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(65)SIDE:奏太
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美味しいラーメンをじっくり味わい、他愛のない会話も織り交ぜながら食事を終えた。
二人並んで食器を洗った後は、ソファに移動してのんびりしている。
そこで、斗輝のスマートフォンが着信を告げた。
「清水からだ」
彼の膝に抱き上げられていた僕は、通話の邪魔にならないよう、離れるためにモゾリと移動する。
しかし、斗輝が片腕で僕の腰をグッと抱き留めたので、僕のお尻がソファの座面に着地することはなかった。
「奏太の引っ越しに関することだろうから、聞かれても問題ない」
そう言って、さらに僕を抱き寄せながら彼は通話に応じる。
やっぱり斗輝の予想通り、僕が借りている部屋の引っ越しが手配できたという報告だった。
来週末の休みに引っ越し業者が来るため、それまでには荷物をある程度まとめてほしいということだった。
大した荷物はないので、二日もあれば日用品や小物類は纏められるだろう。使っていたベッドや机などは、そのままこちらに運び込むことになっている。
斗輝が買ったこの部屋は、このマンションの中でも広いタイプだそうだ。
十二畳の洋室が空いているから、そこを僕の部屋にして構わないと斗輝から言われている。
とはいえ、寝る時は彼のベッドでということだ。
それならわざわざ僕のベッドを持ち込むことはないのかもしれないが、あのベッドは兄姉が引っ越し祝いに買ってくれなものなので、処分するには気が引ける。
それを伝えたら、「新しいから、捨てるにはもったいないしな。仮眠用のベッドとして、奏太の部屋に置いておくといい」とあっさり了承してくれた。
『ベッドは一つあったら十分だ、処分してしまおう』
そう言われるかと思っていたので、ちょっとだけ拍子抜けしてしまう。
そのことも正直に伝えると、斗輝は苦笑を零した。
「仮眠も俺のベッドを使ってくれてかまわないんだが、せっかく買ってもらったものを俺の独占欲で捨てさせるのは申し訳ないだろ。それに、奏太の家族から心が狭いと思われたくないしな」
スマートフォンをローテーブルに置いた斗輝は、両腕で僕をギュッと抱き締める。
「斗輝は、心が広いですよ」
僕の言葉に、彼は苦笑を深める。
「それは、奏太に嫌われないよう、理性で留めている部分があるだけだ」
「え?」
きょとんと目を丸くする僕に、斗輝はフッと口角を上げた。
「できることなら、この部屋から奏太を出したくない。俺以外の誰とも会わせたくない、それが奏太の家族であってでもだ。俺だけを見てほしい、俺だけに笑いかけてほしい。他の人の名前を呼んでほしくない、声さえもかけてほしくない。俺の本心では、そう考えているんだぞ。だが、それを実行してしまうと、奏太らしさがなくなってしまうからな」
何度聞いても、アルファの独占欲というものはすさまじい。
改めて目を丸くしていたら、「大抵のアルファは、そんなものだ。とはいえ、俺も清水も一葉も、自分の想いだけで突っ走ったりはしない」
彼が言う通り、斗輝はたまに過剰な過保護が発動するけれど、おおむね、僕の意思を尊重してくれている。
ここで、僕はふと気付いた。
「……あれ、二葉先生は?」
番を得ているはずなのに、名前を挙げられていない。一葉先生の名前を出して、二葉先生を忘れるなんて、優秀な斗輝がするはずないだろう。
ポツリと零した問いかけに、斗輝がクスッと笑った。
「二葉は番の了承を得る前に半ば強引に抱いて、しかもうなじを噛んだ。おっとりしているように見えて、独占欲と執着心が一番強いのは二葉だな」
いつもニコニコ笑って優しい二葉先生に、そんな激しい一面があったなんて。
驚いていたら、「意外だろ?」と言われたので、頷き返した。
「そのうち、二葉の番とも顔を合わせることがあるだろうな。奏太と歳が近い、男性のオメガだ」
「友達になれるでしょうか?」
同性のオメガが友達になってくれたら、なにかと心強い気がする。発情期の苦労とか、いい抑制剤の情報とか、色々と話をしてみたい。
「奏太は素直で優しいから、すぐに相手も受け入れてくれるさ。ただ、二葉がどう出てくるか……」
