上 下
18 / 22
笑い男、デッドエンドの理由(タナトスのデッドの話)

7、笑い男、デッドエンドの理由(サトミに結果報告に行く 前編)

しおりを挟む
週末、俺は一人で運転して、ロンドへ向かった。
腕は痛いが、まあハンドルに手を添えるくらいは出来る。

滅多に乗らない自分の車はベンツのデカいオフロードだ。
金ばかり貯まっていくので、ロンドへ行く目的で奮発した。
タナトスでは、口封じもかねて結構な額の給料が貰える。
ただし、手元に現金が無い奴が多い。
金があると逃げるからだと言われている。
ただし事務局に希望を出すと金は好きな口座に振り込まれるので、家に仕送りしている奴がほとんどだ。

ジンとサトミも金は手元に無かった、彼らの場合は監視役が持っている。
どこへ行くのも3,4人付いてくるので、ジンを誘ったが、自分が動くとあいつら来るから行かないと断られた。
作戦以外は自由が無い、可哀想な奴だ。
まあ、自分がこうして行動しても、必ず監視の目はある。
この車にも、発信器かなんか付いているのかもしれない。

途中一泊してロンドに昼過ぎに着くと、ホテルを取って袋一つぶら下げ、歩いて町をぶらついた。
ホテルはポリスの近くで、金さえ出せば高級車はポリスの車庫で預かってくれる。
金が物を言う町だ、わかりやすくていい。
まあそれでも盗まれたら、また買うだけさ。

運転の疲れは、会う楽しみの方が大きいのであまり感じない。
元々、自動運転装備車なので、軍用車よりうんとラクだ。
それ目当てで高級車を買った。
数人で来るときは、荒野で野営する時もあるし、夜通し交代で運転して走るときもある。
武器はほどほど積んでるので、強盗と聞いてもまったく危険は感じない。
まあ、俺達が怖がるものなんて、何か考える方が難しい。

久しぶりに来たロンドは、少し人が増えた印象だ。
最近郵便増えて忙しいと言った、サトミのぼやきも良くわかる。

サトミがいつも待ち合わせに使う可愛い喫茶店に入るのも、なんだか慣れた。
女の子が、パフェですか?と聞いてくる。
俺達はこの店では、パフェ部隊に成り下がっている。
最初に来たときよりも、パフェの種類が増えてだんだん豪華になってきた。
とてもいい傾向だ。サトミが喜ぶ顔は俺達は自分のことの数倍嬉しい。
ただし、値段も跳ね上がったけど。

パフェはサトミより先に食ったら殴られるので、またあとでねとアイスコーヒー頼む。
まだ時間がある。
暇なので、女の子の雑誌を手に取りめくってみた。
女の写真が沢山だ。
暇つぶしにいい。

うーむ、この子はダメだ。
こっちはいい。趣味だ。あー、ダメだ、髪が長い。
髪の長い女は煩わしい。
身体に長ーい髪がくっつくと気持ち悪い。

こっちの女はいい。あとは臭いだな。
いや、ダメだ、爪が長い。ペニスが傷ついたら俺は死ぬ。
別の意味で死ぬ。

「あら、女性誌興味がおありなんですか?」

アイスコーヒー持ってきて、女の子が俺に聞いてくる。
うん、この女は趣味範囲だ。

「趣味にぴったりなんだ。」

「まあ!ステキね。」

ステキなのか…、まあニッコリ微笑んでおく。

「あれ?」

まだ時間には早いのに、サトミが来て手を上げた。
相変わらずちっこくて、ちょっと痩せたように見えた。

「よう、来たか。こないだの、どうなった?
あ、お姉ちゃん、俺、いつもの。昼食ってないから軽く食うかな。モーニングと同じのある?」

「オッケー、オッケー、エッグトーストと、いつもの激甘カフェオレミルク多めねー!」

「あ、俺も同じエッグトースト下さい。サトミ、少し痩せました?」

「んー、痩せたと言うより、脂肪が落ちた。
ずっと外回りだろ?軍いたときより身体動かしてるんだよな。
休みも何していいのかわかんなくてよ。
タンパク質ばかり食べて、ヒマで筋トレばっかしてるから。
んー……
ちょっとバランス悪いよな、何食っていいのかわかんないんだ。
もう少し外食増やすかな。
ああ、それよりお前どうよ。」

相変わらず刀を背負ったまま、向かいの椅子に座るサトミの姿をじっと見る。
あれ?なんだか久しぶりに見たら、ずいぶん大人っぽく見えるな。
あれ?こんなにカッコ良かったっけ?

