その香り。その瞳。

京 みやこ

文字の大きさ
40 / 200

(38)SIDE:奏太

しおりを挟む
 仰向けになった僕は、足の筋肉を揉みながら洗う斗輝の手の動きを無意識に追う。
 完全に発情状態に陥った訳ではないけれど、頭の芯がボンヤリとしていて、体の奥がジンジンと疼いている今は、彼に全裸を晒しているという恥ずかしさが薄い。
 自分だけが裸であったなら、きっとこんなにも無防備に笑っていないだろう。同じように斗輝も裸だから、違和感を覚えないのだ。
 僕とは違うしっかりとした手の平が、ふくらはぎとくるぶしを何回か往復する。そこを洗い終えると、新たにボディソープを手に取って足の裏や指を洗った。
 中途半端な力ではくすぐったいと訴えたので、痛みを感じるギリギリの強さだ。
 それでも足の裏を触られるのはくすぐったくて、思わず足を引っ込めてしまう。
「こら、奏太。大人しくしてくれないと、洗えないだろ」
 困ったように笑う斗輝は左手で僕の右足首をギュッと掴むと、右手で続きを洗い始めた。足の裏をまんべんなく、指の間まで丁寧に。
 その仕草はたしかにくすぐったいものの、それだけではない感覚も生み出す
「や、あ……、くすぐったい。んんっ……」
 思わず、体をふるわせて喘いでしまった。
 首筋や乳首、性器を弄られて感じてしまうのは分かるけれど、足の指を弄られて感じてしまうのは、ちょっとおかしいのではないだろうか。
 それとも、発情期だと、こんなところでも快感を拾えるようになるのだろうか。
 自分ではコントロールできない感覚に戸惑っていると、両足を洗い終えた斗輝が僕の顔を覗き込んできた。
「どうした? なにか困ったことでもあったか?」
 不安そうに視線を彷徨わせている僕を、さっきみたいに胡坐をかいた膝に抱き上げる。
 僕は彼の首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。
「困ってないけど、ぼく、へんだから……」
 ボソボソと小さな声で呟くと、斗輝は不思議そうに首を傾げた。
「そうか? 俺の目には、可愛い奏太にしか見えないが」
「で、でも、足、さわられて、気持ちいいなんて……。そんなの、へんだよ……」
 ふたたびボソボソと答えたら、濡れている髪にキスがたくさん降ってくる。
「変じゃないから、泣きそうな顔をしないでくれ」
キスの合間に、斗輝が優しい声で囁いた。
「ほんと、に? ぼく、へんじゃない? できそこないだから、そんなところで気持ちよくなっちゃうんじゃないの?」
俯いていた顔をソッと上げてたどたどしい口調で尋ねると、斗輝は、即座に首を横に振った。
「奏太は変ではないし、出来損ないでもない。俺が与える快感を丁寧に拾ってくれる、とても愛らしい番だ」
 僕を見つめる黒曜石の瞳は優しくてまっすぐで、ぼやけた頭でも本心からの言葉なのだと理解できる。
「そっか……」
 ポツリと呟き、僕は安堵の息を零した。
 表情から強張りが取れたのを見た斗輝は、おでこに張り付いている前髪を指先でかき分け、そこにやんわりと唇を押し当ててくる。
「奏太は出来損ないなんかじゃないと、何度も言っているだろう。俺の言葉は、そんなに信用できないか?」
 今度は僕が首を横に振った。
「ちがうよ。斗輝は、うそなんかつかないもん。だけどね、ぼくは自分のことがよく分からないから、なにかあると、へんじゃないかなって思うんだ」
 それを聞いた彼が、僕の背中をポンポンと優しく叩く。
「奏太は初めて発情期を迎えたし、オメガの特性をきちんと把握していないから、それで自分はおかしいと感じてしまうんだろうな」
 ポンポンと一定のリズムで叩きながら、斗輝はクスッと笑う。
「言葉で説明しつつ、実感してもらうしかないな。オメガというのは、どういったものなのか。そして、番に執着するアルファが、どういったものなのか」
 彼が言ったことを半分も理解できない僕は、パチクリと瞬きをする。
「斗輝?」
 首を傾げて彼を見上げたら、チュッと音を立てて唇を吸われた。
 そして、穏やかな光を浮かべた瞳に見つめ返される。
「奏太は、なにも怖がることはないんだよ。どんな奏太でも、俺が全部受け止めるから」
「……うん」
 コクンと頷き返すと、改めて唇にキスをされた。

 優しいキスを解いた斗輝が、意味ありげに口角を上げる。
「さてと、まだ洗っていないところがあったな」
「え?」
 その言葉に、僕はきょとんとなった。
 髪は洗ってもらったし、体も洗ってもらった。耳の後ろも、手足の指の間も、彼がじっくりと洗ってくれたはず。
 ボンヤリしていても、どこを洗ってもらったのかは覚えているのだ。
「もう、ぜんぶ洗ってもらった。大丈夫だよ、ありがとね」
 僕が言い返すと、形のいい彼の目がスッと細くなった。
「まだ、完全な発情状態に陥ってないのか」
 そう呟いた後、斗輝が深いキスを仕掛けてくる。
 右手で僕の後頭部を押さえ、左腕で僕の腰を捉え、やや強引に侵入させた舌で口内をかき回し始めた。
 突然のことにどうしていいのか分からず、僕はひたすら彼のキスに翻弄される。
 やがて唇が離れて行った時には、頭の中がさらに白く霞み、体の奥が甘く疼き、後孔からは愛液が溢れていた。
「と、き……?」
 快感によって潤んだ視界に映る彼を呼ぶと、満足そうな微笑みが返ってくる。
「ああ、だいぶ仕上がってきたな」
 よく分からない囁きを零し、斗輝は僕の体をマットに下ろした。そしてうつ伏せにさせると、腰だけを高く上げさせる。 
 右頬をマットに押し付ける格好となった僕は、背後にいる彼に洗うにしては不自然な体勢の訳を尋ねた。
「なに、するの?」
「痛いことも苦しいこともしない。洗うだけだから、心配するな」
 左右に広げた僕の足の間に陣取る斗輝は、ボディソープを泡立てながら楽しそうに答える。  
 それから、右手を双丘の間に這わせ始めた。ワレ目に沿って手が動き、そのうちに中指と思われる指が後孔に触れる。
「あっ」
 敏感な部分に触れられた僕は、反射的に体を震わせて喘いでしまった。
 すると、彼の指が動きを止める。
「体を洗う時に使ったボディソープと違って、これは刺激が少ないタイプだから沁(し)みないはずなんだが。奏太、痛かったか?」
 こちらに身を乗り出して尋ねてくる斗輝に、僕は僅かに首を横に振って答えた。
「なら、よかった」
 安堵した声音で呟いた彼は、指の動きを再開させる。
 後孔周辺でクルクルと小さな円を描く仕草は、洗うというよりも愛撫に近い。指先がナカに潜り込んでくることはなかったが、皺の一本一本を伸ばすかのように、執拗なほど丁寧に指先が動いていた。
 そんなことをされたら、気持ちよくなってしまう。
 僕は無意識のうちに、腰を揺らし始めていた。
「く、ふっ……」
 鼻にかかった喘ぎを漏らし、後孔から背筋を駆け上がる快感に身を任せる。
「いい子だ、奏太。その調子だぞ」
 なんで褒められたのか分からないけれど、快感のままに僕は喘ぎ続けた。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...