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第六章:「塔 攻略編」

第84話 「塔の中の阻みしモノ」

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 食事を済ませた俺達は、彼女達と共に屋敷の門前に立っている。

「お気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

「塔に上り詰めたら…どうなっていたのか教えて下さいね」

「えぇ、勿論です」

「楽しみにしています」

 俺の返事を聞くと、目を輝かせて、姉妹達はそう言った。

 いよいよ向かうんだな…

そんな事を何処までも続く蒼穹そうきゅうを見上げ思っていた。

「サモン?行こうか」

「そうだな。あぁ、そうだリサさん?」

「どうなさいました?」

「帰ったらまた、手合わせ願えますか?」

すると彼女は満面の笑みを浮かべながらこう答えた。

「ふっ、勿論ですよ。楽しみにしています」

「次は負けませんよ」

 普段通りのバルバラとの会話を交わし、俺達は塔へと歩み始めた。

 後ろから聴こえる、アーベルと姉妹達の声に答える様に手を振り、屋敷を後にした。

 暫く歩き、街の門を潜り、茫漠ぼうばくたる砂漠に出た。
 
 暑さ為、滲み出る汗を拭い。一歩一歩、目的の塔に近付く程、塔はより一層その巨大

 見上げると、塔の途中から雲に霞んでいき、その全貌を窺う事すら出来ない。

 そして遂にあと少し、という所でまるで俺達の行く手を阻むかの様に、巨大な砂嵐が巻き起こった。

 砂嵐は全ての砂を巻き上げる様にして、肥大化したまま俺達を呑み込んだ。

 咄嗟に口元を手で覆い、顔を俯けつつ、目も開けられない為に、時折互いに名前を呼び合い、位置を把握した。

 すると突然、バルバラが俺の手を握った。

名前を呼び合うより、確かにこちらの方がはぐれずに済む。

 どれ程歩いたのだろうか。

 前を見る事さえ出来ない為に、感覚でしか自分が今どれ程進んだかを、推測するしか出来ない。
 
 暫くすると、あれ程巨大だった砂嵐は、徐々にその風を弱めて行き、辛うじて前が見える様になった。

 勢力を弱めた砂嵐の向こう側に、塔の姿が薄く見える。

「バルバラ!」

「ふふっ、もう少しだな」

 そして、砂嵐を抜けた俺達の眼前に広がっていたのは、巨大な塔のたもとに居たのは、これまで互いに戦争をしていた国の軍隊が居た。
 数は数え切れない程多く、皆一様に俺達を眺めている。

