最弱召喚士:練習で召喚したら出て来たのは『魔王』でした

もかめ

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第五章:「大陸到着」

第69話 「正義の悪」

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 ――彼奴ら殺せっ!!魔王であれ俺達の国を止める者など居ない!それにあのが居ない今がチャンスだ!――

「「おおぉ!!」」

少年は腰元に携えている剣を抜き、高く振り上げた。

指示を受けた大勢の兵士達は剣を抜き、雄叫びを上げ俺達に迫って来た。
その足音は地を揺らし、鎧の金属音が響き渡った。

俺達は腕を伸ばした。

思わずバルバラを見ると、目が合い俺に微笑みかけた。

そして同時に指を鳴らした。

爆音と共に宙を舞う兵士達、それと共に無数の剣も舞い上がり、粉々に折れ去った。

飛ばされた兵士達は、味方の上に降り注ぎ、身動きが取れなくなってゆく。

叫び声と呻き声が入り交じり、兵士達は為す術も無く倒れてゆく。

だが、数が多い為か。
運良く切り抜けた兵士達は、倒れている兵士を跨ぎ、俺達に迫って来た。

数が多過ぎる!

バルバラは咄嗟に、地面から熾烈な水柱を召喚した。
それは天を貫くかと思う程高く、地平線にまで届きそうな程巨大な物だ。

地面から突然現れた水柱に、足元を掬われる様に吹き飛ばされる者も居た。

――サモン!今だ――

その言葉を合図に、
俺は手をかざし、召喚をした。

地を這うように光線が走り、途中で別れるかの様に裂けた。

クラウスの時と…同じ…
いや…違う…!?

裂けた先には3の混じり合う紋章が浮かび上がり、目の前には焔黒の騎士が3体現れた。

の2体の騎士は焔を纏う剣を持っているが、俺の目の前に居る、真ん中の焔黒の騎士は違う…

の鎧を纏い、その身体と剣を包み込む様に紅紫べにむらさきの焔を纏っている。


騎士達は召喚されるや、一糸乱れぬ動きで、剣を抜き、地に向けて振り払った。

剣の振りが速い為か、焔の残像を残した。

騎士達は剣を構えると、バルバラの出した水柱を貫く様に踏み込んで行った。

両端の2体の騎士かなり速かったが、真ん中の騎士だけは目で追う事も出来なかった。

――「な、なんだ!こいつら!?」

――「今だ!やれ!」

――「 ああぁ!助けてくれ!!」

叫び声と呻き声が聞こえるが、水柱が壁となり、向こう側の様子は覗うことすら出来ない。

すると後ろから、馬のかける音と足音が聞こえて来た。

――こ、これは一体なんだ!?

その声に俺達は振り向いた。

そこに居たのは、騎士団だ。

「敵が攻めて来たと言うので、急いで来てみたら…」

そう言った騎士の一人は、俺達の後ろを驚いた表情で見つめている。

だが、その騎士団の中には最初見た、女性騎士の姿は無かった。

まさか塔で…

そんな不安に駆られた時、2人の騎士達が何やら話を始めた。

「あれだけの軍勢を…たった2人で…」

「あぁ…あの強大な力、噂の『魔王』だな」

騎士達の視線の先には先程の水柱と焔黒の騎士達は消え、見渡す限りをして動けない者達ばかりだ。

「なら…隣に居るあの”銀髪”の青年は…」

「恐らく、最近噂になっている『魔王』と共にしている『者』だろう」

――魔王と並ぶ者――

「魔王も危険だが、あの青年も…計り知れない危険性があるな…」

「ですね…これはいよいよ戦争どころでは無くなってきましたね…」

2人の騎士が話合いをしていると、その会話を遮る様に一人の男性が入って来た。

「へへ…我々の『街』を助けてくれたんですから…『あいつら』はですよ…それに今なら敵国に『侵攻』出来ますよ…」

「待て!言い伝えによると戦の時に現れ――「そんなものは遠いですよ…へへっ」

男性は、俺達が居ると言うのに声の大きさを気にせず話している為

筒抜けだ。

男性は俺達の横を通り過ぎ、を跨ごうとした時にバルバラが言い放った。

――― 一歩でも足を踏み出してみろ、貴様の足が飛ぶぞ ――――

男性はその言葉を聞き、片足を上げた状態で固まった。
追い打ちを掛けるように男性に忠告した。

「ふふっ、どうしても相手の国に侵攻するなら…が最初に相手しよう」

こちらをゆっくりと向くと、足を元に戻した。

「お、お前らは…『味方』では無いのか?」

そう言った男性の額からは汗が流れ、一滴づつ地面を濡らしてゆく。

「俺達はどちらの味方でも無い」

男性の表情は強張り、踵を返して騎士達の元へ戻って行った。

すると騎士の一人が俺達に問いかけて来た。

「お前らの目的はなんだ?」

「俺達はこの争いを止める。これ以上無抵抗な人々が戦火に飲まれ苦しむ所を見たくはない」

俺の言葉にバルバラは微笑んだ。

「戦争を止める…?気持ちはご立派だが、お前達魔王は所詮『悪』に変わらない、からそうだ…余りにも過ぎる…過ぎたる力は人に弊害をもたらしかねない」

バルバラ魔王』が危険?
それは昔から戦争を止める為に、自ら『人』に危険と思われる様にしたんだ。

全ての悪をたった一人で引き受けたんだ。

だが、今は違う。

「この戦いを止めれるなら俺は悪でも良い」

その言葉に続けて、バルバラも話を始めた。

「ふふっ、貴様らお偉いさんに伝えた方が良いぞ?」

――『魔王』が現れた、戦争をやる暇なんてないぞ――

その話を真剣な面持ちで聞き終えた騎士は、連絡兵を呼び寄せた。

「……に伝えろ

との共通の目標が見付かった。魔王がも現れた』

と」

バルバラはその言葉を聞き、俺の方に微笑みかけた。

俺も思わず微笑み返すと同時に、1つの思いが頭を過ぎった。

誰も『魔王』と言うだけで嫌悪し、バルバラの思いなど考えたりもしないのだな。

バルバラが言っていた『自分の立場』とはこの事だったのだろうか…

色々な考えが入り混じる中、俺はそんな事をただ漠然と考えていた。

「ふふっ、サモン?」

「どうした?」

「これで争いが止まる…少しでも、長く、それに出来れば繰り返して欲しくは無いものだな」

バルバラはそう言うと、俺の手を繋いだ。

「そうだな」

俺はその手を握り返した。

すると、騎士の一人が言った。

「全軍撤退!守りを固めろ!これからは魔王達との戦いになる!」

「「はい!」」

そう言うと騎士達と兵士達は、元の街に撤退して行った。
最後の兵士が、街に入るまで俺達に弓矢を構えた兵士が見張りをしている

「ふふっ、もうあの街には戻れそうにないな?」

そう言うバルバラの表情は嬉しそうだ。

「そうだな?」

俺達は街を迂回するように、国境に沿って歩き始めた。
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