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第五章:「大陸到着」

第78話 「出会い」

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 ここまで来れば大丈夫だろう…
暫く、路地を走った俺達は膝に手を着いて呼吸を整えた。
 走った為か、それとも俺に向けられる稀有けうな視線か。

それにしても、あの男性が言っていた事…
一体何なんだ。

それに命を狙う者?

「ふふっ、大丈夫か?」

「あぁ、走ったから少し疲れてしまっただけだ…」

「ふふっ、そうか。確かにあれ程走ったのは私も久しぶりだ」

バルバラも咄嗟に走ったせいで、壁に手を付き、呼吸を整えている。

「あいつは…誰だろう?」

「ふふっ…さぁな?だが、サモンに関係がある者では無いか?」

俺に関係?

 ここに俺の知り合いなど居ない…
だが、何だろう…出会った時と比べて、あの男性に、妙に親近感が湧く様な、この感情…

それは彼が俺の事を案じる事を言っていたからか?

それとも髪の色からか来るものか?

若しくは、同族と言っていた事か?

答えなど、直ぐには出す事など出来ない。
 そんな事分かっては居るものの、俺は必死に見付からない答えに、考えを巡らせた。

 先程まで不審だと思っていた男性に対する感情の変化に、戸惑い。
 そして、鼓動が早く脈打つのが、自分自身分かる。

あの口振り…何かを知っているのでは?
一体、目的はなんだ?

「ふふっ…さて、これからどうするんだ?」

「…どうしようか…」

 最初は冒険者ギルドで、『塔』について情報を集めようと考えた矢先に、あの様な出来事が起こった。

――録な情報は集まらない――

 そんな事を言われては、行ってもあまり意味は無いだろう。
だが、仮に俺に対し、彼が嘘を言っていたら?

