67 / 91
第五章:「大陸到着」
第65話 「苦悩する最弱」
しおりを挟む未だに廃墟と化した街に彼の泣き声が木霊している。
皆がその様子を黙って見ている。
「全員……敵国の生き残りを集めろ!」
「「はい!」」
そう言って、少年の部下達は生き残っている兵士達を一列に並ばせて、座らせた。
まさか…
俺は嫌な予感が頭を過ぎったが、その予感が当たらないで欲しい…
「一体何をする気だ?」
「決まってるだろう!処刑だ!」
そう言って、少年は剣を抜き、もう既に項垂れている隊長に剣を突き付けた。
このままでは同じ悲劇が繰り返されて行くのでは無いか…?
俺は咄嗟に、少年を説得しようとした。
「やめろ。そんな事をしても、この戦争は終わらない。それに…兵士であれ、無抵抗の人間を殺すのは――」
「お前…俺達を敵に回す気か?周りを見てみろ!これはコイツらが、お前が忌み嫌う行動の結果だぞ!無抵抗の人間を殺したんだぞ!!処刑して当たり前では無いか!?…冷静になれ…今なら間に合う…俺達の国の為に仕えないか…?」
復讐をしたい気持ちは痛い程分かる…
確かにこの兵士達がしたのは、惨たらしい。
もし、逆の立場なら…
色々な思いが頭の中を駆け巡り、それぞれに答えを見い出せない。
一体正解はなんだ?
復讐する事か…?
だが、ここで彼らを殺したところで解決にはならないのでは……
根本的な解決をするにはどうしたら良いんだ…
それにここで敵を殺したからと言ってこの戦いは終わる訳では…
かと言って…俺はどちらの国の味方で、どちらの国の敵という訳では無い。
色々な考えが巡り、それに頭を悩ませる。
だが、その中でも一つだけ思う事はあった。
この戦争を止める事が出来れば。
そんな事を思っていた。
少年は俺の思いなど知る由もなく、剣を天高く振り上げた。
俺はその様子に、咄嗟に手をかざし召喚した。
再び焔黒の騎士は現れると、少年の剣を弾き飛ばした。
「!?」
少年はいつの間にか、握っていた剣が無くなっている事に驚いた表情を見せた。
――貴様っ!
――何をするんだ!正気なのか!?
部下の兵士達は、俺の取った行動に怒りを顕にした。
「お前…気は確かなのか!?」
「俺はどちらの敵でも味方でも無い…」
そんな時…バルバラが俺を遮る様に、少年に近寄って言った。
「ふふっ、どうしてもこの兵士達を処刑する――と言うのなら…」
『魔王である私が相手しよう』
その言葉に、みな絶句した。
沈黙が暫く続いた後に老人が呟く様に話し始めた。
――彼女の来ているローブの紋章…もしかしてとは思っては居たが…あの話は本当だったのか…――
その言葉に少年は、怒りを交えながら聞いた。
「なんだその話はっ!?」
――大昔だ…戦火の度に魔王が現れ、お互いの国の戦を止めると…
その言葉に、バルバラは微笑んだ。
「ふふっ、そうだ…それに私だけでは無い…サモンも居る」
そう言って、バルバラは俺の方を見て微笑んだ。
その微笑みはまるで、俺が先程抱いていた気持ちを見透かしている様に。
その言葉に少年は舌打ちをした。
「全員かかれ!!どちらでも良い!やれ!」
その掛け声と共に、生存者を探していた兵士達は、手を止め、剣を抜いた。
「何をするのですか!即刻命令の撤回をっ!勝てるはずがありません!それに彼らの言っている事も分かるでしょう!敵国との和平交渉も――」
そう言って老人は少年の前に立った。
「五月蝿い!黙れっ!!」
そう言うと腕を上げると老人の頬を叩いた。
少年の行動に俺達は呆気に取られてしまった。
老人は頬を抑えて、倒れる様に座り込んでしまった。
――この戦争を終わらせるのは貴様ら『魔王』などでは無い!我らオルドヌング帝国だ!『和平』では無い!『勝利』だ!!――
彼の言葉に兵士達は襲い掛かってきた。
焔黒の騎士は、剣を構え直し、迫り来る兵士達の中に踏み込んだ。
騎士は一瞬で、兵士達を突き抜ける様にしたのも刹那。
兵士達が握っていた剣は、宙を舞い。
それぞれが地面に深く突き刺さり。
兵士達は力無く、地に伏していった。
少年は驚きの表情を浮かべたが、すぐさま怒りを顕にした。
「この国に敵対するものは全て殺す!例え魔王でも…!」
そう言って、弾かれた剣を手に取った。
「おやめください!」
「黙れ!」
老人の言葉に耳を貸すことなく、騎士に向かっていった。
騎士は構えるだけで、微動だにしない。
それはまるで、彼を待ち受けるかの様だ。
少年は近寄り、騎士に剣を振り上げた瞬間、少年の動きは止まった。
顔は恐怖を浮かべ、額から汗が流れ、身体全体が震えている。
後ろで見ていた老人も同じく怯えている。
少年は振り上げていた剣を下ろすと、その場にへたり込んだ。
騎士は剣を振り払い、鞘に収めると俺達の方を向き直した。
兜から覗かせるその瞳には、両目とも焔が立ち上っている。
騎士は俺達の方へ歩み寄った。
間近で見たその瞳の中には、片目には『オラクロ家』の紋章と、もう一方の片目に『バルバラ』の紋章が刻まれていた。
そして騎士は頷いた。
まるで、「みな殺してはいない、安心してくれ」と言わんばかりに。
その後、騎士はその姿を消して行った。
俺は老人の元へと歩いて行った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとう…」
俺は手を差し伸べ身体を引き起こした。
老人は一呼吸すると、俺達の方を見据えて話し始めた。
「こんな事を言うのも畏れ多いですが、私からお願いがあります」
老人はまた深呼吸をすると、ゆっくりと話し始めた。
「魔王様達の力を持ってこの戦争を止めて下さい。争いのせいで、民の命も兵の命も奪われた…家族を失い、愛しき人を失い…」
そう言って、老人は俺の手を握った。
「ふふっ、サモン?どうする?」
もうあの様に人が悲しむ姿も見たくない。
彼はずっと、弟の亡骸を抱き締めている。
「バルバラ…この戦争を止めるにはどうしたら良いんだ?」
「ふふっ、簡単だ」
「両方の国にとって『悪』になるんだ」
俺は驚きのあまり、聞き直してしまった。
「あ、悪だって!?」
「ふふっ、誤解するな。戦争と言うものは相手を敵と見なすところから始まる…私達が、互いの国から見て『悪』と思われれば良いんだ…」
言っている事は分かるが…
そんな…実際にそんなに上手くいくのだろうか?
本当に戦争は終わるのだろうか?
「――上手くいくのか?」
その言葉に、バルバラは俺の顔を見て微笑んだ。
「ふふっ、敵の敵は味方と言うだろう?それに――」
――『私は『魔王』だぞ?』――
その言葉がとても頼もしく思えた。
そして手を握る老人の方を向き直して答えた。
――この戦争を止めてみせます――
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる