暮らしの妖怪帖(加筆版)

三文士

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一年の締めくくり

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 12月31日。日本が1年で1番忙しない日だ。

 朝から昨晩食べたすき焼きの残りを温め直してうどんを入れる。シンプルで美味い。

 居間でずるずるやっていると中型犬サイズに身体を縮めた妖怪、が起きてくる。

「ぬぬ~っ」

「おはよう。うどん食うか?」

 正直、番犬代わりにと思って家に招き入れたコイツだったが、今ではすっかり愛玩動物……いや、愛玩妖怪と化している。頭をわしわし撫でると、意外とモフモフしてて気持ちがいい。

 ウチにいる妖怪はおとろしだけではない。

「おーい。アンタも食うかい?すき焼きうどん」

 天井裏でしょきしょきと小豆をとぐ音がする。

 天井裏にはがいる。姿を見たことは無い。言葉も発しないが、会話は成立している。食い物を居間のタンスの上に置いておくと、いつのまにか無くなっている。

 何しろこの小豆とぎのお陰で俺は役所から助成金が貰えるので、悠々自適な生活ができている。言わばウチの稼ぎ頭なので気を遣って然るべきなのだ。

 そしてもう1匹。愛玩でも無ければ稼ぎもしない穀潰し妖怪がいる。

「あのヤローまだ寝てんのか。このクソ忙しい時に」

 俺はハタキを持って物置へ向かう。

「おい!起きろドラ猫!朝だ!」

「ニャぁあああ目ニャアあああ」

「いい加減にしろ。今日は大掃除なんだぞ!」

「猫は朝が弱いのですニャ。鬼畜ですニャ」

「黙れ居候の分際で。さっさと起きろ!」

 五徳猫ごとくねこはウチで唯一人語を操る妖怪だ。体格は普通の猫と変わらないが、二本足で歩く。そしてよく喋る。だもんで、1番うるさい。


 その日、溜まりに溜まった1年の汚れを朝からぶっ通しで掃除し、なんとか夕方に終える事ができた。みんなよく手伝ってくれていた。猫以外。

「買い物に行く時間もなかったな。昨日のすき焼きで残った野菜もあるし、垢なめの舐め太郎からもらった銀鱈があるから、夜は寄せ鍋にでもするか」

「ニャー!銀鱈!大好物ですニャ!」

「テメエは働いてないから豆腐だけだ」

「殺生ですニャ!外道ですニャ!」

 そんな具合に、我が家はなんだか騒々しい。

 ぐつぐつと煮える鍋を取り囲み、炬燵で暖をとっている。家が古いので時々隙間風が吹いてくる。

「まったく鍋も電気でつけるなんて。風情が台無しですニャ」

「黙れ。我が家はオール電化なんだ。ガスコンロなんて使うものか」

 塩で軽く味付けしただけだが、銀鱈や野菜からシンプルで抜群に美味い出汁が出るので十分だ。

「しかしなドラ猫」

「なんですニャ」

「お前もいつまでもそれじゃ座りが悪かろう」

「ニャ?」

 ネットで買った激安の五徳を奴の頭に被せてやると、突然目をうるうるさせ出した。

「おニャいさん。そんなにもあっちのことを……」

「勘違いするなドラ猫。物のついでだついで」

「ニャぁあああああ、一生ついていきますニャ」

「うわ!飛びつくな!」

「ぬぬーっ♪ぬぬーっ♪」

「お前も!」

 天井裏では楽しそうな雰囲気でしょきしょきと小豆をとぐ音が聞こえる。

 除夜の鐘が町中に鳴り響く。

 妖怪たちと暮らしはじめて、最初の1年が終わりを迎えた。

 隙間風は吹いてるが寒さは感じない。

 妖怪たちと過ごす、新しい一年がやってきた。

おわり
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