冒険者ゴートの一生

ケバブ

文字の大きさ
上 下
50 / 60
四章

旅立ちの下級冒険者8

しおりを挟む
夜番も何の問題なく終わり次の日。
今日も天気は良好で問題なく進むことが出来そうだ。

手早く朝食を済ませたあと皆で出発の準備をする。
俺は自分の荷物の確認だけなので、ネルさんを待つついでに柔軟や軽い素振りをする。だが夜番の影響だろう、やはり少しだけ身体が重い。

依頼をこなす以上は可能な限り万全にしておきたいので、いつもの調子に戻すように更に身体を動かす。

これからの行程はネルさんの話によると、二ヶ所の農村に寄り今日はそのまま泊まり、明日にはリンの街に到着するようだ。

御者さんの反応を見ると今日は村で眠れるようだ。野営、野宿でも構わないが室内で眠れるならそれに越したことはない。


道中はなんと問題もなく進みもうじき一つ目の村に着こうかという所。少し先に小さな村が見えてきた。

周りを見渡せば一面草原だった風景が徐々に変化して田畑が見立つようになっている。

「親父!種芋もってきたぜ!」

「助かる!そっちからざざっとやってくれ」

一家総出で芋の植え付けをしているのだろう、農作業に勤しむ声が聞こえてくる。少しだけデミの村を思い出すな。

「あ、荷馬車だ!おーい」

村に近付くにつれ農作業をしている人が増えていく。仕事中とはいえやはりこちらが気になるのだろうか、手を振っている何人かの子供とそれに対してにこやかに返すネルさん。

「可愛いですね」

「本当にネルさん。かくいう家の子供もあれくらいでさ。仕事柄会えない日も多いから寂しい思いをさせているよ。まあこればっかりは仕方がないけどね…」

子供には寂しい思いをさせている。そう言うネルさんの方が寂しそうな表情をしている気がしたが敢えて言わないでおいた。

そんなことを話している間に村に着き、村長の家らしき周りより少し立派な家の前で止まった。

「ゴート君、この村、オンズの村って言うんだけど、ここでは少し取引をしたら直ぐに出発するんで宜しく。本当はゆっくり休みたい所だけど、取引するものも少ないし行程的に宿泊予定のヴァンの村に着くのが少しだけ遅くなりそうだからさ」

「わかりました。それじゃ荷馬車の側で待機してますね」

「頼んだよ。こっちは村長と取引してくるからさ」

馬の世話をしながら御者の人にどんな物を取引しているか話を聞くと、基本的にこのオンズの村のような小さな農村では農作物や狩猟で得た獲物の素材を調味料や農具、衣類と交換しているらしい。
所は違えどデミの村も似たようなものだったのでどこの農村も同じなのだろう。


元気よく走り回る犬と子供。井戸の近くで水仕事をする女性。軒下で手仕事をしている老人。
何となくデミの村での生活を思い出す風景だ。

数年前までは自分もこの日常の一部だった。勿論立場の関係で自由こそ少なかったが日々を平和に暮らしていた。
この生活も一つの幸せの形なのだろう。

しかし俺は様々な人に出会い"外の世界"を知ってしまった。

だからこそ、この胸から溢れ出る好奇心や冒険心が尽きるまでは冒険者は辞められないのだろう。

「ゴート君、お待たせ。そろそろ出発するけど良いかい?」

「何時でも大丈夫です」

「それじゃヴァンの村へ急ごうか。ゆっくりしていると陽が落ちてしまうからね」

次の目的地に向けて荷馬車が進み出す。物思いもこれくらいにして護衛に集中しなければ。

気を取り直して俺は荷馬車の後を進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

奴隷と呼ばれた俺、追放先で無双する

宮富タマジ
ファンタジー
「レオ、お前は奴隷なのだから、勇者パーティから追放する!」 王子アレンは鋭い声で叫んだ。 奴隷でありながら、勇者パーティの最強として君臨していたレオだったが。 王子アレンを中心とした新たな勇者パーティが結成されることになり レオは追放される運命に陥った。 王子アレンは続けて 「レオの身分は奴隷なので、パーティのイメージを損なう! 国民の前では王族だけの勇者パーティがふさわしい」 と主張したのだった。

チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】

Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。 でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?! 感謝を込めて別世界で転生することに! めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外? しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?! どうなる?私の人生! ※R15は保険です。 ※しれっと改正することがあります。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...