最弱召喚士:練習で召喚したら出て来たのは『魔王』でした

もかめ

文字の大きさ
上 下
74 / 91
第五章:「大陸到着」

第71話 「落とし穴の持ち主」

しおりを挟む
 穴に落ちた俺は見上げて悩んだ。

どうしたら抜け出れるだろうか。
自力で抜けれない事も無いが、相当厳しいだろう。

手を伸ばしても僅かに縁まで届かない。
少し飛んで掴んでみるものの、縁にある葉っぱで手が滑ってしまう。

するとバルバラの声が聞こえて来た。

「サモン!大丈夫か!?」

俺は大声を出して自分の居場所を伝えた。
駆け寄ってくる足音が次第に大きくなり、穴の上から俺を見下ろしている。

「ふふっ、凄い所に隠れたな?」

バルバラは俺を見下ろしながら、笑っている。
失礼だと思ったのか我慢をしているが、堪えきれないのか声が漏れている。

「何か俺を引き上げれる様なものは無いか?」

「ちょっと待っててくれ」

そう言うと、辺りをキョロキョロとして探しに行った。

もし、引き上げれる物が見つからなければどうしようか…
仮に見つからなければ…召喚をして担いで貰おうか?
いや、良く考えればそんな広さは無い。
仮に召喚をしても、狭い為に逆に苦労するだろう。

それにしてもどうしてこんな所に穴が…
いや、足元を良く見ていなかった俺に『落ち度』がある。

(ここはバルバラだけが頼りか…)

それにしても一体何処まで探しに行ったのだろうか。

見上げれば空は暗くなっており、元来暗い穴の中は、より一層闇が深くなり恐怖を感じる。

何れ戻って来るのは分かっているのだが、中々に待っている時間は長く感じるものだ。
恐怖と焦燥が入り混じり、落ち着かない。

いや、むしろ落ち着くのは難しいだろう。
外の景色と言えば空しか見えず、木の葉の音や風の音で過敏に反応をしてしまう。

すると、足音が聞こえて来た。

(やっと来てくれた…)

顔すらまだ分からないと言うのに、その足音だけで俺は安堵してため息をついてしまった。
次第に大きくなってゆく足音に、合わせる様に俺は穴から見上げた。

「さて…ここはどうかな…?」

呟く様に言った独り言は『バルバラの声』では無かった。
声からするに女性と言う事は分かるが、バルバラとは違う。

俺の抱いていた安堵は、得体の知れぬ恐怖へと変わって行った。
次第に額から汗が流れていくのが分かった。
それは穴から出ようとして『足搔いた』せいもあるだろう。
だが、今では違う汗だ。

一歩づつ俺の居る方へと近づいて来るのが分かった。
地面に落ちている葉っぱを踏みしめる音が、こんなにも怖く感じるなど思っても居なかった。

俺は念の為、腕をかざそうとしたがやはり狭いために、上手く行かない…

もしもの為に…

俺は懐に差している短刀に手を掛けた。

仮に良からぬ輩が覗き込んでも、届かないかも知れない。
立っている状態で覗かれたなら余計にだ…

だが、今はそんな事を考えても埒が明かない。

俺は僅かな『期待』に縋り付いた。

そしてとうとう穴の所で足音は止んだ。
『影』は俺の穴を覗き込んでいる。

人の形は辛うじて分かるが、俺からすれば顔すら見えない状況が不気味だ。
それと共に柄を握る手に力が入った。

しばらくお互い見つめ合うように固まった。

「えっ!?」

覗き込む『影』はそんな声を上げたのも束の間、すぐさま俺の視界から去って行った。

思っても居ない言葉で俺は驚き、咄嗟に短刀を抜いたが、姿が見えなくなって行ったのと遠のく足音で、
短刀を仕舞った。

一体何だったのだろうか…

俺はしばらく困惑してしまった。
だが、悪い者では無さそうで良かった。

そんな事を思い、胸を撫で下ろした。

すると聞き慣れた声が聞こえた。

「サモン!来たぞ!」

バルバラの声に安心してしまい、今まで緊張していた為か、一気に疲れが出てしまった。
そんな事を考えて居たら『何かが』投げ入れられた。
投げ入れられたのは、一本の太い蔦だ。

