3 / 19
第3幕 どうして頭から離れないの...?
しおりを挟む
「零?どこだ?どこにいる?」
珠羅はそう言って辺りを見渡す。
しかし、零どころか誰もいない。
「零...?一体どこへ行ったんだ...?まさか...」
すぐに珠羅の頭ががあきらかにこれしかない、という状況が出てきた。
「誘拐...!?」
ーーーー安直だった。
珠羅は沸き立つ怒りを逃がすように拳を強く握り、厨房の机を叩く。
今まで珠羅は妃を娶ろうとはしなかった。
だから王宮内でも、我が娘を妃に、そして国を操る...と企む者がいたのだろう。
そこへ急に零が入って来たため今回の誘拐を決行させ、零を亡きものにしようとしているのだ。
珠羅は下へとうつ向く。
「いくら、後宮だからといって誘拐されるとは考えてもいなかった...女性1人誘拐から守れないなんて...」
ーーーー私は...なんと愚かなんだ...
しかし、ここで待っていても零は帰って来ないだろう。
「追いかけるか。」
次に珠羅が顔をあげた時には目に心配という色は消え、絶対に助けるという決意の色に変わっていた。
◆ ◆ ◆
零は厨房の棚の中からカップを取り出す。
「あんな優しい表情を見せられたら、帰るに帰れないわ...」
零は珠羅が来る前にあらかじめ沸かしておいた紅茶をカップに注ぐ。
そして町の噂とはとても無縁な珠羅を思い出す。
『君は...私と一緒にいるのは嫌か...?』
あの時の少し困った顔とその声音を思い出し、せっかくおさまりかけた頬が、またボワッと熱を帯びる。
「あれは...どういう意味だったのかしら...」
すると、後ろで物音がした。ーーーー珠羅だろうか。彼が遅くて怒っているのではないだろうか、そう思うと後ろを振り返るのをためらう。
「陛下です...か!?」
しかし零は、勇気を振り絞り振り返ろうとしたその時、手拭いで鼻と口を押さえられ、目を見開く。
「!?...!!」
喋ろうとするが、体はどんどん重くなる。恐らくこの手拭いに染み込ませた薬品のせいだろう。
「大人しくしろ!」
そう男の野太い声を聞いて零の意識はそこで途切れた。
◆ ◆ ◆
ーーーーここ...は?
辺りを見渡すと、無造作に置かれた大道具や、壺、布の束などが視界に入り、概ね倉庫だと予想する。
そして手を伸ばそうとして自分は縄で手足を縛られて自由がきかないということを悟る。
(ここはどこ?しかも、手も足も縛られてる...怖い。)
そしてこの時に真っ先に思い浮かんだのは珠羅だった。
あの美しい髪、顔、声音。ついこの前まで恐ろしかったのに頭の中には彼がずっといる。
「陛下...」
と零がポツリと呟いた時、
「お妃様はようやくお目覚めですかな?」
と、意識を失う前に最後に耳にした野太い男の声がきこえてきた。
「あ、貴方は...?」
そこに居たのは左目に片眼鏡をかけた50代位の中年の男だった。
少し白髪の混じった髪に白い無精髭をはやし、顎に手を添えながらニヤリと笑っている。
「あの国王は愚かだ。早く辞めて頂きたいものだな。大人しく我が娘を娶っていれば良かったものを、こんな町娘を娶るとは...先代と何ら変わりも無いではないか。」
(先代...?)
零にはあまり男が何を言っているのかが理解出来なかった。
しかし、わかったことが1つあり、零は男から目を逸らさずに答える。
「陛下は...愚かではありません!!私を気遣って優しく接してくれる、素晴らしい人です!!」
自分も滑稽なものだ、と零は心の中で笑う。ついさっきまであんなにも恐ろしかった珠羅が零を気遣って優しく話しかけてくれただけでこんなにも彼を思ってしまうとは。
「クックック、その台詞を聞くと国王はさぞ喜ぶだろうな。」
そして男は懐から短剣を取り出して叫ぶ。
「まあ、肝心の妃は居なくなるがなァ!!」
男が短剣を高く振り上げる。
(刺される...!!助けて...陛下...!)
