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第五章:「大陸到着」
第83話 「朝食と誤解」
しおりを挟む翌朝、小鳥の囀りと共に目が覚めた。
重い瞼を擦り、頭が冴えぬまま、体を起こそうと思ったが、何やら身体が重く感じる。
「ん…?」
どうやらバルバラの腕が、俺の上に乗ってる様だ。
ゆっくりと、彼女の腕を持ち上げて、そっと俺の上から下ろし、ベッドから立とうとしたが、足が動かない。
仰向けになってる為に、あまり自由が効かない為に、首だけを持ち上げる様にして、自分の足を見た。
腕だけでは無く、足まで載せているようだ。
…足は流石に手が届きにくいな。
どうしたものか。
そんな事を思っていると、バルバラが寝返りを打ち、先程置いた腕を再び、俺の上に載せるようにして置いた。
それも今度は若干、俺の首に腕を回す様にして。
わざとやっているのではないか?
バルバラは体を横に向け、足と腕を俺の上に乗せている体勢だ。
その為、必然的に距離が近くなり、横を向けば、スヤスヤと寝息を立てるバルバラの顔がある。
呼吸をする度に、俺の耳に寝息が当たり、擽ったく感じる。
このままでは、朝だと言うのに起きる事も出来ない。
俺はバルバラの方を向き、少し声に出して起こそうとした。
「おーい、バルバラ?」
「んん…」
「おーい…そろそろ起きてくれないか?いつまでこの体勢のままいれば良いんだ?」
「んー…」
駄目だ、熟睡している為に、閉じた瞼は微かすら動かない。
仕方が無い、このまま寝てしまおうか…そんな事を考えた矢先。
扉を叩く音が聞こえた。
丁度良い、恐らくアーベルか、リサか、ロサだろう。
バルバラを起こすのを手伝って貰おうか…
「どうぞ」
「失礼致します…ご飯の準備が整…い…えっ!?」
「あぁ、ありがとうございます…ん?」
「お、お楽しみ中失礼しました!」
何を言っているんだ?
一体、お楽しみ中とは…
俺は寝惚け眼で、必死に今ある体勢を良く見直した。
も、もしかして…!?
――ちっ!違う!誤解だ!!――
「ごっ!ごゆっくりどうぞっ!!」
俺の放った言葉に反して、リサの返した言葉は、まるで俺に気を遣う様な感じにも取れるものだった。
「ふふっ、サモン?」
「え!?お、起きていたのか?」
「ふふっ、彼女は言っていたな?お楽しみ中とな?」
「え!?あぁ…言っていたが…」
「ふふっ…」
「まっ!待ってくれ!朝だぞ!?」
「ふふっ、なら晩なら良いのか?」
回避をする為に咄嗟に出た言葉で、まさか墓穴を掘ってしまうとは…
「違う!そう意味では無い!」
「ふふっ、だが言っただろう?」
そんな事を言っているバルバラは、依然として、俺の首に腕を回した状態だ。
「…い、言っ「たな?」」
俺が言葉を言い切る前に、まるで被せる様にして、バルバラは言った。
間近で、そして真っ直ぐと俺の瞳を覗き込み、話をするバルバラに思わず、顔を逸らした。
逸らした視線の先には、俺の鞄がある。
そうだ!