困ったように笑う彼に、オズオズと問いかける。
「会わせてくれない、とか?」
すると、斗輝が苦笑まじりに頷き返してきた。
「二葉の本音では、そうだろう。それこそ鎖を付けて部屋に閉じ込めておきたいって思うような、ちょっと危ない男だしな。だが、番の気分転換のためにも、外に連れ出すくらいはするだろう。相手が小柄だから、腕に抱き上げた状態で」
「え?」
監禁思考のある二葉先生の性格を知って驚いていたら、斗輝がほんの少しだけ寂しそうに笑う。
「二葉の番はある事情によって、育った環境が十分なものではなかったんだ。だから、成長具合もよくない。奏太より小柄で、体付きがかなり華奢だな」
オメガは体質のせいであまり背が伸びず、また筋肉もつきにくい。
僕は田舎でのびのび育てられてご飯もモリモリ食べて、それでもこの体格なのだ。
もともとの体質に加えて成長期の栄養状態が悪かったのなら、体が小さいのも仕方がない。
今の僕の体格でさえ斗輝はやたらと過保護なのだから、二葉先生が番さんを心配する気持ちも分かる。
ソッと斗輝の胸に凭れかかったら、彼が髪に頬擦りしてきた。
「そういった番だから、二葉は自分の腕の中に囲って守りたいのだろう。番が誰からも傷付けられないように、そして些細な危険さえも及ばないように」
「やっぱり、二葉先生は優しい人だね」
「自分の番がなにより大事だというのは、おおよそのアルファが持つ共通認識だしな。まぁ、二葉は過剰だが」
クスッと笑う斗輝につられて、僕も笑う。
「番さんの移動手段が二葉先生の抱っこというのは、確かにちょっと……」
「二葉の場合、番の安全が第一なんだが、自分の番と仲がいいというアピールをしている節はある」
「どういうことですか?」
首を傾げたら、斗輝が目を細める。
「篠岡が有名な製薬グループだから、その財産やバックボーンを欲しがるオメガに狙われているんだよ。一葉は見た目が怖くて近寄りがたいが、二葉は優し気な印象だから、接触しやすいって考えているんだろ。だから、既に番がいて、仲良くしていることを周囲に知らしめることで、オメガを遠ざける手段にもなる」
「先生には番がいるのに、まだ割り込もうとする人がいるんですか?」
アルファとオメガの番関係は絶対のもので、ましてうなじを噛んでいるのに、それでも邪魔する人がいるなんて。
二葉先生はとてもいい人だから、どうしても番になりたいって思うオメガがいてもおかしくない。
それでも、割り込むのはどう考えてもおかしい。
「ああ。番を退けて、自分がその座に収まろうっていう魂胆のオメガはいるな。そういうオメガは、ある程度の資産や権力を持った家の人間だ。二葉の番はそれに対抗できるだけのバックボーンがないから、そこを突いてくるんだ。率直に言うと、『篠岡家に相応しくない』ってことだな」
そこで、斗輝がため息を零す。
「澤泉も篠岡も、今はもう家の格式にこだわっていない。番と幸せになることがなによりも重要なのだと、身に染みて分かっているからな。だが、アルファの財産を根こそぎ吸い上げようとしている中途半端な資産家のオメガたちは、いまだに自分の家の格式を売り込んでくる。世間体だの血筋だのと、とにかくうるさい」
「それじゃ、斗輝もこれまで大変でしたよね?」
番がいてもオメガたちが押し寄せてくるなら、独り身の彼は相当苦労をしたのだろう。
若くて優秀で篠岡家以上に名の知れた大グループである澤泉の人間だから、そんなオメガたちにとっては、またとないごちそうだ。
僕の問いかけに、「まぁな」と返ってきた。
「財産目当てのオメガたちが手を変え品を変え近付いてくることは散々父親から聞かされていたから、事前の心構えはできていたつもりだったんだが……。実際には、想像以上だったよ」
彼の声が弱々しく、表情もどこか曇っている。
そんな彼をギュッと抱き締めた。
容姿や才能で噂の的になっていた斗輝は、笑顔を見せないことでも有名だった。
清水先輩たちのように気の知れた人といる時は雰囲気が柔らかくなるそうだが、下心を持って近付こうとする人に対しては、途端に壁を作るという。
大学の噂でしか斗輝を知らなかった僕は、当初、彼のことを怖い人だと思っていた。
だけど、そういったことが過去にあったのなら、不愛想になるのも当然だ。本当に信用できる人だけをそばに置こうとするのもよく分かる。