そう思い零はぎゅっと目を瞑る。しかし、いつまで経っても短剣は零には届いてこない。
「そうだな、喜ぶだろうな。私なら。」
ーーーーどこかで聞いた事のある優しい声。
ゆっくりと目を見開くとそこには珠羅が男の手首を押さえていた。
「へ、陛下!!」
「き、貴様...!!どうしてここが!?」
男は苦虫を噛み潰したような顔をして嗚咽をもらし、珠羅は、
「さあ、どうしてだろうな?」
と不敵に微笑む。
珠羅はそう言って辺りを見渡す。
しかし、零どころか誰もいない。
「零...?一体どこへ行ったんだ...?まさか...」
すぐに珠羅の頭ががあきらかにこれしかない、という状況が出てきた。
「誘拐...!?」
ーーーー安直だった。
珠羅は沸き立つ怒りを逃がすように拳を強く握り、厨房の机を叩く。
今まで珠羅は妃を娶ろうとはしなかった。
だから王宮内でも、我が娘を妃に、そして国を操る...と企む者がいたのだろう。
そこへ急に零が入って来たため今回の誘拐を決行させ、零を亡きものにしようとしているのだ。
珠羅は下へとうつ向く。
「いくら、後宮だからといって誘拐されるとは考えてもいなかった...女性1人誘拐から守れないなんて...」
ーーーー私は...なんと愚かなんだ...
しかし、ここで待っていても零は帰って来ないだろう。
「追いかけるか。」
次に珠羅が顔をあげた時には目に心配という色は消え、絶対に助けるという決意の色に変わっていた。
◆ ◆ ◆
零は厨房の棚の中からカップを取り出す。
「あんな優しい表情を見せられたら、帰るに帰れないわ...」
零は珠羅が来る前にあらかじめ沸かしておいた紅茶をカップに注ぐ。
そして町の噂とはとても無縁な珠羅を思い出す。
『君は...私と一緒にいるのは嫌か...?』
あの時の少し困った顔とその声音を思い出し、せっかくおさまりかけた頬が、またボワッと熱を帯びる。
「あれは...どういう意味だったのかしら...」
すると、後ろで物音がした。ーーーー珠羅だろうか。彼が遅くて怒っているのではないだろうか、そう思うと後ろを振り返るのをためらう。
「陛下です...か!?」
しかし零は、勇気を振り絞り振り返ろうとしたその時、手拭いで鼻と口を押さえられ、目を見開く。
「!?...!!」
喋ろうとするが、体はどんどん重くなる。恐らくこの手拭いに染み込ませた薬品のせいだろう。
「大人しくしろ!」
そう男の野太い声を聞いて零の意識はそこで途切れた。
◆ ◆ ◆
ーーーーここ...は?
辺りを見渡すと、無造作に置かれた大道具や、壺、布の束などが視界に入り、概ね倉庫だと予想する。
そして手を伸ばそうとして自分は縄で手足を縛られて自由がきかないということを悟る。
(ここはどこ?しかも、手も足も縛られてる...怖い。)
そしてこの時に真っ先に思い浮かんだのは珠羅だった。
あの美しい髪、顔、声音。ついこの前まで恐ろしかったのに頭の中には彼がずっといる。
「陛下...」
と零がポツリと呟いた時、
「お妃様はようやくお目覚めですかな?」
と、意識を失う前に最後に耳にした野太い男の声がきこえてきた。
「あ、貴方は...?」
そこに居たのは左目に片眼鏡をかけた50代位の中年の男だった。
少し白髪の混じった髪に白い無精髭をはやし、顎に手を添えながらニヤリと笑っている。
「あの国王は愚かだ。早く辞めて頂きたいものだな。大人しく我が娘を娶っていれば良かったものを、こんな町娘を娶るとは...先代と何ら変わりも無いではないか。」
(先代...?)
零にはあまり男が何を言っているのかが理解出来なかった。
しかし、わかったことが1つあり、零は男から目を逸らさずに答える。
「陛下は...愚かではありません!!私を気遣って優しく接してくれる、素晴らしい人です!!」
自分も滑稽なものだ、と零は心の中で笑う。ついさっきまであんなにも恐ろしかった珠羅が零を気遣って優しく話しかけてくれただけでこんなにも彼を思ってしまうとは。
「クックック、その台詞を聞くと国王はさぞ喜ぶだろうな。」
そして男は懐から短剣を取り出して叫ぶ。
「まあ、肝心の妃は居なくなるがなァ!!」
男が短剣を高く振り上げる。
(刺される...!!助けて...陛下...!)
そう思い零はぎゅっと目を瞑る。しかし、いつまで経っても短剣は零には届いてこない。
「そうだな、喜ぶだろうな。私なら。」
ーーーーどこかで聞いた事のある優しい声。
ゆっくりと目を見開くとそこには珠羅が男の手首を押さえていた。
「へ、陛下!!」
「き、貴様...!!どうしてここが!?」
男は苦虫を噛み潰したような顔をして嗚咽をもらし、珠羅は、
「さあ、どうしてだろうな?」
と不敵に微笑む。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
結婚して5年、初めて口を利きました
宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。
ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。
その二人が5年の月日を経て邂逅するとき
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる