではっきりさせようと思って」
「あの、だから……」
返ってきた説明が余計に混乱を引き起こし、シリルは倒れそうになっている。
だが、体にしっかりと回されている腕が、そんな彼を危なげなく支えていた。
「シリルはなんだかんだで僕を受け入れてくれるよね? それって、僕のことが好きだからってことだよね?」
その言葉に、シリルの表情も体もこわばった。
――たぶん、ルドは深い意味で言ったわけじゃない……よな?
うまく言い返せないシリルは、先ほどと同じことを繰り返すのが精いっぱいだ。
「いや、それは……、俺とルドは、友達で……。だから、それなりに、親しいし……」
そこで、エディフェルドの唇がシリルの左耳に触れた。
驚きとくすぐったさで、シリルは息を呑む。
そんなシリルを、エディフェルドがさらに深く抱き込んだ。
「僕はシリルのことを、友達ではなく、恋愛対象として好きなんだ」
吐息交じりの切なげな告白に、シリルの心臓が爆発寸前まで追い込まれる。
同時に、思考回路は停止寸前まで追い込まれた。
――い、今……、ルドは、なんて、言った……?
これは、夢だろうか。
だから、自分に都合のいい言葉が聞こえてきたのだろうか。
混乱しているシリルの頭は、明確な回答を導くことができない。
気付いた時には、寝台の上でエディフェルドに押し倒されていた。
「……は?」
さらに混乱を深めたシリルは、自分を組み敷いているエディフェルドを呆然と見上げているばかりだ。
そんなシリルに「可愛い」と囁きかけたエディフェルドが、ポカンと半開きになっているシリルの唇に自身の唇をソッと重ねる。
――こ、これは、いったい……。
どんなに考えても、シリルには答えが分からない。
夢にしては、伝わってくる感触やぬくもりがあまりにも現実味を帯びている。
かといって、これが現実だとは思えなかった。
「夢……、だよな?」
無意識で零したシリルの呟きに、エディフェルドが目を細めた。
「どうして、夢だって思うの?」
優しく問いかけられ、シリルはハッと我に返った。
「だ、だって……、エディフェルドは侯爵家での人で、俺は平民で……」
「身分を気にするのなら、初めからこの学校には来ないよ」
微笑みとともに、すぐさまエディフェルドが返してくる。
だが、シリルが抱えている疑問は晴れない。
「俺は男で、ルドも男で……」
「同性との恋愛も結婚も、国は認めているよね。だから、僕たちが男同士であっても、問題ないでしょ」
「でも、でも……」
穏やかな声でエディフェルドが答えるものの、シリルはまったく頷けない。しきりに、「でも……」と繰り返していた。
「シリルは、なにが気がかりなの? この際だから、全部僕に話して」
神秘的な深緑色の瞳でまっすぐに見つめられると逆らえず、シリルは心の奥で引っかかっていることを恐る恐るといった感じで口に出した。
「ル……、ルドは侯爵家の跡取りだから……。女性と結婚して、子供を……」
それだけは、絶対に譲れない事柄だろう。
だから、シリルは諦めようとしていたのだ。
エディフェルドが結婚するまでの短い期間でもいい。
愛人として日陰の身でもいい。
彼のそばにいられるなら、それでも十分だ。
中にはそのように考える人もいるだろうが、シリルにはできなかった。
限られた期間ではなく、この先もずっと一緒にいたい。
ひと時しか共に過ごせない愛人では嫌だ。
エディフェルドが好きだから。
それができないと分かったからこそ、シリルはこの想いを捨てようとしていた。
なのに……。
シリルの胸の内を聞いたエディフェルドは、クスッと笑う。
「ああ、そんなことか……。別に平気なのになぁ」
そして、なんでもないことのように言った。
反対に、シリルが慌てる。
「そんなことってわけにはいかないだろ! 侯爵家の将来は、ルドだけで決められるものじゃない! 仮にルドが俺のことが好きだとしても、許されるわけがないんだ!」
色々な感情が複雑に絡み合い、それが涙となってシリルの目から零れた。
ゆっくりと頬を伝う涙を、エディフェルドが長い指で拭う。
「仮にって、ひどいなぁ。僕は本気でシリルが好きなんだよ。だからこそ慎重に距離を詰めて、確実に囲い込もうとしていたのに」
シリルに向けられる視線は甘く、やけに真剣だ。
そんな視線を受けたシリルの心境は複雑だった。
「じゃあ、侯爵家の将来はどうなるんだ!? 俺は背が低くて体も小さいが、れっきとした男だ。絶対に子供を産めないんだぞ!」
声を荒げるシリルに反し、エディフェルドが柔らかく目を細める。
「そのことも、ちゃんと考えてるよ」
「……妾の女性に、ルドの子供を産ませるのか? その子に家を継がせるから、この先も大丈夫ということか?」
貴族の中には、本妻以外の女性が生んだ子を跡継ぎに据えることも、ごくまれにあったのだ。
シリルに考えられることは、それが精いっぱいだった。
エディフェルドが放った言葉もそうだし、つむじに口付けをされているのも、シリルには意味が分からない。
考えても答えは見つかりそうになく、エディフェルドに尋ねるしかなかった。
「な、なに、言って……。だって、俺とルドは、友達で……。それ、どういう意味だよ?」
すると、エディフェルドが静かにため息を零した。
「そういう鈍いシリルだから、驚かせないようにゆっくりと距離を詰めてきたんだけどね。でも、僕の予想よりもはるかに鈍いみたいだから、この辺りではっきりさせようと思って」
「あの、だから……」
返ってきた説明が余計に混乱を引き起こし、シリルは倒れそうになっている。
だが、体にしっかりと回されている腕が、そんな彼を危なげなく支えていた。
「シリルはなんだかんだで僕を受け入れてくれるよね? それって、僕のことが好きだからってことだよね?」
その言葉に、シリルの表情も体もこわばった。
――たぶん、ルドは深い意味で言ったわけじゃない……よな?