――お、おい…あれ見てみろ…――

――ま、まさか…――

そしてはっきりと姿を現した俺達の姿を、兵士達は愕然とした表情を浮かべたのも束の間。

みな俺達を見てそれぞれの表情を浮かべた。

青ざめる者。

後ずさりをする者。

腰が抜け、立てなくなる物。

憎悪を剥き出しにして、睨みつける者。

そんな視線など、意に介さずに、俺達の足は着実に塔に近付いた。

「来たな…」

「あぁ…」

 軽い会話を交わした2人組は、あの時の少年と騎士の1人だ。
 目の前まで来た俺達の姿を暫く見詰めると、2人は互いの顔を見合わせると、黙ったまま道を開けた。

 道を開けた2人の後ろには、不気味な雰囲気を醸し出す塔の入り口が、ぽっかりと口を開けている。

 俺は思わずバルバラの顔を見ると、バルバラは微笑み返した。

「ふふっ、行こうか…」

「あぁ、そうだな…」

遂に入るのか…
これまで、長かった冒険の一つが、こうして辿り付き、達成されるのか…

「バルバラ?」

「ふふっ…なんだ?」

「ありがとう」

 感謝の言葉が、気付けば口から漏れていた。
ここまで来れたのもバルバラのお陰だ…
いや、バルバラと出逢わなかったら恐らく、冒険になど出てはいなかっただろう。

「ふふっ、感謝の言葉なら全部終わってからにしてくれ」

「ふっ、それもそうだな」

 互いに顔を見合わせていた俺達は、塔の入り口に視線を戻した。

――「「では行こうかでは行こうか」」――

 発した俺達の声は、重なり合い、塔内部に響き反響した。

そして俺達は、中へと足を踏み入れて行った。

「大丈夫なのか?あれ程すんなりと道を開けて」

「増援がまだだ…今此処に居る兵力では、到底かなわないだろう…力で劣っている分、数で勝負を掛けるしか無い」

「まぁ、それもそうだな…塔の中で何かしら見付けても…」

「出て来た所をば良い…か」

「あぁ…」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 塔の中は暗闇で覆い尽くされており、入り口と共に、不気味な雰囲気を感じる。

 何処までも続く石造りの廊下には、等間隔で当たりを照らす松明が飾ってあるが、微かな光の為に完全に照らし切る事が出来ない。
それがより一層と言い様の無い不気味さを醸し出し、それがまた俺の不安を煽った。

廊下を渡り終えると、ぽっかりと開いた空間の壁に、沿う様に作られた螺旋状の階段があった。

「高いな…」

「ふふっ、そうだな…」

石造りの螺旋状の階段は、経年劣化の為か、所々欠けている箇所もあり、階段から下を覗き込めば、底が見えない。

「高いな…」

「ふふっ、そうだな…足元には気を付けないとな?」

「あぁ、バルバラも」

「ふふっ、ありがとう」

 どれほど上り続けたのか、聴こえるのは俺達の足音と、微かに聴こえるバルバラと俺と吐息。
 外の景色さえ伺う事も出来ず、此処に来てからどれほど経ったのかさえ分からない。

 すると視線の先に、松明が僅かに照らし出した、1つの階段の様なものが見えた。

 その階層は大きな円形状に出来ており、俺達の歩む階段は、そこに続く様に造られている。

「ここが…」

「ふふっ、恐らくこれが第一階…では無いか?」

奇怪な作りだ…普通の建物の造りとは違う…

「第一階目の階層の入り口…塞がっているな…」

 この階層に入る為の入り口は、木製で出来ており、まるで何かを封印するかの様に錆だろうか、赤黒い堅牢な鎖がたすき掛けの様にして、扉を固く閉ざしている。

「どうしたものか…」

「そうだな…」

それぞれ同じ様に、顎に手をやり、暫し考えた。

待てよ…
ひらめいたぞ。

 その時、バルバラも同じく閃いたのか、俺と視線が合い、お互い微笑んだ。

 俺達は扉から少し距離を置くと、互いに腕を伸ばし指を鳴らした。

 衝撃が木製の扉を粉々にし、微かに残る木片と、切り離された鎖が舞い、それぞれが先程まで鎖されていた、階層に破片として舞い込んだ。

「ふふっ、開いたな?」

「本当だな」

 扉が開いた事で、互いに微笑むと、俺達は階層に足を踏み入れた。

 だだっ広い、薄暗い空間の中に、松明が囲む様にして飾ってあり、かすかな光で壁や、床を照らしている。

「不気味…だな」

「あぁ…」

 じっくりと、周りを見渡し観察をした。
何も無い空間にあるのは松明と、所々薄赤く汚れた石造りの壁や床のみ。
 この階層の天井と思しき部分はとても高く。
深い暗闇の中、姿が微かに見えるのみだ。

 これから何が起こるのか、思わず不安で固唾を飲み、ネックレスを握り締めた。

 すると何やら奥の方から、うめき声の様なが聴こえた。

 咄嗟に身構え、松明で照らし切れていない、暗闇に目を凝らした。

 腹の底から捻り出す様な声…
低く、おぞましく、聴く者全てを恐怖の底に叩き落とすかの様な声…

 その声と共に、塔を揺らすかの様な足音と共に、何やらジャラジャラと言う音を立て、着実に俺達の方へと近付いて来た。

 そして、幽かな松明に照らされた時、その姿が分かった。

想像を絶する巨躯に、血塗れた大きなナタの様な物を持ち、顔はとても醜怪しゅうかいで、髪は無く。

 足首には先程閉ざしていた鎖など、比較にならない程、巨大な鎖が繋がれている。
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