こんなことをしても当時の斗輝の苦労を和らげることはできないけれど、僕は彼を抱き締め続けた。
二人並んで食器を洗った後は、ソファに移動してのんびりしている。
そこで、斗輝のスマートフォンが着信を告げた。
「清水からだ」
彼の膝に抱き上げられていた僕は、通話の邪魔にならないよう、離れるためにモゾリと移動する。
しかし、斗輝が片腕で僕の腰をグッと抱き留めたので、僕のお尻がソファの座面に着地することはなかった。
「奏太の引っ越しに関することだろうから、聞かれても問題ない」
そう言って、さらに僕を抱き寄せながら彼は通話に応じる。
やっぱり斗輝の予想通り、僕が借りている部屋の引っ越しが手配できたという報告だった。
来週末の休みに引っ越し業者が来るため、それまでには荷物をある程度まとめてほしいということだった。
大した荷物はないので、二日もあれば日用品や小物類は纏められるだろう。使っていたベッドや机などは、そのままこちらに運び込むことになっている。
斗輝が買ったこの部屋は、このマンションの中でも広いタイプだそうだ。
十二畳の洋室が空いているから、そこを僕の部屋にして構わないと斗輝から言われている。
とはいえ、寝る時は彼のベッドでということだ。
それならわざわざ僕のベッドを持ち込むことはないのかもしれないが、あのベッドは兄姉が引っ越し祝いに買ってくれなものなので、処分するには気が引ける。
それを伝えたら、「新しいから、捨てるにはもったいないしな。仮眠用のベッドとして、奏太の部屋に置いておくといい」とあっさり了承してくれた。
『ベッドは一つあったら十分だ、処分してしまおう』
そう言われるかと思っていたので、ちょっとだけ拍子抜けしてしまう。
そのことも正直に伝えると、斗輝は苦笑を零した。
「仮眠も俺のベッドを使ってくれてかまわないんだが、せっかく買ってもらったものを俺の独占欲で捨てさせるのは申し訳ないだろ。それに、奏太の家族から心が狭いと思われたくないしな」
スマートフォンをローテーブルに置いた斗輝は、両腕で僕をギュッと抱き締める。
「斗輝は、心が広いですよ」
僕の言葉に、彼は苦笑を深める。
「それは、奏太に嫌われないよう、理性で留めている部分があるだけだ」
「え?」
きょとんと目を丸くする僕に、斗輝はフッと口角を上げた。
「できることなら、この部屋から奏太を出したくない。俺以外の誰とも会わせたくない、それが奏太の家族であってでもだ。俺だけを見てほしい、俺だけに笑いかけてほしい。他の人の名前を呼んでほしくない、声さえもかけてほしくない。俺の本心では、そう考えているんだぞ。だが、それを実行してしまうと、奏太らしさがなくなってしまうからな」
何度聞いても、アルファの独占欲というものはすさまじい。
改めて目を丸くしていたら、「大抵のアルファは、そんなものだ。とはいえ、俺も清水も一葉も、自分の想いだけで突っ走ったりはしない」
彼が言う通り、斗輝はたまに過剰な過保護が発動するけれど、おおむね、僕の意思を尊重してくれている。
ここで、僕はふと気付いた。
「……あれ、二葉先生は?」
番を得ているはずなのに、名前を挙げられていない。一葉先生の名前を出して、二葉先生を忘れるなんて、優秀な斗輝がするはずないだろう。
ポツリと零した問いかけに、斗輝がクスッと笑った。
「二葉は番の了承を得る前に半ば強引に抱いて、しかもうなじを噛んだ。おっとりしているように見えて、独占欲と執着心が一番強いのは二葉だな」
いつもニコニコ笑って優しい二葉先生に、そんな激しい一面があったなんて。
驚いていたら、「意外だろ?」と言われたので、頷き返した。
「そのうち、二葉の番とも顔を合わせることがあるだろうな。奏太と歳が近い、男性のオメガだ」
「友達になれるでしょうか?」
同性のオメガが友達になってくれたら、なにかと心強い気がする。発情期の苦労とか、いい抑制剤の情報とか、色々と話をしてみたい。
「奏太は素直で優しいから、すぐに相手も受け入れてくれるさ。ただ、二葉がどう出てくるか……」
困ったように笑う彼に、オズオズと問いかける。
「会わせてくれない、とか?」
すると、斗輝が苦笑まじりに頷き返してきた。
