その香り。その瞳。

京 みやこ

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(19)SIDE:奏太

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 とんでもなくかっこいい人が、僕を気持ちよくさせるために頑張ってくれるという。
 ヒエラルキーの頂点に立つアルファにそんなことを言われ、感動しないオメガがいるだろうか。
 僕が発情期ということもあるだろうが、純粋に胸がときめいて、心臓の音がやたらとうるさい。
 耳の奥でバクバクと響く音を聞きながら先輩を見つめていると、繋がっている左手が静かに持ち上がった。
 先輩は自分の右手を引き寄せ、僕の左手にキスをする。
 チュッと音を立てて手の甲にキスをした先輩が、握っている手に軽く力を入れた。
「奏太、今だけ右手を放してもいいか?」
「やだ……」
 反射的に、首を横に振ってしまった。
 先輩の大きな手が僕の小さな手を包んでくれると、それだけで妙に安心できる。この穏やかな温もりを放したくなかった。
 やだ、やだと小さな子供のように駄々をこねる僕に、先輩が握る手を優しく揺さぶる。
「今だけだ。あとで、好きなだけ繋いでやる。左手はこのままにするから、いいだろ?」
 そう言われても、僕は首を横に振り続けた。
 そんな僕に、先輩は困ったように、だけど嬉しそうに微笑んでいる。
「そこまで俺と手を繋いでいたいのか?」
 先輩に問われて、僕は横に動かしていた首を縦に小さく動かす。
「せんぱいの手、すき……」
「俺のことは?」
 先輩がすかさず問い返してきた。
 無意識に、僕は口を噤んでしまう。
 ふやけた頭ではその理由は分からないが、『好きだ』と告げることはいけないことなのだと、それだけは分かっていた、
 伏せた視線を僅かに逸らすと、また問われる。
「なぁ、奏太。俺のことは?」
 答えを促すように、先輩が緩やかに腰を前後させてきた。
 ナカにある気持ちいい場所から微妙にずれた場所を刺激され、もどかしさのあまりに好きだと言ってしまいそうになる。
 同時に、それだけは絶対に言葉にしてはいけないのだと、頭の片隅にいる誰かが大声で喚いていた。
「答えてくれないと、このままだぞ」
 そう言って、先輩はクスリと笑う。
 だけど、その声には冗談ではないといった響きがあった。きっと、先輩は僕が答えるまで、決定的な快感を与えないつもりなのだ。
 我慢できなくなった僕は、自分から腰を動かして、先輩のペニスに気持ちいい場所を当てに行く。
 ところが先輩はすかさず体をずらし、微妙にずれたポイントをペニスで刺激してきた。
 何度やってもポイントをずらされ、いよいよ僕の限界が近付いてくる。
 その時、またしても問いかけられた。
「奏太。俺のこと、好き?」
 僕は少し迷った後、熱い呼気と共に言葉を発する。
「…………すき」
 それを聞いた先輩は、フワリと微笑んだ。
 さっきは幸せそうだったけど、今度は嬉しそうだった。
 いつだって大人びて見える先輩の顔が、今は子供のように無邪気に見える。それだけ、僕の言葉が嬉しいのだろうか。
 アルファとして申し分のない先輩のことだから、数え切れないほどたくさんの人に好意を寄せられているはず。
 それなのに、僕のような半端者のオメガにたった一言「好き」と告げられただけで、こんなに嬉しいものだろうか。
 疑問に思うものの、そんな先輩を見られて僕も嬉しくなる。
 だから、つい、もう一度口を開いてしまった。
「とき、すき……」
 逸らしていた視線を正面に戻して告げると、先輩はピタリと動きを止めた。眉間に深く皺を刻み、「ぐ、うぅ……」と、低い声で唸る。
「今ので、イキそうになった……」
 深く息を吐く先輩の様子に、僕はクスクスと笑ってしまう。
 これまでさんざん先輩にやられっぱなしになっていたから、ささやかながらも仕返しできたみたいで楽しくなる。
「とき、だいすき」
 繋いでいる手にキュッと力を入れて告げると、先輩の眉間の皺が一層深くなった。 
「嬉しいが、今はやめてくれ。奏太より先にイクのは、正直悔しい」
 奥歯を噛み締めて必死に我慢している様子が楽しくて、それに、先輩の表情にはすごく色気があって、ずっと見ていたいと思える。
 僕が「だいすき」と繰り返していれば、挑むように僕に視線を向けた先輩が、ふいに勢いよく腰を突き上げてきた。 
 気持ちのいい場所を的確に刺激され、僕は喘ぐ以外はなにも言えなくなってしまう。
「は……、あんっ!」
 ところが、突き上げは一度だけで終わった。
「……とき?」
 眉尻を下げて彼を見上げると、余裕を取り戻した先輩がニヤリと口角を上げる。
「俺のコレで、もっと突いてほしいだろ?」
