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第1章

第2幕 運命の流れ。

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刻カワルーー。

「あった。これですかね」

 琴音は茂みを掻き分けてひょっこりと顔を出したきのこを摘み取り、左手に抱えたかごの中に放り込む。

 ここは、琴音の住む家から少し離れたところにそびえ立つ山で、巨大な大木が堂々と生え、草木が生い茂る深い森がある。
 ここへは美和子の言いつけで琴音は使用人に代わって茸や薬草を採取しに来ていた。
 
「これくらいあれば十分ですよね」

 琴音はそう言うと近くの岩に腰をおろし、目をそっと閉じる。
 帝都からの賑わった声は聞こえず、空気がおいしい。
 とても落ち着く空間だった。

 涼しい風がそっと優しく頬を撫でる。
 小鳥のさえずり、風になびかれ揺れる木々の木の葉の音、そして近くの渓流から聞こえてくる川のせせらぎ。

 全ての音が琴音を優しく包み込む。

 ゆっくりと目を開き、上を見上げるとなびかれて揺れる木の葉が日光を反射させてキラキラと輝く。
 ずっと見ていると目をチクチクと刺激してくる。

(そろそろお腹が空いてきました)

 勿論、美和子や使用人が琴音の分の料理を準備してくれるはずがない。
 琴音もそれを理解していたため、あらかじめ厨房からくすねておいた白米で握った握り飯を3個頬張り、残りの1個は夜食用にとっておくことにした。

 握り飯はもはや冷めきって表面は硬くなっていたが、ちょうどいい具合に腹の虫を誤魔化す程度にはなった。

(喉も乾いてきました)

 そう考える琴音の正面には緩やかな下りの傾斜があり、その先に比較的流れの緩やかな川がある。
 琴音は川の側で腰を下げると、両腕の袖をまくり、両手でおわんの形をつくると、その中に水を溜める。

 水はとても冷たく、透き通っていた。

 琴音は手から水がこぼれ落ちる前に、そっと口へと運ぶと、こく、と喉へと流し込む。

「ふぅ」

 朝からずっと茸や薬草を探し回って疲れきったこの体や干からびた喉によく染み込み、自然に声が漏れる。
 こんなひとときの中、相も変わらず渓流の流れる水の音は心地よく、なびく風も気持ちがいい。

 そしてふと何気なく上流へと視線を運んだ琴音の視界に明らかに不自然なものが横たわっているのが映り込む。
 高級そうな落ち着いた色合いの着物を身にまとい、そこから日焼け知らずの透き通った白い腕が伸びている。
 髪は、その整った顔の片目を多い隠す程度に軽く伸びた白銀の髪色でその姿は正しく、若い男だった。

「こ、この方は⋯⋯?」

 琴音は、美和子によってろくにお金も無く、服も薄汚れたものしか無い為、帝都に出かける事が無くこの男のことは知らなかった。

 しかし、この男こそがこの街で冷徹と噂をされる領主であったのを琴音はまだ知る由もないーー。
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