とても見るからに丈夫そうだ。

「上がって来てくれ」

俺は蔦を何回か引っ張り安全を確かめて、上り始めた。

何とか足を踏ん張らせ、一歩づつ上って行く。
上り終えた俺は、ローブを払い汚れを落とした。

自然と視線が、蔦が結んである所にいく。
蔦は俺がした木に結んであった。

「ありがとう、助かったよ」

「ふふっ、良いんだ」

そう言うとバルバラは俺の肩に付いていた汚れを手で払った。

もしあれが、一人ならどうなっていただろうか?
考えただけでも恐ろしい。

「ふふっ、それに…とても面白かったぞ?」

バルバラの言葉で自分が穴に落ちた事を改めて思い返し、恥ずかしくなってしまった。

「ふふっ、だがサモンが無事で良かった。怪我は無いか?」

そう言うバルバラも安心しきった表情を浮かべた。

「あぁ、怪我はない。だが次からはな場所でしないといけないな?」

その言葉にバルバラは笑っている。

「ふふっ、そうだな?次もサモンからか?」

「もちろんだ」

「ふふっ、だが見つかってしまったな?」

確かにそうだが…予期しない出来事に見舞われたんだ。
自分に非があるとは言え、大目に見て欲しい。
だが、今回は見つけてくれて良かった。

「今のは少し大目に見て欲しい。でも…見付けてくれてありがとう。だが…まさか穴に落ちるなんて…」

バルバラは気にするなと言わんばかりに首を微かに振った。

「ふふっ、仕方が無い、今回のは無しだな?」

俺はその言葉に素直に嬉しく思った。
二回連続で見つかったとなれば、一回目で抱いた感情よりはるかに悔しく思うだろう。

「ありがとう」

「ふふっ、良いんだ」

すると遠くの方から何やら『木』を照らす仄明ほのあかりが見えて来た。

先程の奴だろうか?

俺は咄嗟に腕を伸ばした。
そんな行動にバルバラも同じく腕を伸ばすと、俺に聞いて来た。

「何かあったのか?」

「いや、俺が落ちた時、穴を覗きに来ていた者が居たんだ」

「ふふっ、そうだったのか。もしかして『先程の奴』か?」

「いや、分からない…顔は見えなかった」

徐々に仄明かりは俺達に近付いてくる。

近付くと共に足音も大きくなってゆく。

「大丈夫ですかー!?」

声は足音の方から聞こえる。
声も先程と一緒だ。

気に掛けてくれる言葉で、どうやら悪者ではない事が分かった為、俺達は腕を下した。

近付く事で、はっきりとその姿が分かった。
間近で見るとかなり整った顔立ちの少女だ、背中に弓矢を担いでいるのが分かる。
それに俺を助けようと思ったのか、肩からはたすき掛けの様にロープをかけている。

腰に付けていたのは、仄明かりの「ランプ」だ。

女性は俺の方に寄ると、怪我をしていないか一通り確認をした。
そして、俺に謝って来たが、別に彼女が悪いのではない。
足元の確認が疎かになってしまった俺が悪いんだ。

「でもびっくりしましたよ!罠を覗いたら『人』が居たんですもの」

「罠?と言う事は?」

「はい!私はこの辺りで狩りをしている狩人の『ラーザ』と言います」

そうだったのか。
確かに狩人ならあの穴にも理解できる。

だが、どうして俺の事が分かったんだ?
仮に見えたとして、輪郭だけで、はっきりと分からないだろう。

「どうして分かったんですか?」

「えへへっ…狩人は『夜目』が効きますから」

そう言うとラーザは自慢げな表情を浮かべた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

婚約破棄を成立させた侯爵令嬢~自己陶酔の勘違い~

鷲原ほの
ファンタジー
侯爵令嬢マリアベル・フロージニス主催のお茶会に咲いた婚約破棄騒動。 浅慮な婚約者が婚約破棄を突き付けるところから喜劇の物語は動き出す。 『完結』

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。

底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜

ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。 同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。 そこでウィルが悩みに悩んだ結果―― 自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。 この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。 【一話1000文字ほどで読めるようにしています】 召喚する話には、タイトルに☆が入っています。

処理中です...