 そう言って先輩がペニスの先端でグリッとナカを刺激してくるものの、この動きも一回で止まってしまう。
 僕は必死になって懇願を繰り返した。
「とき、とき……。お願い、もっと……、とき、おねが、い……」 
 すると、先輩はさっきと同じように、僕の左手にチュッとキスをする。
「これよりも、気持ちよくなりたいよな?」
 色っぽく目を細める先輩に、僕は何度も頷く。
「うん、うん……、きもち、よく、して……」
「じゃあ、今だけ、この手を放してもいいか? 片手は離れるが、その分、奥まで奏太を可愛がってあげられるから」
 そんなことを言われたら、一も二もなく了承するしかなかった。
「わ、かった……」
 僕は握り込んでいた指の力を抜き、ゆっくりと先輩の手を放す。
 解放された左手が寂しくて、シーツを握り込んだ。
 チラリと先輩を見上げると、よくできましたと言わんばかりに目を細められる。
 そして、先輩は僕の右足をまたぐ体勢になり、右腕で僕の左太ももを抱え込んだ。
 僕の後孔を中心にして、互いの足が交差する形になる。これまでより、いっそう密着したようだ。
 先輩は繋いだままになっている手を引き寄せ、僕の右手に優しく唇を押し当てた。
 数回キスを繰り返してから、先輩が僕の手を改めてシーツに縫い付ける。
「これで、思い切り奏太を気持ちよくさせてあげられるぞ」
 腰が痺れるほど艶っぽい声で囁いた先輩は、引いた腰を勢いよく捻じ込んできた。
「う、あぁっ!」
 その勢いのままにしこりが抉られ、ペニスの先端が深く入り込んでくる。
 僕の足を抱えた先輩は絶妙にバランスを取りながら腰を振り、グチュグチュと水音を響かせてナカを暴いてゆく。
 ガチガチに張り出したペニスの先端が、奥の奥まで到達した。それでもまだ足りないとばかりに、先輩はガツンと腰を強く打ち付け、何度も最奥を刺激する。
 そこは発情期になるとオメガの体内に現れる器官で、直腸の先からほんの少し逸れたところにある。アルファの精液を吸収する器官で、ここに子供が宿るのだ。
 オメガにとって聖域であり、また、最大の性感帯でもある。
 その場所を連続して力強く刺激され、お腹の奥がキュンキュンと締め付けに似た動きを繰り返していた。
「奏太のナカ、俺の精液が欲しいって言ってるな」
 猛然と腰を振りながら、先輩が嬉しそうな声音を漏らす。
 そのセリフが羞恥心を掻き立て、頬どころか耳まで熱くなった。
「そ、そんなこと、いわないで……」
「だが、こんなにヒクついているんだぞ」
 先輩が僕に圧し掛かるように軽く前傾になれば、さらに奥までペニスの先端がズブズブと侵入してくる。
 体重をかけてガツガツと突き込まれれば、最奥は忙しなく収縮を繰り返した。
「あ、あ……、ん。ふ……、うっ、んんっ!」
 あまりの気持ちよさに、まともな言葉は発することができない。ひたすら甲高い喘ぎと熱い呼気を吐き出すばかりだ。
 そんな僕の様子に、先輩は満足そうにクスッと笑う。
「早く出せって、俺のペニスにしゃぶりついてくる」
 先輩が僕の左足をしっかり抱えると、これまで以上に体重をかけ、いっそう激しく腰を振ってきた。
 グジュッ、ジュプッと、湿ったいやらしい音が寝室に大きく響き、甘く切ない僕の喘ぎ声と、先輩の僅かに切迫した呼吸が重なり合う。 
「や、あっ、あ……、も、もう……」
 たまらない快感が、やるせない熱と共に僕の全身を駆け巡った。 
 その熱は、やがて先輩のペニスが刺激している最奥に集まっていく。
「ははっ、すごいヒクついているな。しゃぶるどころか、根こそぎ絞り取ろうとしているぞ」
 とんでもなく恥ずかしいことを囁かれるけれど、僕の頭は完全に白く霞んでいて、先輩の言葉を理解できない。
「あ、ふっ……。ん、あ、あぁ……」
 だらしなく半開きになった口で喘ぎ、うつろな目で見上げている僕に、先輩は壮絶なまでに艶っぽく、そして雄の顔で微笑む。
「いいよ。奏太のココに、目いっぱい、俺の精液を注いでやるから……」
 先輩は僕の体を二つ折りにするくらいに体重をかけてきて、上からガンガンと腰を叩き付けてきた。
 オメガ特有の器官をこじ開けるかのように、ペニスの先を強引にねじ込んでくる。
 限界までズップリと挿入され、まぶたは閉じていないのに、僕の目の前が一瞬暗くなった。
 その暗闇に真っ白な光が弾け飛び、僕の全身が大きく震えた。
「ん……、あぁっ!!」
 悲鳴じみた嬌声と共に、僕のペニスはピュクッと白濁を吐き出す。
 ガクンと体が弛緩し、訳が分からなくなった。
 それでも、僕のナカにいる猛々しいペニスが、熱い精液をほとばしらせることだけは、かろうじて感じることができたのだった。

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