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第五章:「大陸到着」

第80話 「エヒト家とオラクロ家」

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 屋敷に入った俺達は、ある部屋に案内された。

「どうぞお掛け下さい」

 通されたその部屋は、とても華やかながら、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

「失礼します」

 そう言って、俺達は椅子に腰掛けた。
それと共に、姉であるリサも向かい側に腰を掛けた。
 座ると共に、蒼みがかった髪が、揺らめき、部屋の照明に照らされて、彼女の銀髪はより一層、輝いて見えた。

「突然、すみません」

「いえ…それよりも…俺達にどんな用でしょうか?」

「…ふっ、正直なお話、『用』と言う『用』はありません…」

用が無い?
用が無いにも関わらず、俺達に接触して来たのか?
一体、どういうつもりだ…?

「ですが――これを『用』と言うべきかは難しい所ですが…貴方達に少しをしとこうかと…」

もしかして、俺の命を狙う者…その事だろうか…

「お話…?アーベルから聞きましたよ。命を狙う者…と、それに彼からは「同族の誼み」とまで…不思議で堪りません。俺は貴方達とは、何ら関係などありません。なのにどうして、そこまでして俺に干渉するのか…」

「…関係が無い?…あなたは気付かなかったのかも致しませんが、『私達』と『貴方』は思っている以上に近い…いえ……とでも言いましょうか…」

何を言っているんだ?
同じ人種?

「同じ…人種?」

理解出来ず、繰り返す様に口から出た言葉に、姉は薄い笑みを浮かべた。

「ふっ、そうです…サモンさんはご存知ですか?『ノヴァ=アルブス人』と言う人種が居る事を」

そんな事、初めて聞いた…

 いや…待てよ…確か酒場に居た他の客達が言っていたような…

「ふっ、ノヴァ=アルブスと言うのは、『白き尊い人』と言う意味です。共通点は貴方と私達の様な蒼みがかった銀髪…恐らく私達の銀髪からそう名付けられたのでしょう」

「だが、他にも銀髪の人は居る…俺がその人種だと何故分かるんだ?」

「簡単ですよ…それは貴方が、『魔王』と共に姿を現した『銀髪の青年』です…それだけではありません。蒼みがかっているのは、ノヴァ=アルブス人だけです。それに…貴方達の関係はとても感じがしますが…」

 そう言って彼女は、俺とバルバラを交互に見詰めた。

「ふふっ、そうだとも?」

 その言葉にバルバラは俺の手を握り、間髪入れずに返事をした。
 俺は突然この場で、握られた事に恥ずかしくなり、咄嗟に手を離した。

「ふっ…そこまで好かれるとは…」

「どういう事ですか?」

「ふっ、ノヴァ=アルブス人は元々、人ならざるものに惹かれる…と言いますか…魔物に惹かれる体質です…魔物から見れば魅力的に見えるのでしょう…この髪が…」

もしかして、バルバラが最初に俺の髪を褒めて居たのはそのせいなのか?

「ふっ…ですがその魅力も、他の人種から見れば、魔物と縁の深かった私達は厄介者にもなり得る…戦争と言うどさくさに紛れ、行った事は私達…いえ、我々に対する『迫害』とも取れるような行為…」

「……」

「そして、私達の人種は、戦火を逃れる様に散り散りになりました…逃れた先の大陸で、後に召喚士として名を馳せたのは貴方の御先祖様…オラクロ家です…一方、ここに留まり続けたのが、私達エヒト家です」

「そして最近、貴方の噂を聞きました。魔王と共に現れた銀髪の青年…噂の出処は敗走した兵士達からです」

もしかして…あの時の兵士…?

