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第五章:「大陸到着」

第70話 「休息と提案」

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 迂回する様に国境沿いを歩いていると、少し熱くなってきた。

ファルシアの言っていた砂漠に近付いている…と言う事だろうか?
それにしては周りは、青々とした草も生えており、所々に綺麗な『花』も咲いている。

「ふふっ、これからどうするのだ?」

「そうだな…最初の目的だった『塔』に向かおう」

「ふふっ、分かった」

だが、当ても無くこのまま歩き続けるのも疲労が溜まってしまう…
戦いの後だと、余計に…

街があればいいのだが…いや、無ければどこか落ち着いて休める場所が良い。

「サモン?」

「どうした?」

「あそこにある花…とても綺麗だな?」

そう言って指を指した場所には、紅い一輪の花が咲いてある。
周りの花と比べ、色合いがはっきりとした濃さは、あの花だけだ。

「確かに綺麗だな?」

「ふふっ、そうだろう?」

そう言うと、道を外れてバルバラは花の方に近付いて行った。

花の前にしゃがみ込むと、じっくりと眺め始めた。

「ふふっ、とても綺麗だ」

呟く様に話すと、花びらを優しく指で撫でた。
水が残っていたのか、撫でると共に水滴が落ちた。

水滴は太陽の光を反射して、地面に落ちるとゆっくりと染み込んでゆく。

「確かにとても綺麗だな…」

とても穏やかに花に微笑むと俺の方を向き直して言った。

「ここで少し休むのも良いと思わないか?」

そうだな。
このまま歩き続けるより少し休んだ方が良いだろう。
それに、人もあまり来る様な雰囲気も感じられない。

「そうだな?休もうか」

俺は地面に座り込み、鞄を下ろした。
バルバラも座り込むと、そのまま仰向けになった。

丁度俺達の間には、先程の綺麗な花がある。

バルバラは頭が痛くないのだろうか?
草の上で横になっているとは言え、辛いだろう。

俺はそんな事が気になり、本を取り出して、鞄をバルバラに渡そうとした。

「これを枕替わりに…」

既に寝てしまっている。

(それだけ疲れているのか…)

俺は鞄を払い汚れを落とし、そっとバルバラの頭を持ち上げる様にして、鞄を枕替わりにした。

「…ふふっ…」

本当に寝ているのだろうか?
だが、しっかりと瞼は閉じている。

そんな事を思いつつ、取り出した本を読み始めた。

暫く読むと、俺も眠くなってきた。

俺は本を閉じ仰向けになった。
空を眺めていると、木漏れ日が美しく、爽やかな風が一層と眠気を誘った。

――――――

どれくらい寝ていたのだろうか。

不意にバルバラの方を見ると、既にバルバラも起きており、同じ様に仰向けになった状態で俺の方を見詰めている。

そんな俺達の手には、先程の花が互いの手に触れ合っている。

「ふふっ、を敷いてくれていたのか…ありがとう。寝心地がとても良かった」

「良いんだ」

そう言ってバルバラは俺に微笑み掛けた。

どうやら寝言だったみたいだな。

そんな事を思い返したのと、照れ臭さを隠す為に俺は笑いながら答えた。

気付けば辺りは夕暮れ時だ。
辺りを赤く染めゆく夕日がとても綺麗だ。

この場所で寝続けるのも悪くは無いが、やはり次第に暗くなる事を考えれば少し不安だ。

「どうしようか?」

「何がだ?」

「いや、このまま寝続けるのも良いんだが、辺りも暗くなってきて不安だ」

「そうだな…」

バルバラは暫く考えると、何か思い付いたように手を打った。

「そうだ!」

何か良い案が浮かんだのだろうか?
俺は思わず食いつく様に聞いてしまった。

「もしかして良い案が浮かんだのか?」

――『隠れんぼ』をしよう!――

いや、もはや言葉が出ない…
もしかして、あれからしまったのだろうか?

周りを見渡すと、確かに隠れる所は沢山ありそうだが…

だが、今はそれどころでは無いだろう…

「バルバラ?冗談だよな?」

「…どうしてそう思う?」

「いや…泊まる所もなく、どうしようかと悩んでいるところで、そんな事を言っている場合では無いだろう」

「ふふっ、ならでも構わないぞ…?」

そう言って舌なめずりをすると、座っている状態から四つん這いになって俺の方に迫って来た。

「わ、分かった!隠れんぼしよう!」

俺は思わず掌をバルバラに向け、の態度を見せ顔を背けた。

「ふふっ、別に私はでも良かっ「いや!隠れんぼの方が良いだろう!俺もあの時は見つけられて悔しかったからな!?」

俺は急いで立ち上がると、ローブを払った。
そんな俺の様子を見てか、バルバラは口元に手を当て笑っている。

別に俺は笑われる様な事はして無いと思うんだが…

バルバラも同じく立ち上がり、ローブを払うとこう言った。

「じゃあ、次もサモンからで良いのか?」

「もちろんだ」

そう言って俺は読んでいた本を鞄に仕舞い背負った。

「また10秒数えてくれ」

「ふふっ、もちろんだ」

そう言うとバルバラは近くの木に行き、顔を覆うと数え始めた。

俺は全速力で走った。

(あの調だと次は料理だけで済まないだろう…)

俺の予感がそう囁いた。
ここは何としても逃げ切らなくては…
始まる前は隠れる所など、沢山ありそうに思えたのだが…

実際始まると、「ここだ」と自信を持って隠れる場所がない。
いや、そうと思しき場所は見つけるものの「ここでは見つかるのでは」と言う心配が頭を過る。

そんな事を考えて居ると、少し離れた所でバルバラの声が聞こえた。

「もういいか?」

「ま、待ってくれ!」

俺は辺りを見渡した。

何としても隠れる場所を見つけないと。
だが、既に数え終えているバルバラをいつまでも待たせる訳にもいかない。

そんな事を考えて居ると、丁度良い木があった。

前の様に切り株では無く、一本の木だ。
中は腐っているのか既に無くなっており、空洞になっている。

ここなら『髪』も『ローブ』も見える事は無いだろう。
それに少し離れているとは言え、声も聞こえる。

(ここなら!)

俺はその木に急いで駆け寄って行った時。

足に何やらを感じた。
先程まで踏みしめていた筈の地面の感触が無い。

「!?」

俺は頭で理解するよりも、気付けば先に叫び声を上げていた。

「うわあぁーー!?」

自分ながら何とも情けない叫び声を上げたのも刹那、俺は地面に体を打ち付けた。

「イテテ…」

最初は何が起きたのか分からなかったが、打った箇所をさすり、辺りを見ると、一体俺に何が起きたのかすぐに理解が出来た。

――どうやら"落とし穴"に落ちた様だ――
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