89 / 91
第六章:「塔 攻略編」
第84話 「塔の中の阻みしモノ」
しおりを挟む食事を済ませた俺達は、彼女達と共に屋敷の門前に立っている。
「お気を付けて」
「はい、ありがとうございます」
「塔に上り詰めたら…どうなっていたのか教えて下さいね」
「えぇ、勿論です」
「楽しみにしています」
俺の返事を聞くと、目を輝かせて、姉妹達はそう言った。
いよいよ向かうんだな…
そんな事を何処までも続く蒼穹を見上げ思っていた。
「サモン?行こうか」
「そうだな。あぁ、そうだリサさん?」
「どうなさいました?」
「帰ったらまた、手合わせ願えますか?」
すると彼女は満面の笑みを浮かべながらこう答えた。
「ふっ、勿論ですよ。楽しみにしています」
「次は負けませんよ」
普段通りのバルバラとの会話を交わし、俺達は塔へと歩み始めた。
後ろから聴こえる、アーベルと姉妹達の声に答える様に手を振り、屋敷を後にした。
暫く歩き、街の門を潜り、茫漠たる砂漠に出た。
暑さ為、滲み出る汗を拭い。一歩一歩、目的の塔に近付く程、塔はより一層その巨大
見上げると、塔の途中から雲に霞んでいき、その全貌を窺う事すら出来ない。
そして遂にあと少し、という所でまるで俺達の行く手を阻むかの様に、巨大な砂嵐が巻き起こった。
砂嵐は全ての砂を巻き上げる様にして、肥大化したまま俺達を呑み込んだ。
咄嗟に口元を手で覆い、顔を俯けつつ、目も開けられない為に、時折互いに名前を呼び合い、位置を把握した。
すると突然、バルバラが俺の手を握った。
名前を呼び合うより、確かにこちらの方がはぐれずに済む。
どれ程歩いたのだろうか。
前を見る事さえ出来ない為に、感覚でしか自分が今どれ程進んだかを、推測するしか出来ない。
暫くすると、あれ程巨大だった砂嵐は、徐々にその風を弱めて行き、辛うじて前が見える様になった。
勢力を弱めた砂嵐の向こう側に、塔の姿が薄く見える。
「バルバラ!」
「ふふっ、もう少しだな」
そして、砂嵐を抜けた俺達の眼前に広がっていたのは、巨大な塔のたもとに居たのは、これまで互いに戦争をしていた国の軍隊が居た。
数は数え切れない程多く、皆一様に俺達を眺めている。
――お、おい…あれ見てみろ…――
――ま、まさか…――
そしてはっきりと姿を現した俺達の姿を、兵士達は愕然とした表情を浮かべたのも束の間。
みな俺達を見てそれぞれの表情を浮かべた。
青ざめる者。
後ずさりをする者。
腰が抜け、立てなくなる物。
憎悪を剥き出しにして、睨みつける者。
そんな視線など、意に介さずに、俺達の足は着実に塔に近付いた。
「来たな…」
「あぁ…」
軽い会話を交わした2人組は、あの時の少年と騎士の1人だ。
目の前まで来た俺達の姿を暫く見詰めると、2人は互いの顔を見合わせると、黙ったまま道を開けた。
道を開けた2人の後ろには、不気味な雰囲気を醸し出す塔の入り口が、ぽっかりと口を開けている。
俺は思わずバルバラの顔を見ると、バルバラは微笑み返した。
「ふふっ、行こうか…」
「あぁ、そうだな…」
遂に入るのか…
これまで、長かった冒険の一つが、こうして辿り付き、達成されるのか…
「バルバラ?」
「ふふっ…なんだ?」
「ありがとう」
感謝の言葉が、気付けば口から漏れていた。
ここまで来れたのもバルバラのお陰だ…
いや、バルバラと出逢わなかったら恐らく、冒険になど出てはいなかっただろう。
「ふふっ、感謝の言葉なら全部終わってからにしてくれ」
「ふっ、それもそうだな」
互いに顔を見合わせていた俺達は、塔の入り口に視線を戻した。
――「「では行こうか」」――
発した俺達の声は、重なり合い、塔内部に響き反響した。
そして俺達は、中へと足を踏み入れて行った。
「大丈夫なのか?あれ程すんなりと道を開けて」
「増援がまだだ…今此処に居る兵力では、到底敵わないだろう…力で劣っている分、数で勝負を掛けるしか無い」
「まぁ、それもそうだな…塔の中で何かしら見付けても…」
「出て来た所を叩けば良い…か」
「あぁ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
塔の中は暗闇で覆い尽くされており、入り口と共に、不気味な雰囲気を感じる。
何処までも続く石造りの廊下には、等間隔で当たりを照らす松明が飾ってあるが、微かな光の為に完全に照らし切る事が出来ない。