「そんな噂を耳にした私は先に、アーベルを向かわせました。そして貴方が国境沿いで戦った事を聞いた時、一つの思いを抱きました。どちらにも属する事が無い…まるで、貴方達の動きが、この戦争を止めようとしている…」

「…」

「アーベル、話しても良いか?」

「…はい…」

「彼もまた、昔の戦いの被害者…彼の家系もノヴァ=アルブス人の名家…辛うじて生き残った、彼の御先祖を私達エヒト家の御先祖が保護したんです…」

「…それから代々?」

「えぇ…仕えると言いますかね…そして運が良かったのでしょうか…幸いにも私達の家系は名を馳せる事が出来ましたが…彼の家系は数少ない生き残りと共に、時が経つにつれ次第に無くなってしまいました。今では彼の家系は、私達の一部です」

「…だから、アーベルは小さく家紋を縫っているのですか?」

「えぇ…私の由来を忘れない為です。時が経ち、私の家系はもう、エヒト家の一部です。ですが、私自身の由来は、エヒト家ではありません…それは変えようのない事実です…それを忘れない為に…」

 そう言うと、彼は小さく縫い付けてある家紋を握り締めた。

「そうだったんですか…ですが、何故それ程までに名を馳せている名門の貴方達が、フードを被り、出歩くのですか?」

「…良くも悪くも、ここの土地では目立ちます…それに昔の話ですが、未だに心のどこかでは不安なんです…最近、燻りつつある戦火の火種…御先祖が味わった苦しみが、また繰り返されるのでは無いかと…」

 そう言って彼女は、窓越しに星空へと視線を向けた。

同族と言っていたのはその為だったのか…

「サモンさん…貴方がここに来る前に、周辺国のお偉いさん達が来ました…」

「…その方達は何と言ったんですか…?」

「『貴方を止めて欲しい』…と、恐らく自分達の軍では、止めれない事を分かっているのでしょう…」

 そう言って、彼女はバルバラに微笑んだ。
バルバラもまた、彼女に優しい微笑みを返した。

「ふっ、ですが心配しないで下さい。私は加担するつもりはありません…同族と言う誼み…私達は貴方達の味方です…ですが、私達に頼む程、なりふり構わっていられないのもまた、事実…それに伴い、貴方の命を狙う者にお気を付け下さい…それに…こうして貴方に会ってみると、何故だか貴方の行く末が、気になってきました。これからどの様にして貴方が生きて行くのか…」

「…無関係の俺の為に、どうしてそこまで…」

「ふっ、言っているでしょう?同族の誼みだと…何処かに同じ生き残りが居るとは思いますが、私の知る限り、貴方の家系が唯一の同族です…いえ…今では私達からすれば、とでも言いましょうか」

 そう言って、彼女は俺に微笑んだ。
その微笑みは、最初に浮かべていた薄い表情などではなく、とても嬉しそうな表情だった。

「わざわざ教えて頂き、ありがとうございます」

「ふっ、いえいえ…あ!そう言えば、塔について調べてらっしゃるとか…」

「えぇ…」

「お近付きの印も兼ねて、少し頼みがあるのですが…宜しいでしょうか?」

 少し嫌な予感がしたが、折角教えてくれたんだ。
断れない…

「はい」

「良かった!その…是非とも私と――」

『お手合わせ願えないでしょうか?』

お姉様!?リサ様!?

…!?
い、いきなりどういう事だ…?

いや、出来ないことも無いが、一体どうして…?
突然の事で、理解が出来ない…!

「……ど、どう言う事…ですか?」

「貴方が助けて頂いた時、とても興味が湧きました…貴方の実力、強さ、術…全てに興味が湧いたのです…お隣に居るバルバラさんにも…勿論、勝敗は関係無く、『塔』に付いては教えさせて頂きます…情報は、些か少ないですが…」

「……」

「私もこのエヒト家を背負う者として、気になるんです…いえ、召喚士として…!お願いします!」

「わ、分かりました…」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 彼女は椅子を立つと、俺の手を握り、握手をした。
なすがままに、俺は暫く握手を続けると、彼女は顔を紅潮させ、咄嗟に手を離した。

「あ、そ、その!す、すみません!」

「い、いえ…」
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