うまく言い返せないシリルは、先ほどと同じことを繰り返すのが精いっぱいだ。
「いや、それは……、俺とルドは、友達で……。だから、それなりに、親しいし……」
そこで、エディフェルドの唇がシリルの左耳に触れた。
驚きとくすぐったさで、シリルは息を呑む。
そんなシリルを、エディフェルドがさらに深く抱き込んだ。
「僕はシリルのことを、友達ではなく、恋愛対象として好きなんだ」
吐息交じりの切なげな告白に、シリルの心臓が爆発寸前まで追い込まれる。
同時に、思考回路は停止寸前まで追い込まれた。
――い、今……、ルドは、なんて、言った……?
これは、夢だろうか。
だから、自分に都合のいい言葉が聞こえてきたのだろうか。
混乱しているシリルの頭は、明確な回答を導くことができない。
気付いた時には、寝台の上でエディフェルドに押し倒されていた。
「……は?」
さらに混乱を深めたシリルは、自分を組み敷いているエディフェルドを呆然と見上げているばかりだ。
そんなシリルに「可愛い」と囁きかけたエディフェルドが、ポカンと半開きになっているシリルの唇に自身の唇をソッと重ねる。
――こ、これは、いったい……。
どんなに考えても、シリルには答えが分からない。
夢にしては、伝わってくる感触やぬくもりがあまりにも現実味を帯びている。
かといって、これが現実だとは思えなかった。
「夢……、だよな?」
無意識で零したシリルの呟きに、エディフェルドが目を細めた。
「どうして、夢だって思うの?」
優しく問いかけられ、シリルはハッと我に返った。
「だ、だって……、エディフェルドは侯爵家での人で、俺は平民で……」
「身分を気にするのなら、初めからこの学校には来ないよ」
微笑みとともに、すぐさまエディフェルドが返してくる。
だが、シリルが抱えている疑問は晴れない。
「俺は男で、ルドも男で……」
「同性との恋愛も結婚も、国は認めているよね。だから、僕たちが男同士であっても、問題ないでしょ」
「でも、でも……」
穏やかな声でエディフェルドが答えるものの、シリルはまったく頷けない。しきりに、「でも……」と繰り返していた。
「シリルは、なにが気がかりなの? この際だから、全部僕に話して」
神秘的な深緑色の瞳でまっすぐに見つめられると逆らえず、シリルは心の奥で引っかかっていることを恐る恐るといった感じで口に出した。
「ル……、ルドは侯爵家の跡取りだから……。女性と結婚して、子供を……」
それだけは、絶対に譲れない事柄だろう。
だから、シリルは諦めようとしていたのだ。
エディフェルドが結婚するまでの短い期間でもいい。
愛人として日陰の身でもいい。
彼のそばにいられるなら、それでも十分だ。
中にはそのように考える人もいるだろうが、シリルにはできなかった。
限られた期間ではなく、この先もずっと一緒にいたい。
ひと時しか共に過ごせない愛人では嫌だ。
エディフェルドが好きだから。
それができないと分かったからこそ、シリルはこの想いを捨てようとしていた。
なのに……。
シリルの胸の内を聞いたエディフェルドは、クスッと笑う。
「ああ、そんなことか……。別に平気なのになぁ」
そして、なんでもないことのように言った。
反対に、シリルが慌てる。
「そんなことってわけにはいかないだろ! 侯爵家の将来は、ルドだけで決められるものじゃない! 仮にルドが俺のことが好きだとしても、許されるわけがないんだ!」
色々な感情が複雑に絡み合い、それが涙となってシリルの目から零れた。
ゆっくりと頬を伝う涙を、エディフェルドが長い指で拭う。
「仮にって、ひどいなぁ。僕は本気でシリルが好きなんだよ。だからこそ慎重に距離を詰めて、確実に囲い込もうとしていたのに」
シリルに向けられる視線は甘く、やけに真剣だ。
そんな視線を受けたシリルの心境は複雑だった。
「じゃあ、侯爵家の将来はどうなるんだ!? 俺は背が低くて体も小さいが、れっきとした男だ。絶対に子供を産めないんだぞ!」
声を荒げるシリルに反し、エディフェルドが柔らかく目を細める。
「そのことも、ちゃんと考えてるよ」
「……妾の女性に、ルドの子供を産ませるのか? その子に家を継がせるから、この先も大丈夫ということか?」
貴族の中には、本妻以外の女性が生んだ子を跡継ぎに据えることも、ごくまれにあったのだ。
シリルに考えられることは、それが精いっぱいだった。
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