「ふふっ、サモン?何も情報を集めるのは、冒険者ギルドだけではないぞ?」

 そう言ってバルバラが、指を指した先には酒場があった。

 確かに良い案ではあるが…今は路地で人目に付かないで居るのに、このまま通りに出てしまったら、また稀有な眼差しを受けるのでは無いだろうか…

何とも言えぬあの眼差し…

 そんな事を考えていると、バルバラは俺に歩み寄り、肩に手を置いた。

「ふふっ、人の目がそんなに気になるのか?」

「………」

「ふふっ、大丈夫だ。どんな目で人から見られようとも、サモンはサモンだ。それ以上でも、それ以下でも無い。ふふっ、それに…私はサモンのその髪が、とても好きだ」

そう言うと、バルバラは肩に置いていた手を俺の頭に乗せ、そのまま頭を撫でた。

「な、何をしているんだ!?」

「ふふっ、綺麗な髪だな…」

「や、辞めてくれ!恥ずかしいだろう?」

 いきなりの出来事で、驚きと恥ずかしさのあまり、咄嗟に俺は、撫でるバルバラの手を払った。

…だが、バルバラの言う通りだ。

「ふふっ、なら行こうか?私が付いている…」

「そうだな…」

 ここは勇気を出して行くしかならない。
いつまでもこの場所に、居続ける訳にもいかないだろう。

俺はバルバラと共に、路地を抜け、通りに出た。
相変わらず、通りは人で溢れている。

だが、やはり出た瞬間から、皆が稀有な目で、俺を見詰めてくる。

 その視線が、俺を再び悄然とした気持ちにさせた、その時だった。
 響き渡る喧騒の中、母娘と思われる声が聞こえた。

――お母さん見て見て!あの人の髪ー!――

――こらっ!聞こえるでしょう?――

――『とっても綺麗な髪!!』――

――あら、本当ね…――

そんな会話の声が俺の耳に響いた。

 そんな母娘の会話をバルバラも聴いていたのか、俺の手を握ると、微笑んだ。

「ふふっ、稀有な目で見ているのは何も、変わり者を見ているんじゃない。サモンの髪が綺麗だから見ているんだと思うぞ?」

「あぁ…そ、そうだな…」

 俺のただの思い過ごし…確かにそうだ…
人から、意図しない興味の視線に怖くなり、その目を避けた…

「ふふっ、それでもまだ不安か?」

「いや、あの子の言葉…それにバルバラの言葉で、もう不安は無い…」

「ふふっ、なら行こうか?」

「あぁ…そうだな」

 俺は周りから注目を浴びる中、酒場へと、1歩、また1歩を歩みを進めた。
 そして、酒場の目の前に着いた。

看板には、『街きっての酒場!ドミナの酒場へようこそ!』

そんなお客を歓迎する文言が書いてあった。

「ふふっ、入ろうか…それに…お腹も減ったしな?」

「そうだな」

 先にバルバラが、戸を開け、中に入り。
それに続く様にまた俺も中に入った。

 既に店は多くの客でごった返して居たが、俺が入った瞬間、先程の喧騒が嘘の様に、静寂が店中を包み込んだ。

 客達から浴びせられる視線の中、俺は店の中を見渡した。
 辛うじて見つけた先には、一つの空席があり、俺達はその席に向かった。

 向かう途中、周りの客からは堪えることの出来ぬ声が漏れた。

――お、おい…あれ見てみろよ…――

――あぁ、もしかして…噂の魔王達か?――

――一体何しに来たんだ…――

――ん?あの蒼みがかった銀髪…もしかして『ノヴァ=アルブス人』…か!?――

 一様に驚く客達を尻目に、俺達は席に腰掛けた。
それと同時に、店員が俺達の席に歩み寄り、メニューを俺とバルバラ、それぞれの前に置いた。

「あ…えっ…と…い、いらっしゃいませ!!何かご注文がお決まりでしたらお呼びください!」

 メニューを残し、店員の女性は、足早に席から離れていった。

 すると、一人の男性が俺達の席に来ると、粗暴にテーブルを叩き、顔を俺達に近付けた。

――お前らかぁ?この国をぉおびやかしている『魔王』とやらはぁ――

酒の匂いを漂わせ、顔を紅く染めた、筋肉隆々の男性は、ままならない呂律で、俺達にそう聞いて来た。

「…?は、はい…そうですが…」

「何が『はい』だぁ?!聞いた話によればよぉ?お前らの『首』には金が掛けられているって噂なんだ…それも大金がなぁ?」

もしかして賞金か?
 まさか、彼が言っていたのは、この事か?
命を狙う者…

――お、おい…あいつ正気か…――

――止めないと、大変な事になるぞ…――

酔った男性の発言に、周りは騒然とした。

 男性に辞めておけと諭す者が、大半を占めているが、中には男性に味方する様に、声援を送る者も居た。

「俺はあなたと戦うつもりなどありません」

「ほぉー!怖気付いたのかぁ?」

「ふふっ、辞めておけ…お前が痛い目をみるぞ」

「お前…!!魔王かなんか知らねぇがぁよぉ!痛い目を見るのはどっちか教えてやるよぉ!」

 バルバラの忠告に腹を立てたのだろう。
眼孔鋭く睨めつけると、胸元に隠してあったナイフを取り出し、俺達の居る机に突き立てた。

 男性の行動に客達が騒然とする中、一つの声が店内に響いた。

――『辞めておけ!その方はお前では敵わないぞ?』――

 その言葉で、騒然と化していた店内は、再び静寂が包み込み、それと共にみなが、声のする方に視線を向けた。
 視線の先には、ローブを着込み、フードを被った3人の人物が、店の入り口に立っていた。

「銀髪の青年…もしやアーベル、あの方か?」

「えぇ…そうです」

アーベル?
だが、どうして場所が分かったんだ?

それに、残り2人は一体誰だ?

 3人はそんな会話を交わすと、アーベルを入り口に残し、2人が俺達の席に歩み寄ってきた。

 2人のローブには、見た事のない家紋が描かれており、召喚士である線すら描かれていない。

 正体すらも分からぬまま、迫って来る2人に、俺達は少し警戒をした。

一体何をするつもりだ…?

まさか命を狙う者とは、この2人なのだろうか?

 そんな思いとは裏腹に、俺達との距離は近付き、とうとう席にまで来た。

「…誰ですか?」

「警戒しないで下さい…私達は、何もあなた達に危害を加えたりはしません…」

 そう言って、2人はフードに手を掛け、捲り、顔を見せた。
顔は容姿端麗で、髪は俺と同じ色をしていた。

「お初にお目にかかれて光栄です。私達は『エヒト家』34代目『リサ・テレジア・エヒト』と申します。それにこちらは、私の妹の『ロサ・テレジア・エヒト』と言います」

「初めまして」

 そう言って、銀髪の姉妹は、俺に手を差し出し握手を求めた。
 その手に応える様に、俺は席を立ち、握手に応じた。

「は…初めまして。『サモン・オラクロ』と言います…それにこちらは『バルバラ』です…」

「ふふっ、バルバラだ…宜しく頼む」

 悪い人では無さそうだが…

 突然の訪問に、困惑している俺達など、意に介さず、店内に居合わせた客達は、みな歎声たんせいを漏らした。

――おい…聞いたか?――

――あぁ、あの姉妹…この国随一の名召喚士だぞ…それにオラクロって言うのも聞いた事がある…――

――俺もだ…それにしても、姉妹揃ってかなりの美人だな…流石は『召喚姫』と言われるだけある…――

召喚士?
一体この国の召喚士が、俺に何の用だろうか…

「ふっ…貴方の手首の紋章…やはり噂は本当でしたのね…」

握手を交わした瞬間に見られたのか…?

「…一体…俺に何の用ですか?」

「ふっ、いえ…名門オラクロ家の方に、是非ともお会いしたかった…ただそれだけの事です…それに――」

 そう言う姉は、薄い笑みで俺に微笑み掛けた。
困惑を隠せない俺に対し、姉は言葉を紡ぐ。

――流石は私達と同族…その髪の色、素敵ですわね…――
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