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第五章:「大陸到着」
第64話 「戦いと悲壮」
しおりを挟む俺達の言葉に、兵士達は震える事しか出来ない。
――――ま、まさか魔王が…
――――もう無理だ…死ぬんだ!全員死ぬんだっ!!
「全員臆するなッ!」
そんな隊長の声も届かず、その場で剣を捨て逃げ去る者や、戦意消失をして膝を付き項垂れる者も居る。
――――ま、魔王は無理でも男の方ならいけるはずだ!
「隊長!な、なにを言っているんですか!今の見たでしょう!?逃げましょう!!」
既に部隊の統率は取れておらず、中には逃げようとした者を掴み、その場で説得する者まで現れている。
「ええい!もう良い!!貴様らが行かぬなら俺が行く!!」
そう言うと彼は剣を捨て、予備の短刀を懐から取り出した。
雄たけびと共に俺に迫ってきている。
その表情は殺気立たせてはいるが、近付くにつれて殺気から諦めた表情になっていく。
俺はそんな彼に対して、いつもの召喚を行った。
混じり合った紋章が浮かび、焔黒の騎士が現れた。
その姿を見た瞬間足を止め、焔黒の騎士を見つめている。
完全に諦めたのか、微動だにしないまま持っていた短刀を地面に落とした。
「う、嘘だろ…」
彼はそんな言葉を呟くと、手を地面に付いた。
唯一振り絞った勇気さえも、彼からしたら異形の存在の焔黒の騎士を目の前にして、打ち砕かれたのだろう。
「隊長!!クソっ!全員退却しろ!!」
「副隊長は!?」
「一矢報いてやるっ!!」
そう言うと、彼は折れた剣を俺に投げつけた。
剣は回転しながら放物線を描き、俺の目の前に来た瞬間。
一筋の線が走った。
その直後、宙を舞っていた剣は鍔の部分から柄に掛けて真っ二つになっていた。
剣だったものは俺の両頬を掠めると、後ろに落ちた音がした。
隣を見ると、焔黒の騎士はいつの間にか剣を抜き、腕を俺の方へ横に伸ばした状態だった。
その手には燃え盛る剣が握られている。
騎士は背中越しに顔を俺に向けた。
(やれ!だが殺すな)
騎士は静かに前を向き直し、剣を地面に向けて振り払い。
そしてゆっくりと、剣先を『副隊長』に向けた。
「ひっ!く、くそ!舐めやがってぇ!」
隊長と同じく懐から短刀を取り出すと、今度は俺では無く焔黒の騎士に向かって行った。
騎士もその姿を見て、足を引き、一気に間合いを詰めた。
その速さは辛うじて、目で追う事が出来た。
間合いを詰めたのも刹那、すれ違う様に互いの動きは止まった。
副隊長は、おぼつかない足取りで再び歩き始めたが、俺の目の前まで来るとそのまま力尽き、地に伏せた。
「ふ、副隊長…!」
そんな言葉を発したのは、腰が抜けている兵士だ。
焔黒の騎士は剣を振り払い、鞘に収めた瞬間。
腰の抜けている兵士の足元に、副隊長の短刀が突き刺さった。
「あ…あ…」
彼は地面に突き刺さった短刀を見つめたまま、震える事しか出来ない。
焔黒の騎士はそんな彼の方へゆっくりと視線を向けた。
「あ…あ…うわあぁぁ!」
叫び声あげ、おぼつかない足取りで必死に逃げて行った。
その声に触発され、まだその場に残って居た兵士達は我先にと、急いで俺達の前から去って行った。
焔黒の騎士は俺の方を向くと、静かにその姿を消して行った。
俺は副隊長の元に、近付き。
彼の傷を確認した。
首元に剣の側面の様な跡が入り、所々火傷の様な傷もあった。
しっかりと見る事は出来なかったが、恐らくあの速さで焔黒の騎士は剣を弾き、平打ちを食らわしたのだろう。
俺は彼が息をしているのを確認すると、未だに俺達の後ろで怯えている、少年の方に向かった。
少年も、近寄る俺達に怯えている。
――――ひっ!ご、ごめんなさい!命だけは!
そう言って彼は頭を庇うようにして、顔を背けた。
「大丈夫か?」
「…えっ…」
彼は涙を流しながら、俺の顔を見ている。
俺はそんな彼に手を差し伸べた。
間近で見たら酷い怪我だ…
「怖かっただろう?立てるか?」
「は、はい…」
彼は俺の手を掴み、そしてゆっくりと立ち上がった。
「あ、ありがとうございます…」
「いや、良いんだ」
どうしても彼を救いたかった。
こんなにも、傷付いている彼を容赦なく一方的に加虐するなど…
――俺の気持ちが許せなかった――
バルバラはそんな俺の姿を見ると、思い出した様に未だに地面に手を付き、
項垂れている隊長の元へと歩いて行った。
隊長は、歩み寄るバルバラに顔を上げた。
そしてバルバラは目線を合わせるようにしゃがみ込み。
「ふふっ、貴様の上官に伝えろ」
――『魔王が現れた』とな?――
そんなバルバラの言葉に、彼は黙ってバルバラの目を見つめる事しか出来ない。
そして返事をする代わりに、力なく静かに頷いた。
すると後ろから、複数の馬が駆ける音が聞こえた。
その音は、次第に近付くにつれて、地面から振動を感じると共に街中に響き渡った。
音は俺達のすぐ近くで止むと、一つの声が聞こえた。
「こ、これは…」
その声色から驚きを隠せないのが伺えた。
俺達は声の方を向くと、そこには馬に乗っているあの時の少年と老人が居た。
――――みな生存者を探せ!!
――――「「はい!!」」
その言葉に、部下達は馬から降りると、一様に瓦礫を退け、周辺に居る生存者を探し始めた。
俺は少年を兵士に預けた。
介抱される様に、兵士に肩を支えられて行く少年は、俺の方を最後まで見続けていた。
そんな少年に答える様に、俺は手を振った。
――――そんなあぁぁ!!
突然、この場に居る全員の鼓膜を破る程の声が聞こえた。
そこに居たのは、写真を握っていた兵士の頭を抱き寄せている一人の兵士だ。
俺はその兵士に駆け寄った。
「こ、こいつは俺の――弟なんですっ…!!」
そう言った兵士の表情は、涙で頬を濡らしている。
「アロイスは…家族思いでした…兵士になったのも家族を守る為だと…」
そう言って、冷たくなったアロイスの頭を撫でた。
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俺はその話を黙って聞き入る事しか出来なかった。
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親しい人が亡くなっても想像を絶する程辛いだろう。
それが兄弟ともなれば…
俺はポケットから握っていた写真を手渡した。
「彼が握っていました…まるで守る様に…」
受け取った兄は、写真を見て大泣きをすると再び抱き寄せた。
「お前は世界で一番家族思いで勇敢な男だ!!俺の…自慢の弟だ!」
そう言って兄が握っている写真の裏面にはこう書かれていた。
――アーベル、みっともないお父さんでごめんな。エラ、あまり傍に居る事が出来なくて済まない。2人共愛している。
アロイスより――
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