「そ、そうだ!バ、バルバラ!?」
「ふふっ…どうしたんだ?」
「ラーザの為にも、花を見付けないとなッ!?んん!?んー!!」
距離が近かった為か、振り向いた瞬間に、キスをされた。
突然の出来事で、俺はどうする事も出来ず、されるがままだ。
「おっ!おい!何をするんだ!?」
「ふふっ…簡単だ。朝の挨拶だ」
「口で言えば良いじゃないか…」
「ふふっ、だから口で挨拶をした」
「いや…そういう事では無くて…」
突然された事により、驚きと恥ずかしさが、俺を包み込んでいくと共に、顔が紅潮していくのが分かった。
暫く呆然としていると、再び扉を叩く音が聞こえた。
「はい…どうぞ…」
「お、お楽しみ…終わりましたか?」
様子を窺う様にして、開く事さえしない扉越しに、話し掛ける声が聞こえた。
声からして、恐らくリサだろう。
「いや、それは誤「あぁ、終わったぞ」」
また、被せる様にして俺の声よりも大きく、バルバラが代わりに返事をした。
「な、何を言っているんだ!?」
「ふふっ…」
「し、失礼します…」
そう言って扉を開けたリサの顔は紅く染まり、視線さえ極力、こちらに向けないようにしている。
「あの…ご飯できましたよ…」
「…い、今行きます…」
彼女はその一言だけを伝えると、そそくさ部屋を去っていった。
「ふふっ、サモン?」
「な、なんだ!?」
先程の出来事も重なり、俺は突然話し掛けられた事に驚いてしまった。
「ふふっ、行こうか」
「あ、あぁ…」
俺は、あまり腑に落ちないまま、身支度を整え、部屋を後にした。
昨晩、食事を取った居間には、既に沢山の料理が並べられていた。
「ありがとうございます…」
「いえ…」
そう言うリサは、頬を赤らめて、俯きながら、食事を取っている。
「サモンさん?」
「はい」
「今朝から、リサ様の様子が少しおかしいと言いますか…何だが妙に落ち着きが無い…と言いますか…」
恐らく俺とバルバラが原因だ。
いや、絶対にそうだろう…
どうしたら良いのだろうか…
だが、正直に言ったところで、また、あらぬ誤解を産んでしまうのでは無いか…?
「そ、そうなんですか…」
これと言った答えを見出す事が出来なかった為に、俺の口から出た言葉は、まるで原因を知らない様な言葉だ。
「えぇ…」
アーベルと俺との話を聞いていたのだろうか、妹のロサが俺に質問をして来た。
「サモンさん、何かご存知ありませんか?」
「あ…え…ご存知あると言いますか…無いと言いますか…誤解と言いますか…」
良心の呵責から、俺は何とも奥歯に物が挟まった様な物言いになってしまった。
「??」
「??」
そんな俺の言葉に、2人とも首を傾げている。
すると、バルバラが2人に事の顛末を伝えた。
「ふふっ、偶然彼女が呼びに来た時に、私の寝相が悪かったから、抱き合っている様に見えたのだろう」
その言葉に、食事を取るリサの手は止まり、今までよりも更に顔を紅潮させたが、安心した様にこちらに顔を向け、微笑みながら言葉を紡いだ。
「そ、そうだったんですね」
「ふふっ、そうだ。キスはしたがな?」
どうして語弊を生じさせる様な言葉を言うのだろうか。
いや、その事自体は事実だが…
また、変な誤解が産まれる前に止めなければ…
「バルバラ!?」
「ふふっ、事実だ」
「いや、それはそうだが…したのでは無くされたんだ…」
「ふふっ、されたにしてはあまり拒まなかったがな?」
「そ、それは…突然で…為す術がなかったからだ…」
「ふふっ」
不意にリサ達に視線を向けると、みな食事の手を止め、こちらを見詰めている。
アーベルは何も言えない様な表情を浮かべ、リサ達姉妹は、顔を真っ赤に紅潮させている。
「…す、すみません…」
「い、いえ…」
静寂の中、食器の音だけが響き渡った。
「誤解をするのも仕方ありません…お2人はあまりその様な経験がありませんのでっ!?痛い!痛いっ!!」
重い雰囲気を和ませようとした、アーベルの言葉は皮肉にも、姉妹達の反感を買い。
テーブルで足元は見えないが、恐らく両側に座っている姉妹から、足を踏まれているのだろう。
「ふふっ」
「ふっ」
そんな光景に、俺達からは自然と笑みが零れた。
そんな俺達を見て、姉妹達もまた笑い合った。
「ははっ…わ、私だけですか…痛い思いをしたのは…まぁ、良いのですが…ククっ…あははっ」
先程の静寂など、まるで嘘の様に居間には、それぞれの笑い声が、響き渡った。
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