それがより一層と言い様の無い不気味さを醸し出し、それがまた俺の不安を煽った。
廊下を渡り終えると、ぽっかりと開いた空間の壁に、沿う様に作られた螺旋状の階段があった。
「高いな…」
「ふふっ、そうだな…」
石造りの螺旋状の階段は、経年劣化の為か、所々欠けている箇所もあり、階段から下を覗き込めば、底が見えない。
「高いな…」
「ふふっ、そうだな…足元には気を付けないとな?」
「あぁ、バルバラも」
「ふふっ、ありがとう」
どれほど上り続けたのか、聴こえるのは俺達の足音と、微かに聴こえるバルバラと俺と吐息。
外の景色さえ伺う事も出来ず、此処に来てからどれほど経ったのかさえ分からない。
すると視線の先に、松明が僅かに照らし出した、1つの階段の様なものが見えた。
その階層は大きな円形状に出来ており、俺達の歩む階段は、そこに続く様に造られている。
「ここが…」
「ふふっ、恐らくこれが第一階…では無いか?」
奇怪な作りだ…普通の建物の造りとは違う…
「第一階目の階層の入り口…塞がっているな…」
この階層に入る為の入り口は、木製で出来ており、まるで何かを封印するかの様に錆だろうか、赤黒い堅牢な鎖が襷掛けの様にして、扉を固く閉ざしている。
「どうしたものか…」
「そうだな…」
それぞれ同じ様に、顎に手をやり、暫し考えた。
待てよ…
閃いたぞ。
その時、バルバラも同じく閃いたのか、俺と視線が合い、お互い微笑んだ。
俺達は扉から少し距離を置くと、互いに腕を伸ばし指を鳴らした。
衝撃が木製の扉を粉々にし、微かに残る木片と、切り離された鎖が舞い、それぞれが先程まで鎖されていた、階層に破片として舞い込んだ。
「ふふっ、開いたな?」
「本当だな」
扉が開いた事で、互いに微笑むと、俺達は階層に足を踏み入れた。
だだっ広い、薄暗い空間の中に、松明が囲む様にして飾ってあり、幽かな光で壁や、床を照らしている。
「不気味…だな」
「あぁ…」
じっくりと、周りを見渡し観察をした。
何も無い空間にあるのは松明と、所々薄赤く汚れた石造りの壁や床のみ。
この階層の天井と思しき部分はとても高く。
深い暗闇の中、姿が微かに見えるのみだ。
これから何が起こるのか、思わず不安で固唾を飲み、ネックレスを握り締めた。
すると何やら奥の方から、呻き声の様なモノが聴こえた。
咄嗟に身構え、松明で照らし切れていない、暗闇に目を凝らした。
腹の底から捻り出す様な声…
低く、おぞましく、聴く者全てを恐怖の底に叩き落とすかの様な声…
その声と共に、塔を揺らすかの様な足音と共に、何やらジャラジャラと言う音を立て、着実に俺達の方へと近付いて来た。
そして、幽かな松明に照らされた時、その姿が分かった。
想像を絶する巨躯に、血塗れた大きな鉈の様な物を持ち、顔はとても醜怪で、髪は無く。
足首には先程閉ざしていた鎖など、比較にならない程、巨大な鎖が繋がれている。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
追放した異世界転移者が「偽勇者」となって、無能な俺に富と名声を押し付けてきて困ってます
フーラー
ファンタジー
舞台は中世風ファンタジー。
主人公「ワンド」は勇者(この世界ではフリーの討伐隊を指す)として、
ヤンデレ僧侶「トーニャ」や、異世界から転移してきた魔法戦士「ゼログ」らとパーティを組み、旅をしていた。
しかし、冒険の中でワンドは自身の力不足により、転移者ゼログに重傷を負わせてしまう。
もとよりこのパーティはゼログだけが「チート的強さ」を持っており、
特にワンドは一般人程度の実力もないことを自覚していた。
そのため足でまどいの自身と別れる方が本人のためと思い、ゼログを追放する。
しかしゼログは、
「ワンドに受けた恩を返し切れていない」
「彼はもっと世間に評価されるべき人だ」
という思いから、主人公「ワンド」の名を騙った「偽勇者」となり、
各地でチートな能力を発揮し功績を次々に作っていく。
当然その名声や莫大な報酬がワンドのもとに送りつけられるが、
実力に見合わない評価と羨望のまなざしにプレッシャーを感じていく。
そして世界の情勢的に「勇者」の仕事を降りる訳にもいかず、
ワンドは「偽の偽勇者」として戦わなくてはならない世界に身を投じていく。
小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる