最弱召喚士:練習で召喚したら出て来たのは『魔王』でした

もかめ

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第五章:「大陸到着」

第81話  「名門と名門」

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 俺が承諾したのも束の間、彼女はその足で扉に向かった。

「では、こちらです」

「はい」

 そう言って俺達を促した彼女の表情は、まだ若干ながら紅く染まっていた。

彼女の促した言葉に、従うがまま、俺達は部屋を後にした。
 
「お姉様!本当に…やる気ですか?」

「えぇ…」

「リサ様!お怪我をされたら…」

「ふっ、大丈夫よ。いつもロサとやる訓練室を使うから」

 長い廊下を歩いている最中、妹達は姉の心配をしている。

「それに言ったでしょう?私も召喚士として、この方の実力が気になるのです…」

「それは、聞いては居ましたが…」

 廊下の突き当たりの階段を降りた先に、一つの扉の前に着いた。
どうやらここが、言っていた訓練室の様だ。

 木で出来た扉には他には無い、家紋が描かれており、淵に沿う様にして、白い線が引かれているのが印象的だ。

 先に部屋に入って行く姉に、付いていく様にして中に入った。

姉が照明のスイッチを付けると共に、手前から奥に向け、照明が順番に部屋を照らしていき、薄暗い部屋の全貌が露になった。

「ここが…」

「えぇ、エヒト家自慢の訓練室です」

 俺の目の前に広がっているのは、訓練『室』と呼ぶにはあまりにも、広すぎる程の部屋だ。

 部屋の中央は、鉄製の柵で囲まれており、片側だけだが、端から端にかけ本棚が並んでいる。

「…では、早速お手合わせ…お願いします」

「はい」

 そう言って、俺と彼女は柵の中に入り、お互い向き合った。

「最初に言っておきます…ここの柵の中は、術者大会で、使われる様な保護…所謂、『制限』を常時掛けています…なのではいりません…ロサ?汚れるから持っててくれる?」

 そう言って、彼女は妹にローブを脱ぎ渡した。
ローブの下には、白いシャツに紺色のネクタイと言う、姿をしている。

「貴方は脱がなくて大丈夫ですか?」

 確かに、汚れはするかもしれないな…

「あぁ、脱ぎます…バルバラ?」

「ふふっ、良いぞ」

 俺は微笑むバルバラに、ローブを手渡した。
バルバラは最初に手でローブを払うと、大切そうに手で折り畳み、胸元に抱きかかえた。

「では、サモンさん。そろそろ始めましょうか…」

「えぇ…」

「アーベル?合図をお願い」

「分かりました」

――では!始め!――

 その言葉と共に、俺と彼女は互いに手をかざし、召喚をした。

 地を這う様に広がった、互いの紋章からは『焔黒の騎士』と彼女の『女性騎士』が姿を現した。

 焔黒の騎士は姿を見せたのも刹那、鞘からは炎を纏わせし剣を抜き、地に向け振り払うと、瞬時に女性騎士との間合いを詰めた。

 女性騎士も、同じく剣を抜き、構えたが、その場から微動だにしない。

 そんな女性騎士に対し、焔黒の騎士は容赦無く、剣を振りかざした。

焔黒の騎士の振りが早い為か、剣が残す、炎の混じったしか捉える事が出来ない。

 それ程までに速いというのに、彼女の召喚した女性騎士は着実に、弾き、逸らし、交わし、防いでいく。

 そして、防ぐ度に女性騎士からは、赤い花びらが舞うが、焔黒の騎士の振りと共に、それは半分程、焦げる様に、黒く染まって行くと、その姿は儚く消えていった。

 連続して聴こえる高い金属音と、飛び舞う火花が、彼ら二人の周りを残光ざんこうとして、照らしてゆく。

 剣が互いにせめぎ合い、そして鍔迫り合いになった時、互いの動きが止まった。

 暫くお互いが、様子を窺うかの様にするや否や、二人とも距離を取った。
 その時、二人の足元からはほんの僅かな砂埃が上がった。

 そして、二人は腰を下げ、剣をゆっくりと構え直すと、互いに踏み込み、すれ違う様にして、動きが止まった。

 静寂が訓練室全体を包み込み、俺だけでは無く、彼女もまた、固唾を呑み、見守っている。

 結果は…どっちだ…?
そんな事を思う、俺の額からは、一筋の汗が流れて行く。

 そして最初に動いたのは、彼女の召喚した女性騎士だった。
構えていた姿勢を正す。

 女性騎士の後ろ姿からは、紅い花びらが体全体を包み込んでいる。
 そして女性騎士が剣を振り払うと、紅い花びらもそれに呼応するかの様に、辺りに舞い散った。

 それと共に、焔黒の騎士は剣を落とし、カチャンと言う音と共に、床に跪いた。

 剣が纏っていた炎は、その勢いを弱め、もはや朧火おぼろびと化している。

相当疲れたのだろう。

 焔黒の騎士は、肩で息を切ると共に、荒い呼吸が表情の伺えない、兜の中から聴こえてきた。

 そして、焔黒の騎士の足元に、紋章が浮かび上がると共に、ゆっくりとその姿を消していった。

 消える時、焔黒の騎士が持っていた剣は、既に火が消え、剣の地肌である黒金が、訓練室の照明に照らされ、鈍い光を発していた。

 負けた…

 引き受けた手合わせ…と言えども、負けた事に俺は、唖然とし、ただ彼が床を眺める事しか出来ない。

そんな中、彼女は俺に話し掛けてきた。

「御手合わせ…ありがとう御座いました」

その言葉に俺は、彼女に視線を向けた。

 そこには彼女と女性騎士の二人が、真っ直ぐと、俺の方を見詰めている。

「……」

 勝負の結果に、俺は返事を返せない。
いや、返す気力すら、失っている。

 俺が返事を返せず黙って居ると、女性騎士は彼女の方に向き直した。

 足元には彼女の紋章が広がり、またゆっくりと、その姿を消して行った。

 ま、負けた…
いや、そもそも俺は最弱だったんだ。
 若しかすると今まで、ここまで来れたのは俺の力では無く偶然だったのか…?

 悄然とした気持ちが、俺を包み込み、暗い沼の中に、俺を沈め込んでいく。

「サモンさん?」

「えっ!あっ!はい!?」

そう言って、話し掛けて来たのは彼女だった。

「大丈夫ですか?」

「えぇ…」

「…そう言えばご飯…まだでしたね…酒場での一件もあった事なので、是非食事を取りながら、お話しませんか…?」

 提案してくれた彼女の表情は、勝負に勝ったと言うのに、どこか儚げな表情を浮かべている。

「あぁ、ありがとうございます…では、お言葉に甘えて…」

「分かりました…」

 俺の返事を聴き、彼女は静かに頷くと、柵から出て、預けていたローブを妹から受け取り、袖を通した。

俺も同じく、柵から出て、預けていたバルバラからローブを受け取った。

「ありがとう…」

「ふふっ、良いんだ。それに…サモンのローブは触り心地も良かったからいつまでも触って居られる」

 そんなバルバラの言葉に、俺は微かな笑みを浮かべ、姉妹達と共に、俺達も訓練室を後にした。
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