「二葉の本音では、そうだろう。それこそ鎖を付けて部屋に閉じ込めておきたいって思うような、ちょっと危ない男だしな。だが、番の気分転換のためにも、外に連れ出すくらいはするだろう。相手が小柄だから、腕に抱き上げた状態で」
「え?」
監禁思考のある二葉先生の性格を知って驚いていたら、斗輝がほんの少しだけ寂しそうに笑う。
「二葉の番はある事情によって、育った環境が十分なものではなかったんだ。だから、成長具合もよくない。奏太より小柄で、体付きがかなり華奢だな」
オメガは体質のせいであまり背が伸びず、また筋肉もつきにくい。
僕は田舎でのびのび育てられてご飯もモリモリ食べて、それでもこの体格なのだ。
もともとの体質に加えて成長期の栄養状態が悪かったのなら、体が小さいのも仕方がない。
今の僕の体格でさえ斗輝はやたらと過保護なのだから、二葉先生が番さんを心配する気持ちも分かる。
ソッと斗輝の胸に凭れかかったら、彼が髪に頬擦りしてきた。
「そういった番だから、二葉は自分の腕の中に囲って守りたいのだろう。番が誰からも傷付けられないように、そして些細な危険さえも及ばないように」
「やっぱり、二葉先生は優しい人だね」
「自分の番がなにより大事だというのは、おおよそのアルファが持つ共通認識だしな。まぁ、二葉は過剰だが」
クスッと笑う斗輝につられて、僕も笑う。
「番さんの移動手段が二葉先生の抱っこというのは、確かにちょっと……」
「二葉の場合、番の安全が第一なんだが、自分の番と仲がいいというアピールをしている節はある」
「どういうことですか?」
首を傾げたら、斗輝が目を細める。
「篠岡が有名な製薬グループだから、その財産やバックボーンを欲しがるオメガに狙われているんだよ。一葉は見た目が怖くて近寄りがたいが、二葉は優し気な印象だから、接触しやすいって考えているんだろ。だから、既に番がいて、仲良くしていることを周囲に知らしめることで、オメガを遠ざける手段にもなる」
「先生には番がいるのに、まだ割り込もうとする人がいるんですか?」
アルファとオメガの番関係は絶対のもので、ましてうなじを噛んでいるのに、それでも邪魔する人がいるなんて。
二葉先生はとてもいい人だから、どうしても番になりたいって思うオメガがいてもおかしくない。
それでも、割り込むのはどう考えてもおかしい。
「ああ。番を退けて、自分がその座に収まろうっていう魂胆のオメガはいるな。そういうオメガは、ある程度の資産や権力を持った家の人間だ。二葉の番はそれに対抗できるだけのバックボーンがないから、そこを突いてくるんだ。率直に言うと、『篠岡家に相応しくない』ってことだな」
そこで、斗輝がため息を零す。
「澤泉も篠岡も、今はもう家の格式にこだわっていない。番と幸せになることがなによりも重要なのだと、身に染みて分かっているからな。だが、アルファの財産を根こそぎ吸い上げようとしている中途半端な資産家のオメガたちは、いまだに自分の家の格式を売り込んでくる。世間体だの血筋だのと、とにかくうるさい」
「それじゃ、斗輝もこれまで大変でしたよね?」
番がいてもオメガたちが押し寄せてくるなら、独り身の彼は相当苦労をしたのだろう。
若くて優秀で篠岡家以上に名の知れた大グループである澤泉の人間だから、そんなオメガたちにとっては、またとないごちそうだ。
僕の問いかけに、「まぁな」と返ってきた。
「財産目当てのオメガたちが手を変え品を変え近付いてくることは散々父親から聞かされていたから、事前の心構えはできていたつもりだったんだが……。実際には、想像以上だったよ」
彼の声が弱々しく、表情もどこか曇っている。
そんな彼をギュッと抱き締めた。
容姿や才能で噂の的になっていた斗輝は、笑顔を見せないことでも有名だった。
清水先輩たちのように気の知れた人といる時は雰囲気が柔らかくなるそうだが、下心を持って近付こうとする人に対しては、途端に壁を作るという。
大学の噂でしか斗輝を知らなかった僕は、当初、彼のことを怖い人だと思っていた。
だけど、そういったことが過去にあったのなら、不愛想になるのも当然だ。本当に信用できる人だけをそばに置こうとするのもよく分かる。
こんなことをしても当時の斗輝の苦労を和らげることはできないけれど、僕は彼を抱き締め続けた。
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