じっと見て、ニイッと笑っていると、あからさまにイヤな顔された。

「お前ちっとも変わらねえなー。人を品定めする目つき、止めろっつっただろ?
店員の姉ちゃんを性的な目で見たら頭剃るぞ。」

バレた。
でも、正面で見るとやっぱりガキだ。
髪ボッサボサで相変わらず可愛い。

「あ、失礼しました、先日は助かりました。
おかげさまでボスは手を引いてくれました。」

「へえ~、あのプランって、マジ実行できるんだ。
あの倉庫吹っ飛ぶと損害一体いくらになるんだ?」

ハハッと笑い飛ばす。
可愛い、そしてヒドイ。ほんとに机上のプランなんだなあ。
驚くほど具体的、予測が的確なんだけど。

「まあ、ジンは場所が場所だけに、ほんとにあいつは銃使えなくて助かりました。
ケガも左手一本ですみましたし。」

袖をめくって包帯見せる。

「だろ?ジンはとにかく死にたくない奴だ、だからあの場所が奴とやり合うなら最適だ。
奴はナイフしか使えない。だからプランとしては難易度低い。
でも、あとのプランは使うな、ほぼ死ぬ。確実に死ぬ。
ジンは馬鹿で頭は空っぽだが、舐めない方がいい。

ボスにそう言うプランがあると知られただけで十分だ。
これから少しは考えやがるさ。」

「だといいんですがねー、ノート渡せと言われて冗談じゃねえと跳ね返しました。
今ごろ俺の部屋、粗探ししてると思います。
まあ、取られたときは、またプラン下さい。ボスの先読みできるのはサトミくらいなので。」

「俺はなー、辞めたっつってるだろー」

ウンザリした様子で足を組む。その仕草も可愛い。

「まあ、そう仰らず。ちゃんと報酬払いますって。
あ!そうそう、黒蜜のワイヤー預かってきました。あと、コインセル。
ワイヤー、サンプルと書いてある奴は開発中の奴らしいです。
使ったら感想聞きたいって。」

「ふうん……ニッポン人って満足しねえ奴らだなあ。あれで十分だろ。
うん、助かった。サンクス」

「あと、次回からニッポン製はオリジナルプライスが上がるそうです。
なんであの国、yenなんですかね。妙に有事にはレートが跳ね上がるし。
代替品ならチャイナらしいんですけど。」

ニッポン製ワイヤーとセルは、この国ではなかなか手に入らない。
軍出入りの武器商が、唯一ニッポンにルート持っているのでそれを通じて手に入れている。
通常は武器商通して郵便局に直送しているが、今回急ぐというので俺が預かってきた。
頼って貰えてメチャクチャ嬉しい。

「ダメだな、倍に上がってもニッポンの使う。
チャイナは硬いんだ。しなりが悪い。巻き取りの時、モーターに負荷がかかりすぎる。
柔らかいのは簡単に切れるし。サビが早い。あれは使い物にならねえ。

……黒はなー,もう別に使わなくてもいいんだけどさ。保守が面倒だし、コストが馬鹿にならねえし。
まあ、元々日本刀って奴のまともな使い方じゃ無いしな。もう、あいつは錆びたって……」

「だっ…ダメです!!」

なんだか、言葉の雲行きが怪しい。驚いて、思わず立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新訳 軽装歩兵アランR(Re:boot)

たくp
キャラ文芸
1918年、第一次世界大戦終戦前のフランス・ソンム地方の駐屯地で最新兵器『機械人形(マシンドール)』がUE(アンノウンエネミー)によって強奪されてしまう。 それから1年後の1919年、第一次大戦終結後のヴェルサイユ条約締結とは程遠い荒野を、軽装歩兵アラン・バイエルは駆け抜ける。 アラン・バイエル 元ジャン・クロード軽装歩兵小隊の一等兵、右肩の軽傷により戦後に除隊、表向きはマモー商会の商人を務めつつ、裏では軽装歩兵としてUEを追う。 武装は対戦車ライフル、手りゅう弾、ガトリングガン『ジョワユーズ』 デスカ 貴族院出身の情報将校で大佐、アランを雇い、対UE同盟を締結する。 貴族にしては軽いノリの人物で、誰にでも分け隔てなく接する珍しい人物。 エンフィールドリボルバーを携帯している。

速達配達人 ポストアタッカー 旧1 〜ポストアタッカー狩り〜

LLX
キャラ文芸
主人公サトミが、除隊してポストアタッカーになるまでの再生物語。 時代は第4次世界大戦の戦後。 ガソリンが枯渇して移動の主流が馬に、インフラ破壊されて電話は政府が運営する衛星通信しかない高級品になり果てた、文明が少し戻った感じの、近未来アクション。 特殊部隊の少年兵だったサトミ・ブラッドリーは、銃社会でなぜか日本刀使い。 戦後、除隊して両親が居るはずの実家を目指したが、彼の家族は行き先を告げず引っ越したあと。 探すすべを失い、とりあえず旅の途中で出会った、なぜか喋る馬?のビッグベンと家で暮らすことに。 平和〜な日々が漫然と続く……かと思ったら。 15才なのにヒマでボケそうな彼を郵便局がスカウト。 それは速達業務のポストアタッカー、早馬で盗賊を蹴散らし、荒野を越えて荷物を届ける仕事。 しかしそんな彼らはその時、地雷強盗で重大な危機を迎えていたのでした。 血で血を洗う特殊な部隊にいた彼が、一般の普通〜の人々に囲まれ、普通を目指すポストマンのあまり普通じゃないお話。 危機って聞くと腕が鳴る、困った元少年兵の、荒廃したどこかの国の未来の物語。 表紙絵、ご @go_e_0000 様

管理機関プロメテウス広報室の事件簿

石動なつめ
キャラ文芸
吸血鬼と人間が共存する世界――という建前で、実際には吸血鬼が人間を支配する世の中。 これは吸血鬼嫌いの人間の少女と、どうしようもなくこじらせた人間嫌いの吸血鬼が、何とも不安定な平穏を守るために暗躍したりしなかったりするお話。 小説家になろう様、ノベルアップ+様にも掲載しています。

ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~

415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

職員室の異能者共

むらさき
キャラ文芸
とある中学校の職員室。 現代社会における教師たちの生活において、異能は必要でしょうか。いや、必要ありません。 しかし、教師達は全て何らかの異能力者です。 それは魔法使いだったり、召喚士だったり、人形遣いだったり。 二年生の英語科を担当するヤマウチを中心とした、教師たちの日常を淡々と書いた作品です。 ほとんど毎回読み切りとなっているので、どれからでもどうぞ。 生徒はほとんど出てきません。 こっそりとゲーム化中です。いつになることやら。

逢魔ヶ刻のストライン

和法はじめ
キャラ文芸
女装巫女に使役され、心の闇を食うバケモノの少女。 彼女はある日、己が使役者の少年に恋をしている事を知った。 そんな彼女の、終わりと始まりの物語。 ※他サイト様にも投稿しております。

クラックコア~死んだ傭兵が転生したのは男子中学生!?

百舌巌
キャラ文芸
ディミトリは三十五歳。傭兵を生業としている彼は世界中の戦場から戦場へと渡り歩いていた。 彼の記憶の最後に在るのはシリアだ。ヨーロッパへの麻薬配給源である生産工場を襲撃したまでは作戦通りだが撤収に失敗してしまった。 仲間の一人が敵に通じていたのだ。ディミトリは工場の爆発に巻き込まれてしまった。 ディミトリが再び目が覚めるとニホンと言う国に居た。しかも、ガリヒョロの中学生の身体の中にだ。街の不良たちに絡まれたり、老人相手の詐欺野郎たちを駆逐したり、元の身体に戻りたいディミトリの闘いが始まる。 *「カクヨム」さんにも掲載しています。

処理中です...